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ホリプロ 『ブラッド・ブラザーズ』2022.03.26(土)マチネ

大好きなミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』が上演されるということで、大阪公演を待つことができず、東京へ飛んだ。
※ 例によって辛口含みなので、そういうのがお嫌いな方にはオススメできない記事となっている。

大好きとは書いたが、1990年代に繰り返し上演されたものを観たわけではない(奇しくも今回の演出、吉田鋼太郎さんがサミー役で出演されていたようだ)。私にとってのブラブラは、2009年に東宝がシアタークリエで上演(翌年にシアター1010で再演)したものがスタンダードだ。そのときにはあまりの素晴らしさにリピートにリピートを重ねた。
2015年の再演は東宝ではなかったし、ジャニーズの主演ということであまり気も乗らなかったが、それでもどうしても観たくてわざわざ当時住んでいた韓国から観に来たのを覚えている。(残念ながら2009年ほどの感動は得られなかった。)

そして今回、満を持しての再演。というかホリプロ初演。
ブラザーズ役のふたりにはあまり期待できないものの(ファンの方たちごめん)、堀内敬子さんがジョンストン夫人を演じ、一路真輝さんがライオンズ夫人を演じるとなれば、期待するなという方が無理ではなかろうか。

この作品の主役はブラザーズということになっているが、いちばん出番が多く、歌も多いのはジョンストン夫人だ。子宝に恵まれすぎて、離婚後に判明した最後と思われた妊娠が双子。経済的な理由でひとりしか育てることができず、ひとりを裕福なライオンズ家に譲るという展開だ。
シングルマザーであれだけの数の子どもを育てるのは大変だ。しかも舞台上の設定では、福祉があまり機能しておらず、ジョンストン家は生きていくだけで精いっぱいだ。
そんななかでも、堀内敬子さんの演じるジョンストン夫人は明るく優しい。過去に観たジョンストン夫人がピリピリ感を出していた(そして実際にあのような環境にいたら誰しもそうなるだろうと思われる)のとは一線を画す役作りで、わたしの目からは非現実的にも見えたが、逆に言えばあれくらい明るく生きないとやってられないという側面があるのかもしれない。

明るく優しい、と書いたが、教養を学ぶ機会がなかった人特有の、無知についてもしっかりと描かれている。家政婦として働くライオンズ家の夫人(一路さん)が不妊で悩んでいるにもかかわらず、自分が子だくさんであることを悪気もなく自慢し、不妊を羨むかのような発言さえもするのだ。現代の日本であのような発言をしようものなら、無神経のそしりを免れえないと思う。

双子が生まれるまでの、堀内さんと一路さんの掛け合いは、見事の一語に尽きる。双子が生まれるまでのシーンであれば、何回でもリピートしたいと思ったほどの完成度だ。今回、上京した甲斐があった。
わたし的日本一のミュージカル男優である鈴木壮麻さんも両夫人の夫役として出演し(一人二役だ。同じ人を夫に持ったわけではないので為念)、脇を固めてくれていた。安定安心のキャストだ。

そんななか、不安しかなかったカッキーとウエンツ。
哀しいかな、予感は的中してしまった。とにかく、ふたりとも7歳に見えないのだ。大人が子役を演じているだけなのだ。2009年の二組のペアが本当に7歳にしか見えなかったことを考えると、この差はでかい、でかすぎる。まったく舞台に入っていくことができない。一幕はこのふたりがぶち壊してくれたと言っても過言ではないと思う。

ナレーター役の伊礼さんは、役を生きる必要がないので楽に演じていたという印象だ。作品世界に入り込むことなく、ちょっとだけ外側から客観的に歌う感じ。お客へのアピールが過度に感じなくもなかったが、そんなことをするくらいならもっとしっかり歌ってほしかったとも思う。

さて、一幕の最後では、ジョンストン一家が引っ越しの好機を得て、これからの未来に期待する歌とダンスで幕を閉じる。しかし残念ながら、ここでの堀内さんの歌はなかなかに聞き取りづらい。
理由はいくつかあると思う。まずは何と言っても、堀内さん自身のスキルダウンだ。わたしは堀内さんが四季に在団していたときは、四季でいちばん好きな女優さんだったので、彼女の実力はよく知っている。しかし退団後の彼女は、必ずしも舞台のためにじゅうぶんな稽古を積んできたとは言えず、往年の力を保持しているとは言い難い。特にピッチの甘さと滑舌の悪さは致命的だ。ミュージカル『パレード』でもそれは感じたが、この作品はいっそうそれを際立たせてくれた。彼女の芝居心、役を生きる力は素晴らしいものがあるだけに、本当に残念な点だ。それでも美声と声量は衰えを見せておらず、観客を一定の満足に誘ったことと信じたい。
そして、その滑舌の悪さは吉田鋼太郎さんによって許容されたのだろうと邪推する。吉田鋼太郎さん自身が滑舌が悪いのだから、役者の滑舌を指摘するとも思えず、その甘さがダイレクトに反映されたのだと感じた。滑舌の悪さは感情が高ぶりすぎたカッキーも十八番なので、それも黙認されたことは想像に難くない。

気を取り直して二幕。二幕はかなりよかったと思う。
聞き取りづらい歌も減ってきたし、何と言っても双子が年相応に見えてきた。

仕事が決まらず落ち込むミッキーに、エディが「金のことなんて心配するな」というシーンは、まさにジョンストン夫人がライオンズ夫人に子どものことで心無い言葉を投げかけたシーンの裏返しだ。
もちろん、エディは本当はジョンストン夫人の子どもなのだから、裏返しというだけでなく、血は受け継がれた(他人に心無い言葉を浴びせる血)と解釈する方が妥当なのかもしれない。

二幕は息を飲む展開で、俳優陣の演技も悪くなく、総じて良い舞台だったと思う。が、何故かしら私が多く涙を流したのは主に一幕だ。
これこそが芝居の醍醐味であり、俳優のスキルはあくまでも作品を成立させるための外側であって、心が動くのは本質的には内側なのだと再認識した。これはもちろん現在の私の琴線に触れるのが一幕というだけであって、二幕でより多く感じるものがある人も多くいたはずだ。だから芝居は素敵だ。

二幕で唯一苦言を呈するとすれば、リンダを奪い合うその恋心が見えにくかったことだ。わたし個人が、リンダに魅力を感じないからそういう風に見えてしまったのだろうか。真実は闇の中だ。

とまぁ、あれこれ悪口雑言を書いてしまったが、とにかく台本としては素晴らしいものであることは間違いない。あとは演出と俳優陣のスキルが追い付けば。しかし一方で、現在の日本でこれだけのキャストをそろえてくれたことに感謝すべきなのかもしれない。

永遠に語り継がれるであろう名作である。

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