前回の記事は、予想以上にたくさんの方が読んでくれました。興味ぶかかったのは、男性は「サウナ・筋トレ・禁酒」に関するコメントが多かったのに対し、女性のコメントはすごく多様だったことです。

セルフケアは、つきつめれば人それぞれなのかもしれません。そこで、具体的な話の前に、ネットフリックスの人気番組「クィア・アイ」を通して、もう一度だけ「セルフケアとは何か」について考えてみることにしました。

「生活の質」爆上げ番組「クィア・アイ」

「クィア・アイ」は、五人のイケてるゲイたちが、自分に自信をなくしてしまった人たちや、家族に恩返ししたい人たちなどをプロデュースするという内容です。

初めて本番組のことを知ったとき、「登場人物の見た目を洗練させる番組なのかな」と思いました。しかし、それだけではありませんでした。「ファブ5」と呼ばれる五人は、それぞれが専門分野を持っており、生活に関することを広くカバーしています。

①ファッション
②美容
③デザイン・インテリア
④カルチャー
⑤料理・酒

彼らは、服を選び、スキンケアをほどこすだけでなく、部屋の掃除をし、身の上話を聞いて、手料理を伝授します。そして、人生をポジティブに変えていくことに全力を尽くしてくれます。つまり、たんなる変身番組ではなく、「生活の質」爆上げ番組なのです。

最近観たなかで、私がとくに心をうたれたのが、長い孤独に耐えてきた「たそがれのケニー」の回です。

自分のために時間を使わない「たそがれのケニー」

ケニーは、カンザス出身の６４歳。兄弟のなかでひとり結婚せず、実家で両親を看取りました。実家は７０年代末に改装されたままの「タイムカプセル」状態で、親族の誰も足を踏み入れることをゆるされないまま、長い時間が経っています。本人も、若かったころとおなじ、スポーツものばかりを着ています。

両親の写真を見せてもらったり、友人や親族の話を聞いていくうちに、じつは彼が誰よりも優しい人だということが分かってきます。人を助けるばかりで、自分をかえりみないくせがあるのです。近所のクラブに行っても、自分は楽しまず、他人のために飲み物をつくったりしています。食事はいつも、買ってきたサンドイッチ。

つまり、人を慮るあまり、自分のために時間を使わない人なのです。

一同が自宅へ向かおうとすると、ケニーは躊躇します。彼は、家が汚いことを恥じています。

「家に行っていい？」
「断っておくけど、家は汚い。恥ずかしい」

ここで「ファブ５」は、けっして彼を否定しません。彼らは、相手の告白を笑うことを絶対にしないのです。

「そう思わないで。死体さえなければ、あなたをキライにならない」
「手を貸したいだけ」

家をなかを見ているうちに、どうやら彼が、なくしてしまった両親と愛犬の思い出を大切にするあまり、現状を変えるきっかけを失ってしまったらしいことが明らかになっていきます。

「自分は劣っている。他の人が達成したことに比べればそう思う」
「どうせ... 誰も来ないから。家をきれいにする理由がない」
「でもちょっとひどすぎる。だから...　用意はできてる」

「ファブ５」は、彼にどんな提案をしたのでしょうか。

セルフケアの（ひとまずの）分類

「ファブ５」が提案したおもな内容は、つぎの通りです。

①肩幅に合ったジャケットを着る
②長年生やしていた髭を剃る
③独身暮らし用ながら、親族が来られる部屋に改装する
④これまでの人生を肯定する
⑤ルーツであるクロアチア料理「イカ墨リゾット」のレシピをおぼえる

くわしくは番組をみていただきたいのですが、提案のどれもが、ケニーにぴったりはまっているのです。身体に合った服を着て、身だしなみを整えると、もともとの彫りの深い顔立ちが活かされて、どうどうたる紳士になりました。

また、思い出のふり積もった部屋を思いきって改装し、新たな愛犬を迎えたうえで、疎遠になっていた家族を家に呼んで、手作りのイカ墨リゾットをふるまうまでになりました。

私もケニーと同じように「自分なんか......」と感じ、ずいぶん自暴自棄になっていた時期もありました。そんな人に、「ファブ5」は優しく語りかけます。

「そんなことない」
「それは違う」

「誰にも劣らない」
「本当だよ」

「そう思わなくていい」

ケニーと同じことを、ひとりでやるのはムリだと思います。ただ、この五人の専門分野は、セルフケアの分類として、すごく参考になるのではないでしょうか。

①ファッション
②美容
③デザイン・インテリア
④カルチャー
⑤料理・酒

さらに私は「あなたは誰にも劣らない、そう思わなくていい」というメッセージそのものに、とても力付けられました。

「クィア・アイ」は、米国でエミー賞を受賞。11月には、日本エピソードの放送が予定されています。