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「世界最高の熱狂」を期待したW杯決勝 目にしたのは初めて見る絶景だった

2018年7月 ロシア・モスクワ

初めてのワールドカップ、そして初めての決勝には、未だ見たことのない「絶景」が、そこにはありました。僕の初めての、サッカーW杯現地観戦記録です。

※この文章は、今年7月に発売された書籍『ロシアワールドカップ現地観戦記: 日本代表サポーター23人の物語(Kindle版)』に寄稿したものになります。今回は特別に僕のパートを全文無料公開させていただいております!

サウジアラビアで遭遇した自分史上最高の「熱狂」

 僕が旅に出る理由は、いろいろな「生き方」が見たいから。世界遺産には興味がありません。そこに住む人の生活に溶け込んで、日本では見たことのない「生き方」に触れる。そんな旅の仕方が高じて、現地のイベントにも参加するようになりました。マイアミの「ULTRA MUSIC FESTIVAL」、タイ・パンガン島の「フルムーンパーティ」、西アフリカ・ベナンの「ブードゥー教」の儀式……様々なイベントで、そこでしか見られない人々の熱狂を見てきました。

▼アフリカ・コンゴ共和国で、現地の女性たちに囲まれる僕。

 特定のチームを応援しているわけではないのですが、スポーツも人々の熱狂に触れられるので、よく観戦に行きます。昨年8月にはワールドカップのアジア最終予選、サウジアラビア対日本を観に、サウジアラビアのジッダへ行ってきました。この試合、すでに日本は本大会出場を決めていましたが、サウジにとっては「勝てばワールドカップ出場が決まる」という大事な一戦。スタジアムはサウジサポーターで埋め尽くされた文字通りの「超どアウェイ」で、会場を揺るがす声量につい圧倒されてしまうほどでした。試合は1-0でサウジが勝利したのですが、ワールドカップ出場を決めた後は狂喜乱舞のお祭り状態。今までで見てきた世界のスポーツの中で、文句なしに一番といえる熱狂を感じました。


週末の三連休を利用してW杯決勝だけを弾丸観戦

 サウジアラビアで見たものを超える「熱狂」が見たい。そんなことを考えていた矢先に、ロシアワールドカップの決勝は日本の三連休の中日に行われるということを知りました。「よし! これならサラリーマンでもいける!」、そう思った僕は迷わずチケットを手配しました。こうして僕は初めてのワールドカップ、それもいきなり決勝戦を見にいくことになったのです。

 決勝は7月15日(日)18時(日本時間16日午前0時)にキックオフ。14日(土)の朝に成田を出発し、韓国経由でモスクワへ。14日の夜には現地に到着し、その日は夕飯だけ食べて就寝。翌日の戦いに備えました。

 15日、決勝戦の朝。まずはモスクワの中心「赤の広場」へ向かいます。赤の広場に着くと、警備の数に驚きました。テロ対策か、周辺には警察だけでなく軍隊の車両も配備されています。広場に入るのも、赤外線による手荷物検査を受けてやっと入場。全世界が注目するイベントに来たのだと、実感が湧いてきました。

 時刻は午前10時。赤の広場にはすでに多くの人たちが集まっており、みな色とりどりのユニフォームに身を包んでいます。ブラジルやアルゼンチン、スペインなど、優勝候補といわれた国のユニフォームを着ている人も多く見かけました。しかし、中でも圧倒的だったのはクロアチアサポーター。初の決勝進出ということも関係してか、フランスのサポーターよりも断然多い印象でした。

 赤の広場の脇にはレストランのテラス席がずらっと並んでいるのですが、こちらもクロアチアサポーターで埋め尽くされています。道路に向かってクロアチア国旗を掲げ、まだ午前中だというのに手にはビール。そしてそこかしこから応援歌を歌う声が聞こえてきます。いってみれば、そこはクロアチアの小さな街のようでした。どちらの国も応援しようと思っていた僕ですが、広場の盛り上がりを見ていたら気持ちがどんどん傾いてきました。そして、その後のクロアチア美女との写真撮影が決定打となり、完全なるクロアチアサポーターと化してしまいました。本当はそのまま赤の広場周辺でクロアチアユニフォームを買いたかったのですが、さすがに見つけられず、ユニフォーム購入は試合会場まで取っておくことにして、スタジアムに向かうことにしました。

▼赤の広場でクロアチアの美女サポーターに囲まれご満悦の僕。


ユニフォーム探しに夢中になるあまり、犯してしまった大失態

 スタジアム近くの駅に着いたのは13時。試合開始まで5時間もあるというのに、すでに多くのサポーターが会場に向かっています。ユニフォームやグッズを売っている露天商の姿にも期待したのですが、かなりの数の警官が動員されていたこともあってか、まったく見かけません。スムーズに移動できた反面、クロアチアユニフォームはここでもゲットできず、サッカー感ゼロの「リーマントラベラー」Tシャツのまま決勝戦会場・ルジニキスタジアムに到着する羽目になってしまいました。

 14時の開門と同時にスタジアムへ入ると、夢にまで見たグッズショップがありました。レジ奥の壁にはクロアチアユニフォームの金額も表示されているので、一安心。10分ほど並んで、ようやく自分の番。意気揚々とクロアチアのユニフォームを注文すると……なんと品切れ! まだ開門したばかりなのにそんなはずはないと思い、いくつかのグッズショップを巡りましたが、どこへ行っても在庫がありません。結局、あきらめてクロアチア国旗が描かれたTシャツを購入。サッカー感ゼロの装いで試合を観戦することだけは免れました。

 入場ゲートからスタジアムまでのエリアには、スポンサー企業のブースがたくさん並んでいます。ゲームができる参加型ブースなどもあり、多くの人がそのエリアで楽しんでいました。

 しかし、僕は知らなかったのです。

 一度スタジアムの中に入ってしまうと、もうその楽しそうなエリアには戻れないということを。

 クロアチアのユニフォームにこだわるあまり、グッズショップを探して14時半にはスタジアムの中に入ってしまった僕。スポンサーブースを横目に見ながら、「ユニフォームを買ったら戻ろう」と足早に通り過ぎてしまったのです。時すでに遅し。スタジアムの中にあるのは、ホットドッグ屋とグッズショップのみ。世界中の注目を集める会場にいながら、世界一むなしい3時間半を過ごしました…。


スタジアムを取り巻いていたのは「熱狂」ではなく、意外なものだった

 ホットドッグを頬張ること3本。17時を過ぎた頃から観客が増えだし、いよいよ18時のキックオフを迎えました。

 試合内容については僕が語るまでもありません。4-2という結果はゴールもたくさん見られて、素人の僕にとっては大満足のものとなりました。

 一番印象的だったのは、最後まであきらめずに応援し続けるクロアチアサポーターの姿です。鳴り物は使わず、手拍子と大声援で応援し続けるサポーター。その大合唱は攻めていても守っていても静まることはありません。相手陣内に攻め込むと一斉に立ち上がり、またひとつ声のボリュームを上げる。ほぼ負けが決定づけられても、試合終了の瞬間まで声を枯らし続けるその姿に、僕は一番感動しました。

▼フランスが優勝し、ワールドカップ・トロフィーを掲げた瞬間。

 けれどここには、僕が予想していた「熱狂」はありませんでした。僕が目にしたのは「世界最高の熱狂」ではなく、「世界最幸の空間」だったのです。

 熱狂的に応援するクロアチアサポーターの姿には心を打たれました。フランスのサポーターも、彼らと同じような熱量で「熱狂」していました。しかしここにいた多くは、サッカーというスポーツによって、国籍や人種を超えて集まってきた人々。決勝を戦った両国のサポーターだけでなく、地元のロシア人、決勝にくるまでに敗れてしまった国のサポーター。そしてワールドカップ本大会には出場していない、中国やインド、イスラエルといった国々の人たち。ワールドカップの決勝は国と国の威信をかけて戦う場であると同時に、世界最幸のお祭りでもあったのです。

 点が入ればどちらの得点でも盛り上がるし、VARになればみんなが固唾を飲んで見守る。そしていいプレーには惜しみない拍手を送る…。出場している・いないに関わらず、愛する自国のユニフォームや国旗を身につけて集まる姿はさながら音楽フェスのようであったし、スタジアムで起こるすべての出来事をみんなが楽しんでいる様子は「ハッピー」そのものでした。そこに争いはなく、みんなが平和に今この瞬間を楽しんでいる。世界で一番愛されるスポーツ・サッカーによってできあがった、とても平和な空間。フランスが優勝し、主将のロリスがワールドカップ・トロフィーを掲げた瞬間、スタジアムにいる観客がひとつになったのを感じました。

 初めてのワールドカップ、そして初めての決勝には、未だ見たことのない「最幸の空間」がありました。僕にとってはそれこそが「絶景」です。そんな「まだ見たこともない絶景」を求めて、僕はこれからも旅に出ます。


ちなみに、こちらの文章が掲載された書籍『ロシアワールドカップ現地観戦記: 日本代表サポーター23人の物語(Kindle版)』では、他にもプロサポーター・村上アシシさんをはじめ、僕を含めて23人のサッカー日本代表サポーターの、”ロシアW杯 現地観戦記”が掲載されております。これを読めば、ロシアW杯に行った気になれること間違いなし!メディアではなかなか報道されない、サポーター達のリアルな現地での記録を、ぜひ書籍でもお楽しみください!(画像をクリックいただければ、Amazonのページに飛びます!)

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