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M9-Pとの馴れ初め.

2022年2月12日,Leica M9-Pを購入した.

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新しい相棒.1月に卒業論文を大学に提出し2月に学会へ投稿した自分へのご褒美.大学卒業祝い.

無数にあるカメラから何故Leicaで何故M9で何故Pなのか.まさか最初からM9-Pを買おうと思ってた訳じゃない.

Leicaだけは無いですよ笑.沼ってる先輩がラボにいますから笑

M-Aを買う予定の先輩との会話

カメラ購入の心算をし始めた2021年12月からの約3ヶ月,僕の心はあっち行ったりこっち行ったり全く迷子だった.

まず,新しいカメラを買おうと思い立った時の脳内フィルターはこう.
1. レンズと合わせても50万を超えたくない(30万くらいが丸いかなぁ)
2. 中判気になる
3. フィルムも気になるなぁ

つまりそういうことだ.僕は中判フィルムに気持ちを寄せた.

ハッセルとローライをツートップにサーベイした(ウェストレベルファインダーや二眼レフに惹かれた&スナップスタイルだったので重たくて大きいバケペンなどは視野から外し).ハッセルにおいては定番の500C/M(& Planar T* 80mm F/ 2.8)の他に特に目ぼしいものはなかった(もちろん501C/Mや503CXがあるがほぼ同型と考えるとFujifilmでX-T4とX-Pro3を悩むほどの幅はない).一方ローライ,Roleiflexと廉価版のRoleicordがあるが,Roleicordの安さは魅力的.しかし「初めてのフィルムカメラ」&「主戦力としての運用」を考えRoleicordはドロップ.さてRoleiflexに決めたはいいがご存知の通り2.8fか3.5fかで話は大分変わってくる.僕はここでTessar 3.5fに決めた.

よし二択まで絞れた.しっかり比較して慎重にネットの作例見て自分のユースケースを想像してお財布と相談して良い出品を買いましょうという話だ...


ん?待て,自分のスタイルってなんだっけ?

ウェストレベルファインダーや二眼レフに惹かれた&スナップスタイルだったので重たくて大きいバケペンなどは視野から外した

僕は大の散歩好き.早朝か深夜の散歩は欠かせない.写真はその散歩のついでで撮るものであって,良い風景があるから"撮りに"行こうみたいなことをしたことは無いし,そういうモチベーションも今のところない.ましてや三脚を使うなんて考えられないし,設定細くいじってヨシ撮るぞーみたいな撮影はめんどくさくてやってられない人間.怠惰.

そんな僕に中判フィルムは合ってない.そう気づいた.単純に"腕が無い"という悔しい話ではあるが,最悪なのは中判カメラの一枚のコストと手元にデジタルデータがくるまでのイテレーションの長さのせいで,写真を撮らなくなることだ.それだけは地球が滅びようとも避けなければいけない.

1ヶ月くらい中判フィルムに関してああでもないこうでもないと悩んだのに,たった一瞬の悟りで中判フィルム購入の構想が瓦解した.


「ニルヴァーナ」

ともすれば中判デジタルに焦点は移る.907X&CFV II 50C,X1D II,645Z.カメラの名前が暗号にしか見えなくなったのはいつからだろう.

しかし中判デジタルの高いこと高いこと.50万以上は出せないって言ったじゃないか...


ふむぅ,と悩んでいた僕に誰かが話しかける

「私ならレンズキットで50万円切るよ.」

ん!?誰だ,僕の脳内に直接語りかけてるのは...は!お前は...

「私の名前はGFX 50S II」

そいつは続けて語りかける.

「君はFujifilmだとX-T2を使ってるみたいだね.良いカメラだ.しかしブリーチバイパスやクラシックネガといった新規フィルムシミュレーションに対応しておらず君はそれらを心底使いたがっていて,ネットでたびたび再現設定を調べているのを知ってるんだよ.もちろん私なら搭載されてるよ.しかも私は,,,中判デジタル.」

俯いていた僕はアッパーカットを食らい一瞬気を失った.青天の霹靂だった.ここまで僕の需要にマッチしたカメラがこの世に存在するのか.GFX 50S IIの軽さなら散歩にも連れて行ける.それまで比較的ビビッドな写真と撮っていた僕はクラシックネガの絵に心底惹かれていた.隣の畑は青い.値段もまぁぎりぎりだが払えないことはない.

完璧だ.もう心変わりすることはないだろう.そう確信してヨドバシAkibaで実物を触りながら店員さんと「来週くらいに買うかもしれないです.値段少し頑張れます?笑」みたいな話をしながら意気揚々と在庫確認までした.

話は少しそれて自分の環境の話.

僕の活動場所は大学の研究室.そこにはカメラお兄さんがたくさんいる.中判・フィルムなんでもござれ,卒業写真は先輩に大判で撮ってもらった.もちろんLeicaだってござれ...研究室のボスがLeicaほとんど持ってるんだからまあ自然といえば自然だ.

うちのラボにはM10のローンに苦みながら次のローンをボスに催促されてるお兄さんもいれば,就職後の初ボーナスでM-Aを買うと決め代わりにバルナックを購入して故障しちゃって困ってるお兄さんもいたし,,,そんな環境でLeicaを買う気には一切ならなかった.Leicaはなんだか触れちゃいけないものというか,ハマったら最後,抜け出せない.という感じがして目を背けていたし,何よりレンズが高すぎて継続的な購入が無理すぎ!という印象だった.ましてやモノクロームなんか買う神経とはいかにというお気持ち.

「ヒロインは最終回に死ぬ」

GFX 50S IIを買う決心を決めて,いよいよ買うかという時期が1月くらい.卒論を執筆しながら,サブモニターで作例を検索してカメラお兄さんと「くぅ〜」「これあっつ!」と盛り上がる.購入前の盲目的で素っ頓狂な一番楽しい時間.


なのに,だんだん購入に近づいていると自覚するのと時を同じくして,疑心暗鬼で優柔不断な時間がきた.もやもや.

これ以上何を迷おうというのだ.値段もクリアしていて興味のあった中判で散歩に持っていける軽さ.何よりずっと使いたかったフィルムシミュレーションがあるじゃあないか.


迷った時の脳内会議はいつも逆張りを基本に,極めて批判的に進む.リトルが話し出す.

「インスタの投稿を見直すんだ.タイトルの他には何も書かず,タグの一つだって絶対に付けたがらない.現像も基本補正のみ.
 そんなお前のスタイルと対極にあるのが良い感じのBGMとタグつけていいねがたくさん来てるフィルムライクポトレ.お前はそれらを写真としてまっこと綺麗だと認めた上で,その一個下のレイヤーでは創作物として”イケてない”と邪険にしてたんじゃないのか.それは徹頭徹尾根拠のない逆張り.でも"簡単に良い感じにフィルムっぽい写真が撮れるクラシックネガ"に丁稚奉公するってなんかつまらない気がしない?」

「さもありなんと」

また気を失ってた.ローブロー気味だった今のは.
しかし,なんだかスッキリしてる.もやもやは晴れた.

僕は全てを白紙にした.消しゴムはすり減って無くなった.


しかし,となると他にどんなカメラがあるというのだ?もう出尽した感があるが...

そんな僕はいつの間にか卒論を提出し終わっていた.時間に少し余裕ができた僕は新宿の防湿庫へと足を運んだ.

最高の絵が撮れて,コンパクトで,それでいてしっかり自分を持ってるようなカメラが無いか隈無く探した...


答えは見つかった.いや元々見つけていたんだが見えぬふりをしていた.

「Leicaだ...もうそれしかない.」

今俺が片足を突っ込まんとしてるのは沼だ.それも底なし沼だ.でも聞いてくれよ親父,これしか無いんだ.先立つ息子の親不孝をどうか許してくれ.

そこからは早かった.

まずSやSLなど大きいし高いから無理だ.もう早くカメラが欲しくて躍起になっていた僕はM型に照準を定める.一番相談してたカメラお兄さんがM10だったのでそれは無し.M11の受注がちょうど始まってたがコレと決めたらすぐ手元に欲しかったし何より予算オーバー.

となるとM11,M10ときてM9はどうだろう.え?なになにM8,M9はCMOSセンサーじゃないだって?CCDって何それ.

「おまえ うまそうだな」

CCDってどうなんだろうと訝しむ僕にラボのカメラお兄さん(Leica M-E所持経験有)がニヤニヤしながら話しかけてくる.
「CCDのチャージ音をLeica店員に聞かせると一人ずつ昇天してた.」

へぇ,おもしれぇじゃないすか,どれどれ..とチャージ音を聞いてみる.

...昇天

ほんならM8とM9の比較をば.もちろんM8の方が安いが僕には写真を印刷してスチレンボードに当てたものを壁に貼りまくる趣味がある.となると1030万画素はいささか不安だ.アップサンプリングすればいいという話もあるのかもしれないが,CCDの色味が破壊されるのは怖い.


となると最後はM9・M9-Pの精査.Pの方が高いが見た目の違いしかない.しかしその違いは僕にとって決定的だった.一目見て絶対にPが良いと思った.Pじゃないと嫌だと思った.M9のロゴやナンバリングが好きになれなかった一方M9-Pの軍艦部の刻印は今見ても興奮を覚える.

僕はM9-Pの在庫を調べまくった.

「無い.どこにも無い.」

いや,もちろんしっかり高い美品とかeBayとかはあるものの,僕は大学生.お金は無いし,すぐ手元に欲しいし,安全に買い物したい.

CCD交換済みはもちろんで良品くらいを40万くらいで探していた.

本当に見つからない.全く同じ検索でM9-Pを探して「無いな」と呟く日々を繰り返す.

正直,途中から諦めムードだった.GFX 50S Ⅱが日に日に僕の頭を侵略した.あの日憧れた中判デジタル.フィルムシミュレーションを使わずにシンプルに中判デジタルとして楽しめば良いじゃないか.モノクロもいいらしいぞ.

そんな誘惑をコンマ1秒で振り解きながら明日にはまた同じ妄想をしている.苦しい.カメラを買うってこんなに苦しかったのか.

僕は微かな期待を胸に東京中の防湿庫を巡る旅に出た.ネットにないならフィジカルでいくぞ!ひよってるや(ry

見つからない...

流石に見かねたのかラボのカメラお兄さんたちが僕のM9-P捜索を手伝ってくれた.

知ってる.M-EやM8,M9の在庫はたくさんあるのは知ってるんだ.その上で僕が欲しいのはM9-Pだ.



ボスあんたはちょっと黙っててくれ(到底買えないものを薦めるのを取り締まる法律はまだ整備されていないのか).

leicaで見た目気にし出したら破産...ぐぅ.


それでも在庫が見つからず,悶々してた僕にボスが一つリンクを貼る.

カメラファン!?調べても出てこなかったぞ.いいのがあるじゃん!レモン社のはセンサー剥離なので無視で,三宝カメラと大貫カメラに44万円!これは熱い(UC再生余裕).


トドメのチャージ音.僕はダウン寸前のヘビー級ボクサー.



なんのサンプリングだか知らないが確実に僕を落としにきてる.最終12ラウンド.ダメだ,後一発もらったら絶対に落ちる.


...

僕はお金を用意するフェーズに移った.貯金を切り崩し,人生で初めて親にお金も借りた.


お母さん,俺はM9とM9-Pの香りを嗅ぎ分ける男になるよ.



「ゴールの1マス先はスタートですか?」

そんなこんなで僕は2022年2月12日,Leica M9-Pを購入した.

レンズはあまり考えてなかったが,カメラお兄さんの一人が50mmをいくつか持っていて貸してくれるということだったので(感謝),35mmで安価で外さないレンズを探した.

結果的に僕は三宝カメラでM9-Pを買った帰りに新宿の防湿庫にてSummaron 35mm F/3.5を購入.このレンズ少し暗いが全然愛せる.「不便を愛せ」とは便利な言葉で一度恋をすると全てが愛くるしい.

「え,レンズって開放だと周辺減光起こす生き物のことでしょ?」


今はこいつと,カメラお兄さんに借りたHELIAR classic 50mm F1.5を中心にパシャパシャしてる.MS Optics Sonnetar 73mm f1.5(宮崎光学)も借りた.けど35mmと50mmを味わうのに時間がかかっていて運用できていない.あぁなんて幸せな悩みだ.


「私これ買って人生変わりました!!!毎日がハッピーで健康になった気がします!!!」

ありきたりだけど,買って本当に良かった.何よりコンパクトで本当に散歩に向いてる.まだ腰につける勇気はないけど,ストラップでも全然気にならない.レンズが薄いのも助かる.SS1/125・F8・ピント5m固定のいわゆるブレッソンスタイルでほとんどファインダーを覗かずに撮るのも楽しい.


そんな感じで,これからもどんどん撮っていくぞ.

ボス含めラボのカメラお兄さん各位にはこの場を借りて感謝申し上げます.今後のモモスケにご期待ください.



「順張り⇨逆張り⇨順張り⇨逆張り⇨...」

余談.余談です.余談ですが.

最近ピントもずれてればノイズもマシマシな写真を撮るのにハマってて.あとはモノクロとバルブ.

あ,ここにきてもまだ逆張り.でもいいじゃんね.何周目か悟らせなければ.


今はただ幽霊を撮りたい.




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