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飯田真・中井久夫『天才の精神病理』

この本の題名には精神病理とあるけれど、天才の生涯を精神医学からたどる病跡学という研究分野の古典であり、版を重ね、文庫化されている。
うつ病の研究者、飯田真先生との共著で、ニュートン、ダーウィン、フロイトは飯田先生がまず書かれたよう。ダーウィンの文章は飯田先生らしく訥々と記されている。ニュートンは中井先生の書かれた経過図もありいかにも共同著作といった感じで中井先生が書いたと知らされても不思議ないほど。

この本の白眉はウィトゲンシュタインかもしれない。何度読んでも感動的な文章。
のちに福本修教授がウィトゲンシュタインを発達障害から論じられ話題になった。ウィトゲンシュタインASD説は根強いが、統合失調症かどうかよりも中井先生による問題満載はウィトゲンシュタインが自殺せずに生き残ることの困難にある。

なぜ、科学者の精神病理、病跡に哲学者ウィトゲンシュタインか、というと、おそらく出版当時、まだまだ科学的社会主義、マルクス主義の影響が科学にまで及んでいたから、が二次的な理由らしい。

岩波文庫にクレッチマー著『天才の心理学』があり、クレッチマーに近い立場の飯田先生と中井先生が話しあって単行本にまで展開したのではと想像する。ヤスバースを基本とした当時の精神科アカデミアにあってクレッチマーの気質論、状況論は特異だったに違いない。とくに中井先生はもっといいものを書こうとしていたようである。

この共同著作は楽しいものだったらしく、雲のように次々と文章がわく中井先生に飯田先生が「剪定」してまとめたものだという。中井先生には野口英世の病跡があり、後年、著作集で読むことができる。


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