藤のトンネル

「目からウロコ」が落ちるインタビュー①軍事アナリスト 小川和久氏

日米普天間返還合意の当事者が語る
「沖縄問題の本質」

軍事アナリスト 小川和久氏

法廷闘争、機動隊投入…こじれにこじれた普天間基地の辺野古移設。その原点は、普天間基地の危険除去だが、日米で返還合意からすでに十九年を経過している。沖縄問題の本質を、当事者が直言する。


辺野古案には、
軍事的・経済的
合理性がない

―辺野古移設で政府と沖縄県の交渉が平行線を辿り、ついに司法の場に持ち出されました。また、キャンプシュワブ前にはついに機動隊が投入される事態になり、現場の緊張感は一層高まっています。まず、この状況をどう見ていますか。
小川 一九九六年(平成八)四月、日米首脳会談で普天間飛行場の返還が合意された前後から今日まで、そして、これからも当事者として関わっていく者としては、最悪の事態です。答案は一つしかありません。それを政府が出せないとなると、国際社会で国内問題に対する統治能力がないとみなされる危険性があります。アメリカの基地の問題ですが、本質は日本の国内問題なのです。それなのに、これまで賛成派も反対派も生半可な知識で論争したり、お金が絡んで迷走してきましたし、今の状態ではこれからも迷走しそうですね。結論から言いますが、辺野古移設計画は非現実的なプランです。それなのに莫大な費用を掛けようとしています。本来なら、辺野古に移さなくても解決できるのに、工事が進められようとしています。
 万一、辺野古移設が白紙に戻っても、ベターの解答はあります。私が九六年六月以来、ずっと提案している案は、移設先の飛行場は基本工事が一年半と仕上げの工期半年間を加えて二年ほどで完成します。今の辺野古の工期五年間は根拠がありません。
―総工費は埋め立ても含めて約三千五百億円と言われていますが…
小川 この十年間に国内に造られた国内の空港と比べると、特別な工法を必要としないのに相当に高い。しかも、どんどん膨らむ可能性が大きく、五、六千億、下手をすれば一兆円にもなる可能性があります。これは静岡空港が二十個できる額ですよ。静岡は用地買収を含めて千九百億円かかっていますが、空港自体は五百四十億円ですからね。私が、工期を一年半から二年と言うのは、アメリカのゼネコンがインドで二千七百メートルの滑走路の軍用飛行場を一年半で完成させた実例を踏まえてのことです。鳩山政権の末期、実際に私が提案してきた普天間の移設案をアメリカ当局といったんは合意していたのです。
―それが「キャンプ・ハンセン」案なのですね。
小川 一貫してこの案を提案しています。日米の役人は演習場内の空き地に飛行場をつくるものだと誤解していて、「そんな所に滑走路をつくられたら訓練ができなくなる」と反対していましたが、そうではありません。キャンプ・ハンセンの南端に米軍が終戦間際に十日間で建設したチム飛行場の跡地があって、現在はその上に海兵隊の建物が建っています。この下に千六百メートルの滑走路があるので、建物を移して滑走路を二千五百メートル前後まで延長するだけで済みます。訓練場に手を加える必要は一切ありません。そうすれば山にも、住宅にも引っ掛かりませんから、安全を確保できます。それから、キャンプ・ハンセンは海抜五十メートルありますから、南海トラフなどの大地震による津波、高波の影響を受けません。辺野古は海抜ゼロメートルですから、非常にリスクが大きいのです。先日、全省庁の課長補佐九十四人の研修で講義をしました。その時、「辺野古案を軍事的合理性から評価せよ」という設問を出したところ、全員が否定的な答えを出してきました。
―官僚は分かっているんですね。
小川 彼らは優秀ですから、私の著作などを徹夜で研究してきて、ちゃんと正解を導き出せるのです。彼らは言われると分かるのですが、企画力や構想力、つまり真っ白な紙に絵を書く能力が欠如しているだけなのです。
―現在、粛々と進められている辺野古移設計画は、軍事的にも経済的に合理性がないわけですね。
小川 アメリカ側の実務担当者で一番抵抗していたのが、当時のケビン・メア東アジア・太平洋局日本部部長でした。彼が「辺野古案がベストだ」と主張して止まないので、私はそれがベストではない、つまり、海兵隊にとって辺野古は平時、有事にかかわらず使えないことを証明しました。
 まず、キャパシティですが、普天間の三八%しかないし、滑走路も短い。輸送機が使えませんから、海兵隊の主任務である海外への災害派遣ができません。普天間では「アントノフ124」という巨大輸送機をチャーターしていますが、二千五百メートルの滑走路が必要です。辺野古案はオーバーラン分を含めて千八百メートルしかありません。また、有事の際には第一海兵航空団が保有する四百五十六機のうち約三百機が沖縄に集まります。地上部隊の四万から五万人の兵士も受け入れなければならない。物資を集積する問題もある。辺野古案は話ならないと、メア氏に指摘すると、彼はあっさりと認めました。私が国防総省と認識を共有していることを知っているから抵抗はそこまででした。
 それでも政権交代直前の段階で軍事的合理性のない辺野古移設案に着地させたのは、中国に日米同盟が安定的に維持されていることをアピールすることが最優先したと認めたのです。海兵隊に「泣いてもらった」というのです。外交交渉は、そういう点を認めさせるところまでやるべきなのです。当時、海兵隊の中将は自衛隊の方面総監に対して「ワシントンの頭の良い連中が書いた計画だからどうしようもないものができた」とこぼしていました。
―中国に対する強力な抑止力になっている海兵隊の存在ですが、辺野古では「張子の虎」になりかねませんね。
小川 そのため米国側は、有事の際には膨れあがった海兵隊機に那覇空港を使わせようと考えているようです。また、メア氏に対しては、工期五年という数字は二〇〇五年に守屋武昌防衛事務次官(当時)と私で一つの目安として決めた数字が一人歩きしたもので、何の根拠もない数字だと伝えました。つまり、今の計画は全て根拠の無い数字で進んでいるものです。こんなことで、もし、今の騒動で血が流れることになれば本当に悲しいことです。

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「目からウロコ」が落ちるインタビュー集

こちらは九州・福岡の月刊オピニオン誌「フォーNET」編集部です。これまで「目からウロコ」が落ちるインタビューを政治、歴史、文化、社会、そして沖縄問題についてやってきました。マスコミが報じない内容、視点でのインタビューです。
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