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暑さを塗りかえる夏の記憶

暑い。ものすごく暑い。

この3日間、熱波に襲われたヨーロッパ。死ぬほど暑い日なんて年に数えるほどだから、ほとんどの家庭はクーラーを持っていない。

昨年の夏も猛暑で滅入ってしまったのだけれど、人々が「今までで最高の夏だったよ!」なんて言うのに目を丸くした。今年のこの暑さの最高具合はどれくらいなのだろうか。

夕方外に出てみると、むわっとした空気に全身が取り囲まれて、ああ日本の夏みたい、なんてちょっとノスタルジックになる。

きっと日本の夏もこれぐらい暑くて憂いたことがあるはずなのだけど、不思議なものでノスタルジックな夏の記憶は、うだる暑さで刺す嫌気より、夏に起こった出来事の楽しさが先行する。

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キャンプにフェスに、暑さと湿度を振り払うために飲むビール。

上京して社会人になってから覚えた夏の楽しみ方だ。

初めて行ったキャンプは水上だった。楽しみで仕方なくて、仕事の外出中もキャンプのことで頭がいっぱいで、「そうだサングリア作ろう!」と思い立って、帰社間際にホームセンターでサングリア用のポットを買った。

現にキャンプも最高で、東京から水上までの早朝のドライブ、テント張り、バーベキューに音楽。原っぱで思いっきり遊んで笑って、食べて飲んで。日常を離れているからだけじゃなく、良いお天気の下で自分が自然体でいれるのが何より嬉しかった。

初めて行ったフェスはサマーソニック。ライブにもあまり行ったことがなく、クラブにも全く行ったことがなく、その、リズムに合わせて「ノる」という行為が羞恥心を捨ててできるものなのか、行く前は不安だった。

けれども、その心配は見事に杞憂に終わった。会場の熱気とそこに巻き起こる音楽は、自然と私の体を乗っ取った。
これを楽しみに生きているんだろうな、と思わせるほどノリにノッている人々は、見ているだけで生命力を分けてもらえる気がした。

会社帰りに飲みに行って頼む、とりあえずビール、の一杯。多分に漏れずお酒が飲めるようになって数年は、ビールの苦さについていけず、最初の乾杯だけビールを一口ちびっとすすり、あとはカクテルと梅酒ばかりオーダーする客だった。

それが社会人になってしばらくして、いきなりのどごしがわかるようになり、夏の暑さと湿気にまみれながらのビールが最高!とまで言えるようになった。

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なんで暑かった事実より、楽しかったことの方が鮮明に覚えているんだろう。「暑い暑い」と毎日思い、それを口にもしている時間の方が圧倒的に多いはずなのに。

夏と言われて連想する言葉は、「暑い」の次に「楽しい」が来てもおかしくない気がする。「楽しい」の主語は、春夏秋冬の中で夏が一番しっくりくる。

夏は出来事を、思い出を、彩るパワーを持っている。

今年のこの灼熱の日々を塗りかえる夏の記憶は何になるのだろうか。

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