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バーバーで顔を剃る|週末セルフケア入門

理容室は癒やしの場です。カット以外のサービスも豊富で、値段も比較的安価です。今回は「顔剃りのみ」のコースを試してみました。

顔剃りは、理容室でしかできません。熱い蒸しタオルでゆるめられた髭が、丁寧に剃られていくのは快感です。ここ数年で、「バーバー」スタイルの理容室が増えました。美容院では落ち着けなくなった年齢の、私のような客の隠れ家になっています。

バーバーで癒やされる男たち

バーバーとは、英米風の理容室・理容師のことです。男性をメインの客層とした、小ぶりで伝統的なサービスが特徴。店内は、ほとんどが半個室です。散髪以外にも、シャンプー、髭剃り、マッサージに加え、靴磨きや、エスプレッソまで出してくれるところもあります。

参考
https://vokka.jp/14129

「理容室」「バーバー」「顔剃りのみ」で検索すると、単価は1,000円~4,000円くらいが相場でした。私の通っている店では、「シェービング・マッサージ」「シャンプー・ヘッドスパ」「フェイストリートメント」等のコースも用意されています。

店内は、とても静かです。ときどき、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくることもあります。私のように無口な客も、理容師は放っておいてくれます。いつもは3,000円代の「カットのみ」を頼むのですが、今回は「シェービング・マッサージ」を試してみました。

顔剃りという快楽

寝椅子に横たわる、残業を終えた男(私)。熱すぎず、ぬるくない絶妙な温度の蒸しタオルが、顔にのせられました。加湿器もうなりを上げています。髭がやわらかくなるまでの間、眉と頬が剃られていきます。石けんの泡は細かく、よい香り。ショリ……ショリ……という剃刀をはこぶ音がこころよく響きます。

満を持して蒸しタオルがはずされると、すっかり髭と肌の準備ができていました。首のほうから、流れるように剃刀が当てられます。痛みはまったくありません。手間をかけられている、という安心感があります。あご、鼻、耳まで、いたるところの髭・産毛が剃られていきました。ふたたび蒸しタオル。アフターシェーブローションが塗られ、マッサージが続きます。

さらに季節のサービスで、オイルスキンケアが無料で付きました。喉が乾いたころに、ウーロン茶。ラストはシャンプー。最高です。いきなりいい男になれるわけではありませんが、少なくとも、剃り残しのない・保湿された男になりました。

髭はすぐ伸びますし、産毛も二週間ほどで生えてきます。でも、また行きたいと思いました。「顔剃りのみ」を頼む客は多いそうです。調子の悪いときのリフレッシュや、人前に出る準備など、目的はさまざま。なにより、単純に気持ちいいからでしょう。ほかのコースも試してみたくなりました。

被災地のセルフケア

社会学者の新雅史さんによれば、復興商店街でまず求められたのは、セルフケア産業としての美容院だったそうです。

女性たちは被災という理不尽な状況にあっても,できる限りの身だしなみをおこなう.他人の目を気にしてということもあるだろうが,そこにあるのは自分自身に対する配慮である.
だが,男性は「美」に対する感度の低さゆえか,身体に対する配慮が足りない.このところ被災地で問題となっているのは四十,五十代の男性である.被災をきっかけとして生活に対する意欲を失い,家族や周囲との関係を閉ざすひとが増えている.こうした「セルフ・ネグレクト(自己放任)」という状態は仕事や病気から語られることが多い.だが,つらい思いをしたからこそ,見だしなみに気を配ることで生活への意欲を高める,という回路がないことに男性たちの真の苦しさがある(新雅史『復興商店街と美容院』,「東京人」2013年4月号,太字筆者).

この指摘は、被災時だけなく、ふだんの生活にも当てはまります。理不尽と戦うことは、まさに日常だからです。セルフケアは、理不尽な世界に投げ込まれた、自分自身に対する配慮であるとはいえないでしょうか。

自己を配慮するための回路をいくつも持っておくと、いざという時に助かります。「男のくせに」と呪いの言葉を吐く人がいたら、こう言ってやるつもりです。「おれは、生き延びるためにやってるんだ」。

読んでいただいてありがとうございます。