アメリカの南部貧困法律センター(SPLC)による日本第一党のデマを全否定するコメント全文掲載―日本第一党の中村かずひろ(相模原市議選公認立候補者)悪質なデマの検証

 日本で最も悪質な極右団体の一つである日本第一党のデマについて、アメリカの南部貧困法律センター(SPLC)が全否定するコメントを、私が代表をつとめる反レイシズム情報センター(ARIC)に送ってくれました。許可を得て全文掲載します(末尾)。

■2019年6月17日中村かずひろのデマ

 移民排斥と外国人差別煽動を目的とする人種差別撤廃条約に違反する極右政党・日本第一党の中村かずひろ氏(2019年4月相模原市議選公認候補者であり落選)が、次のようなツイートをしています(以下、敬称略)。

 (この直前には朝鮮学校を高校無償化法案の対象に含める原案をつくるなどリベラルで有名な前川喜平元文科事務次官を批判するツイートをしていました。※ツイートのリンクにミスがあったので修正しました(6月27日)。)

 ここには重大なデマが含まれています。

ネト右翼の総大将である日本第一党桜井誠党首は、アメリカでは中堅左翼で知られる南部貧困法律センターと会談そして多くの外国人とも会談をして受入られております。

という箇所です。

■どんなウソか――ARICによるファクトチェック

 朝鮮人は殺せ!と平気で叫ぶ桜井誠が、アメリカで最も有名な反レイシズムNGOの一つである「南部貧困センターと会談」し「多くの外国人とも会談をして受け入れられて」いるというのです。
 さきにハッキリ言っておきますと、これは大ウソです。しかもこのデマは中村かずひろがはじめてではなく、じつは日本第一党の桜井誠が一年以上前から何度も繰り返していたものです(後述)。
 私たちARICは以前このデマ宣伝について、当の南部法律貧困センター(SPLC)に通報し、次の事実を確認しました。
 たしかに桜井誠は、2018年1月末にSPLCのスタッフであるハイディさんと会談しています。これは事実です。((桜井がネット上で販売している電子書籍『ネトウヨ アメリカへ行く』)も1月31日にアメリカのレストランで会談を行ったと書いてます)。
 しかし中村がいうような桜井がSPLCに認められたということは、大ウソです。事実は全く逆です。SPLCのハイディさんのコメントを引用すれば、

ご指摘のディナーに私は確かに同席しました。しかし私も加わった私たちのそこでの会話では、私は桜井に対して、桜井の思想はレイシズム的であり、ヘイトグループの思想であり、卑劣なものだと繰り返し告げています。私は桜井の見解、特に在日コリアンに対する桜井の恥ずべき見解を完全に否定します。(太字引用者)

とのことです。
 つまりそもそも2018年に桜井に会った当時の会話でも、桜井の思想がレイシズム的であり恥ずべきであると直接批判しているということです。
 ちなみに中村自身がこの桜井とハイディさんが顔を合わせたディナーに同席していました(前述の桜井の本)。つまりデマであることは中村本人が百も承知なのです。デマの流布行為は確信犯だといえます。
 しかし、なぜヘイトウォッチNGOであるSPLCのハイディさんはなぜ桜井と会ったのでしょうか? それはSPLCが桜井と日本第一党を危険な極右だとみなし、その極右がどのような活動を行っているかのインテリジェンス情報を取得するためです(ヘイトウォッチって何?と気になる方は、下記共著本で解説したのでぜひお読みください)。

 じつはSPLCハイディさんが桜井と会っていた席には、白人至上主義の極右であるウィリアム・ジョンソン(アメリカ自由党)やジャレッド・テイラー(アメリカン・ルネッサンス創設者)が同席していました。ハイディさんは桜井に限らず、かれら極右から情報を得ようとしていたわけです。
 またこの会談の数か月後にあたる2018年6月に、ウィリアム・ジョンソンのアメリカ自由党は米国テネシー州で「国際ナショナリスト会議」を主催し、日本とヨーロッパから極右をあつめて「国際会議」を行おうとしていたのです(前掲桜井によれば、日本第一党の桜井誠は2017年に既にウィリアム・ジョンソンから招待されており、2018年1月訪米はその縁で実現したようです)。6月の「国際会議」に参加する極右は、米国では白人至上主義団体のCouncil of Conservative Citizens(CCC)のEarl Holtら、ヨーロッパからは国際テンプル騎士団(KIT)やスイスの極右団体PNOS(スイス愛国民族主義党)の他に、クロアチア、ベルギー、フランス、ドイツの極右勢力も参加していたようです(会議に参加した極右については、桜井のブログ(「米国テネシー州で開催された国際ナショナリスト会議への参加報告」)に記載があり、SPLCのホームページには詳しい情報が記載されています)。

 このようにハイディさんが桜井と会ったのは数か月後に「国際ナショナリスト会議」を控えていたときだったわけです。ヘイトウォッチNGOとして、アメリカにおける極右活動の監視・記録を行なっている団体としては、白人至上主義者らが集まるこの国際会議を監視していたのです。
 そして米国の極右の集まりに日本から、(しかも無名の)日本第一党の桜井誠がはじめて参加するので、SPLCとしては日本第一党の危険性を把握するために情報収集が必要でした。それで日本で桜井ら極右のヘイトウォッチを行なっているARICにコンタクトしてくれたのです。ARIC側は政治家の差別発言を記録している「政治家レイシズムデータベース」の情報を提供し、代表の私もインタビューを受けました(詳しくは下記のリンクをご覧ください)。

White nationalist conference in Tennessee will feature old-school racists and a few new international guests(2018年6月14日)
『インテリジェンス・レポート』166号(2019年2月刊行、PDF版)
 ※ウェブ版はこちら→ Global Hate: Hate Travels

 以上の説明からも、桜井誠が反レイシズムNGOのSPLCに認められたなどという主張は、完全なデマであり、意図的なフェイクだと言えましょう。

■桜井誠によって繰り返される「外国の左翼に認められた」というデマ

 じつは中村のデマは、それ以前から桜井誠によって繰り返されてきました。ARICの学生ボランティアが調査した限りでも、同じようなデマを分かっているだけで4回も繰り返しています。

1.例えば、桜井は自身のブログ記事(2018/6/2)でSPLCについて以下のように言及しています。

日本のパヨクと違い、米国の左翼(リベラル)は話が出来ます。これは米国がディベート文化に根差していることに由来すると思われますが、日本のパヨクのように話をすることさえ出来ないわけではなく、道理を通せばきちんとこちらの言い分にも耳を傾ける姿に、その主義主張の正誤はともかく、好感が持てるものでした。

2.この件について、桜井が最初に言及していたのは、渡米中の桜井による「ふわっち」の配信です。(2018/2/1)

日本のパヨクで、じゃあ、あの香山のリカちゃん(香山リカ氏)に「あんた一人でおいでよ」と言ったら絶対に来ないでしょうに。ここなんですよね。本当にパヨクっていうのはもう粘着質でね、ねちょねちょしたような感じ?そんな感じですよね。ということでね、アメリカ・リベラルの中ボスというか、大物なんですけどね。中ボスのハイジちゃん(SPLCのハイディ氏)と話したということでね。日本のパヨク、この連中がいかに異常であるかということが世界中に伝わりましたよね。

こちらのまとめに詳しい内容が書き起こされています。)
 6月2日のブログ記事は、この時の発言と全く同じ内容であることがわかります。

3.次に言及していたのが、日本第一党のホームページにある「党首のつぶやき」(2018/2/13)でした。ここでは、自身のアメリカへの渡航を受けて、

米国で日本のナショナリズムは通用しました。日本人は自信をもって世界に対して主張すべきなのです。他方、米国で日本のパヨクに対しては「異常」の烙印が押され、日本パヨクは世界から乖離している実態が明らかになっています。

と投稿していました。ここでは直接的に言及していませんが、投稿の時期と内容的に見てもこれはSPLCとの会談と関連させて日本の反差別運動を非難しているものでしょう。

4.また、すでに紹介した、SPLCのハイディさんとの会談を含めたアメリカへの渡航について桜井自身の手によってまとめられた電子書籍『ネトウヨ アメリカへ行く』の記述も見てみましょう。
 ここでも桜井と会談を行ったハイディ氏について言及し、

 どんなに意見が合わなくても、議論は議論、それが終われば普通に付き合える仲なのです、笑顔で写真を撮って、いよいよドクター・ハイジともお別れです。別れ際に、彼女にもし日本に招待したらどうするか?と尋ねました。すると彼女は笑顔で「喜んで受け入れるわよ」といってくれたのです。
 今回の対談で、彼女にも日本のパヨクの出鱈目ぶりを伝え、「日本にはリベラル派などいない」「いるのは売国奴だけ」と桜井が言うと、驚きながらも「信じられないわ!」と言っていたのが非常に印象的でした。

■極右のデマをどうしたらいいのか?――NGOとメディアによるファクトチェックを

 以上のことからわかるのは、桜井誠ら日本第一党は、アメリカの反差別運動を権威として位置付け、自分たちの主張は「世界的に」受け入れているのだというストーリーを作り上げているということです。そしてそれを自分たちの主張の正当化につなげたり、あるいは「世界的にみて異常」などと規定して日本の反差別運動をバッシングしたりするために利用しているのです。
 しかしながら、すでに述べたように日本第一党の主張は事実とは全く異なるデマであり、しかも自分たちがウソであると十分に知っていてデマを流布させています。
 これは非常に危険です。このようなデマを放置していれば、災害時などのいざという時に、かれら極右が外国人と犯罪を結び付けるデマを積極的に流布することも許すことになるのではないでしょうか?
 そのため、こうしたデマを見かけたら積極的に検証し、批判していくことが差別を拡散させないために非常に重要であると言えます。
 では何ができるのか。
 NGOとメディアが協力してヘイトウォッチを行うと言う、欧米型の極右封じ込め戦略を提唱しています(詳しくは上述の『フェイクと憎悪』に寄稿した記事をご覧ください)。
 現在ARICでは、SPLCのように、極右政党や極右政治家のヘイトスピーチを記録し、情報発信につなげるヘイトウォッチ活動をおこなう学生ボランティアを募集しています。関心ある学生さんは、ぜひ下記フォームまでご連絡ください(個別でご説明さしあげます)。

 またこのような差別デマを見かけたら、反レイシズム情報センター(ARIC)のもとに通報していただけると助かります(上のフォームをお使いください)。
 ぜひご協力ください。

 今回のファクトチェックは以上です。
 では、最後にSPLCからARICに寄せられたコメント全文を掲載します(日本語翻訳はARIC学生ボランティア)。

■2018年2月22日SPLCハイディさんからのコメント「桜井誠について」(全文公開)

〔梁英聖ARIC代表のメールアドレス宛てに〕
 こんにちは。
 私が参加したディナーの件で連絡を下さり、どうもありがとうございます。ご指摘のディナーに私は確かに同席しました。しかし私も加わった私たちのそこでの会話では、私は桜井に対して、桜井の思想はレイシズム的であり、ヘイトグループの思想であり、卑劣なものだと繰り返し告げています。私は桜井の見解、特に在日コリアンに対する桜井の恥ずべき見解を完全に否定します。その日のディナーの会話の最中に私がはっきり言ったように、彼の意見を聞いたからと言って、彼の意見に私が同意したということには決してならないのです。とはいえ仕事の一環として、私はしばしばレイシズム的な意見を持つ人々と話をします。なぜなら南部貧困法律センター(SPLC)は(極右)過激派とヘイトグループについて幅広く調査・情報公開しており、これにはしばしば敵との討論を必要とします。こうした事情が、私たちの敵との会話を理解するうえで助けになることを願います。それからジャレッド・テイラーJared Taylorについてのあなたの質問はこのメールでは取り上げることができませんが、しかし私たちのウェブサイトを見れば彼と彼のグループのレイシズムについて記事を書いていること、またアメリカン・ルネッサンスAmerican Renaissanceをヘイトグループとしてリストアップしていることがわかるでしょう。私たちSPLCのウェブサイト(splcenter.org)には文字通り何十もの彼についての記事があります。彼のグループがヘイトグループであるという私たちの報告は、既に広く知られている事実です。私のコメントは日本のあなたの同僚や支持者にどうぞご自由にお知らせください。ご連絡くださり、どうもありがとうございます。更にお役に立てることがあればお知らせください。
 よろしくお願いします。

南部貧困法律センター(SPLC)
インテリジェンス・プロジェクト責任者
ハイディ・ベイリッヒ(博士)

英語原文はこちらです。

タイトル:Makoto Sakurai
日時:2018年2月22日 5:37
本文:
Hi there,
Thank you for writing to me about the dinner I was at. I did have the dinner you mentioned, but our conversation consisted of me repeatedly informing Mr. Sakurai that I thought his ideas were racist, those of a hate group and despicable. I completely reject his views, particularly his heinous views on Koreans living in Japan. Just because I listened to his views doesn’t mean I in any way agree with them, as I made absolutely clear during our dinner conversation. That said, as part of my work, I often speak with people who hold racist views. The Southern Poverty Law Center extensively reports on extremism and hate groups and that work often involves discussions with our opponents. I hope that helps you to understand our conversation. I can’t speak to your comments about Jared Taylor, but if you look at our website we have written about his and his group’s racism and we list American Renaissance as a hate group. There are literally dozens of pieces on him on our website at splcenter.org. Our reporting that his group is a hate group is a widely known fact. You are free to report my comments to your colleagues and allies in Japan. And thank you for reaching out to me. Let us know if we can be of further assistance.
Best,
Heidi Beirich
--
Heidi Beirich, Ph.D.
Director, Intelligence Project
Southern Poverty Law Center


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