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クトゥルフ神話TRPGにおける‹鍵開け›

 先日、動画に( https://youtu.be/gF7YrwqegAY )にあげたけど、より詳しい‹鍵開け›について解説をするよ!


Call of Cthulhu 1st edにおける鍵の開け方


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(画像は2nd edのものである)

 動画でも説明したように、1981年にクトゥルフ神話TRPGの初版はケイオシアムから発売された。このクトゥルフ神話TRPGと言うRPGは元々ルーン・クエストのサプリメントとして開発してる所に、デザイナーのサンディー・ピーターセンが突撃をし、その結果、別のRPGとしてリン・ウィルスの協力の基、出来上がったモノだ。ここら辺の詳しい解説はまた別の機会にするとして、このとき出来上がったクトゥルフ神話TRPGには鍵を開けることのみの技能は存在しない。鍵開けが可能な技能は動画でもあるように‹機械修理›Machine Repairのみである。


‹錠前師›の登場

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 クトゥルフ神話TRPGで初めて鍵開けのみの技能が登場したのは、基本ルールブック2nd edが発売された1983年発売のCthulhu Companionだ。本書は4本のシナリオの他に様々なデータが掲載されている。このデータの多くは、ケイオシアム社の自社雑誌であるDifferent Worldsから再録されたものやそれを介してケイオシアム社に提案が送られてきたものである。
 本書が発売される直前に出版された Different Worlds, Issue 30により、商業デビューを果たしたキース・ハーバー氏の提案したデータも本書に掲載されており、その一つこそがLock Pick(Locksmith)である。
 この技能は後の日本で1987年に発売されるクトゥルフ・コンパニオン(これはコンパニオンの内容だけでなくFragments of Fearの内容も含まれており、ここでは〈錠をこじあける〉別名で‹錠前師›と訳されている。
 動画でも述べたように、この‹錠をこじあける›技能の定義は後の‹鍵開け›の定義そのものであり、このキース・ハーバー氏が‹鍵開け›を提唱したと言える。しかし、〈錠をこじあける〉と〈錠前師〉は同一の技能であり、今の様に別の技能とはされていなかった。


TOME社の鍵開け

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 そんな、〈錠をこじあける〉と〈錠前師〉の登場したのと同年にケイオシアムはとある行動にでる。クトゥルフ神話TRPGのライセンスの一部を他の会社に委託したのだ。その会社こそTheatre of the Mind Enterprises、通称TOME社である。TOMEはクトゥルフ神話TRPGにおける初めてのライセンシーであり、5本のサプリを出す事になる。
 1984年、そんなTOME社の4本目のサプリWhispers from the Abyss and Other Tales収録の「De Schip Zonder Schaduw」と言うシナリオに泥棒探索者の作成ルールが掲載される。このルールは泥棒探索者と言っているだけあり、犯罪に関わる細かな職業と技能が追加されている。
 そこで、提案されていたのがPick Key lock、Pickig Combination LockとVault Entryの三つの技能である。

Pick Key lock: As the catagory implies, the individual can defeat this type of lock. A skill level of 15% allows attempts to attack sprung latches sucessfully. Higher skill levels allow attacks on the tumblers. Levels above 25% allow ski lis to be added cumulatively (per turn), making it a matter of time.

ざっと訳してみると、簡単な鍵を抉じ開ける技能であり、一定以上の技能値で時間を掛ければタンブラー錠も開けられると言ったものだ。

Picking Combination Lock: Combination locks are quite a different matter from key locks. Time and patience are needed to discover their secrets. Combination locks have a numerical difficulty factor which acts to reduce the ease with which they may be defeated. Divide the Skill Factor by the Difficulty Factor to determine the effective percentage for success on each tumbler. This simulates the time needed to crack the safe, setting each tumbler in succession. Fumbles jumble the tumblers.

次にPicking Combination Lock。これもざっと要約すると、技能値とタンブラー錠の開けにくさを除算して、成功率が決定される。鍵開けにどれくらいの時間が掛かるか分かる技能だ。
 Pick Key Lockと別技能と書いているが、時間を掛ければタンブラー錠を開けられるのと技能値と難易度から成功率を求める技能、タンブラー錠を開けられると言う結果からすれば大差ない様に感じる。また、鍵を開けるのに時間と忍耐が必要ならばPick Key Lockを極振りした方が効率が良いなどの技能の差異が感じられない問題点がある。

Vault Entry:Timelocks and other advanced systems rendered the safecrack.er somewhat obsolete, until more technical methods of dealing with such devices were developed. Typical tools employed to gain entry into vaults protected by the aforementioned systems are hand drills, oxyacetylene torches, chisels, hammers and the nitroglycerine (home-made and somewhat touchy). Fumbles with all but the latter will be evenly distributed between tool damage and physical injury. A fumble with nitro is very permanent.

 最後にVault Entry、要約するとより高度な鍵を開けられる……ゴリ押しで……。書いてある定義はさておき、この技能は他の2つと明らかに違う技能となっている。薬品や工具を用いるのに個別技能ではなく、鍵開けに関しては統一して技能を振れるのだから、ゴリ押しの方法としては今の環境でも有用な技能ではなかろうか?(ただし、ニトロを用いたファンブルは死ぬ)。

抉じ開け技能の発案はまさかの日本公式!?

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 1990年、既に1986年に日本、ホビージャパンはケイオシアムからライセンスを獲得し基本ルールブック(2.5版)を発売し、日本初にして2019年現在に於いて唯一の長編CP黄昏の天使も発売した後のこと、クトゥルフ・ワールドツアーが発売された。本書は後に発売されるクトゥルフ・ナウのリプレイと中世日本クトゥルフ、ハイパーボレアクトゥルフ、ガスライトリプレイ、現代日本シナリオを掲載している。
 この中でクトゥルフ・ハイパーボレアにとある技能が初登場する。 それが〈錠開け〉である。この〈錠開け〉で初めて“鍵のかけられた錠前をこじあける技能”とこじあけのみ対応である事が明記されたのである!
 つまり、以前の〈錠をこじあける〉の様にLock PickとLocksmithの混合でなくLock Pickのみの対応となったのだ。
 そして、この技能こそが世界で初めてLock PickとLocksmithを分けた技能となったのだ。

鍵開け技能の基本ルール入りと変化の終わり

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 1992年、クトゥルフ神話TRPGの5版ルールブックが発売される。この版のルールブックにてLocksmithは基本ルールブック掲載の技能へと昇華される。その技能定義は今日の6版、7版と同様のモノである。そしてLock Pickは掲載されず初版と同じくMachine Repairが抉じ開けの技能と言う事となった。

Lock PickとLocksmithの両立した基本ルルブ

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 クトゥルフ神話TRPGのルールは一見複雑そうに見えて、実際は深淵を覗くくらい複雑怪奇。1997年、Pagan PublishingからDelta Greenが発売される。当時のDGは現在の派生TRPGと言う立ち位置のアークドリームのモノと違い、クトゥルフ神話TRPGのサプリメントと言う扱いであり、そのまま遊べる仕様になっている。
 このルールブックの中の技能定義にはLock PickとLocksmithは両立していないのだが、キャラクターシートに突如としてこの二つの技能が表れる。この二つの技能定義は本書には記されていないのだから正確な効果は分からないが、抉じ開けと鍵開けの二つが両立していたと言える。

まとめ

 これまでがクトゥルフ神話TRPGにおける鍵開けの歴史だよ!元々はYSDCの技能の遍歴資料にDGの基本技能にLock Pickが抜けていたり、Locksmithの生まれが5版からになっていた間違いに気が付いたからこの記事を書いたよ!
 最後におまけ的な資料を解説しておくね!

おまけ

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2008年に発売されたA Cthulhian Miscellany、本書はクトゥルフ神話TRPGで使用可能な様々なデータ提案を詰め合わせたサプリとなっている。このサプリのなかにSafecrashと言う技能がある。簡単に説明すると高度な鍵は無理だが簡単な鍵なら専門の道具を扱い開ける事の出来る技能だ。この要約だけでも分かる通り、抉じ開けと鍵開けの間に当たる技能である。
 レヴューでも言われているが、鍵開けで十分だし、抉じ開けるなら機械修理を取ればよいと完全な死に技能となった。元々、本書は1988年に本書籍の著者の一人であるウィリアム・A・バートンのシナリオ「Return of the Ripper」の補足サプリとして出す予定であったが、Return of the Ripperが発売されたのは2007年と予定が押されに押された結果、時代遅れの技能が掲載されることになった。と言うのも1988年当時は3版(動画だと4版になってました4版は1989年発売です)では5.6版に至るまでに技能の必要以上の細分化が行われており、無尽蔵に技能が増えて行った時代でもあった。そのためか既にまとまった鍵開け技能を意味の無い細分化するこのSafecrashが追加されたと思われる。

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参考資料

Call of Cthulhu 1st ed及び5th ed、6th ed、7th ed Chaosium
Cthulhu Companion Chaosium 
Different Worlds #30 #31  Chaosium
Whispers from the Abyss and Other Tales収録「De Schip Zonder Schaduw」 TOME
Cthulhu World Tour掲載「クトゥルフ・ハイパーボレア」 HOBBY JAPAN
Delta Green Pagan Publishing
A Cthulhian Miscellany Chaosium

Call of Cthulhu is copyright (C)

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