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蛇腹⑥



子供の頃からいたずら好きだった。大人になってもその癖は抜けず、未だにトラップを仕掛けて同僚らを翻弄させるのを楽しんでいる。
ただ、最も虚しいのはそれに対して反応がないことだ。もちろんそれはいたずらに限った事ではないのだが…

それを知っている僕は、今まさに直面している、この女からの仕打ちにも無視を決め込んだ。

尚も女の手はねっとりとした動きのまま徐々に下腹部との距離を縮めてゆき、ついにズボンのファスナーに指が触れる。

「…で、その役員、どうなったんですか?」

赤べこが頭を揺らすように無気力な相槌を打ち続けていたが、一転して質問での切り返しを試みる。たが怯む様子はなくむしろ女のやる気に火をつけてしまったようだ。

あれよあれよという間に僕の愚息は文字通り白日の元に晒されてしまった。
女は、さっきの問いへの答えよと言わんばかりの視線を僕に向けた。

それは女の手の動きにも共通した、ねっとりしたものだった。視線を触覚として感じた初めての瞬間であった。
【直視したら殺られる】
まるで山中で熊と対峙したかのようだ。

口許はかすかに微笑んだかのようにも見えた。

辛うじて愚息は反応しなかったが、心拍は明らかに上昇し、狭い座席で密着していると、それが伝わってしまうのではないかと畏れた。

「なにを心配しているのよ?」
僕の思惑はすべからく漏れ、すでに女の手の上で転がされていた。

「何も考えなくていいのよ。ほら、回りを見て…」

自動音声が途切れ途切れのアナウンスを繰り返していた。

…つづく

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