中井久夫先生のささやかな思い出 3

河出書房新社から中井先生の追悼特集号ムックがでた。
こちらは本屋さんで平積み。星野弘先生の「入門」がエッセイ風に書かれている。

星野先生の文体はときに徴候的なので、私から書くことにした。星野先生の文章の中で、各地で講演され録音もされたという講演コンテンツの一つは私の講演文字起こしである。

星野弘先生と職場が一緒の時に、中井久夫先生の八王子市でのご講演の文字起こしをお見せしたことがある。講演題名は、なんと「統合失調症の精神療法」。真正面の題名で、おそらく依頼者からの要望であった。

講演ははるか昔、岐阜での精神病理学会の前で、精神病理学者ブランケンブルグ氏が来日された年のこと。中井先生のご発表は直接言及されなかったけれど何度読んでも下坂幸三先生のブランケンブルグ著『自明性の喪失』批判を踏まえたものであった。
これは世に出していいものかどうか。星野先生のお返事は中井先生にご連絡してみたら、であった。中井先生からのお返事は条件付きの許可。

その許可の仕方が洒脱で元の原稿(ともとの音源)は話の接ぎ穂というか、中井先生と話された方はご存じと思う、そうとう言葉を選んで話されるのもあって、ゆっくりなのである。その許可の内容は「です、ます」を「である」に直したら世に出してよいという内容であった。

ところが、私から星野先生にお見せした時期に中井先生は心的外傷についてご高名であったし、講演の話し言葉、長文ゆえタイミングを逃した感があった。

篤志ある編集者さんは私までご連絡くださいね。


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