見出し画像

美しい街

景色が美しい街に住んでいた。

どこを切り取っても絵になるおとぎ話の中のような街。
その景色を求めて春夏秋冬人々が行き交う。

だけれど、その街に最初に足を踏み入れた時のパッと目を見開くような感動は、そこで暮らす時間とともに薄れていき、美しいの街に住んでいるという事実は、いつしか自分の日常の中に溶け込んで消えていった。

いつだったか、ふと毎日のルーティーンに息が詰まって、普段は行かない市街地まで散歩へ出た。

相変わらず人で溢れている。そして当たり前だけど、最初の日に息を飲んだ同じ景色が今もそのまま佇んでいた。

改めて、人々を魅了している街を眺めて思う。やっぱりこの街は美しい。

それと同時に、ここでスタートを切ったあの時の気持ちをもう一度思い出す。

すーっと深呼吸をして、今湧き上がっている感情を身体の中に溜め込む。そしてふたをする。これでまたしばらくは生きていけそう。

そう、「美しい」はいつだってプラスに働く。


いただいたサポートは、小躍りしながらオランダで魚を手に入れるための資金にさせていただきます。ありがとうございます!