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「行動デザイン」のためのデザインガイド その2

スティーブ・ジョブズがAppleに戻り、行った改革の1つに「商品の種類を絞ること」がありました。選択肢が多いほうが一見するとユーザーはベストな選択肢を選べると思いがちですが、難しい選択肢や複雑な選択肢を提示されると人は決断を嫌い、先延ばしにします。

選択肢をシンプルにすることは勇気が必要です。しかし、ユーザーは多くの選択肢から自分にあったベストなモノを選びたいのではなく、自分にあったベストなモノを簡単に選びたいだけなのです。

デフォルトとシンプル

ユーザーが自分自身を完璧に理解していることはめったにありません。そこで有効な手段がデフォルトを使うことです。例えばCharity Waterの寄付サイトではデフォルトで100ドルが設定されています。

デフォルトは選択肢を簡単にするだけでなく、一度選んでしまうと変更しづらくする傾向があります。PCの設定を初期値から変えたことがある人は何人いるでしょうか?転職した事がある人ならば、新しい職場で明らかに無駄なのに変えようとしない習慣(デフォルトになっていること)がありませんでしたか?

シンプルとは、より具体的にすることでもあります。ユーザーにどんな行動を取ってもらいたいのか明確にします。ユーザーには柔軟性よりもこう使って欲しい!と呼びかける必要があります。ただし、ユーザーの言葉で呼びかけること。その行動の結果を表現することが大切です。

私達にとって「ログインする」は普通のことですが、初めてインターネットに触れる人達にとっては「使う準備をする」のほうが親切かもしれません。

具体的なベネフィットの提示も有効な手段です。人は具体的なストーリーに引かれる傾向があります。通販番組では必ず使用者の感想が流れます。これは「あなたもこれを使えば、この人のようになれますよ」と具体的なストーリーを基に訴えているのです。

有名な失敗例として、ある慈善団体の蚊帳プロジェクトがあります。彼らは蚊による伝染病を防ぐため、村に無料で蚊帳を配布。しかし、特に明確な指示と使い方をせずに配布したため、結局何万もの蚊帳が漁の網に使われてしまいました。

失う痛みに人は耐えられない

人は得る喜びより、失う痛みのほうを大きく感じてしまいます。

Warby Parkerは2015年、世界で最もイノベーティブな企業としてGoogleやFacebookを抜いて1位になりました。

彼らはメガネ業界で異例の「自宅で無料試着サービス」を始めます。5つのメガネを自宅で無料で試着できるこのサービスは話題を呼び、会社の成長に一役買いました。

SNSを通したコミュニケーションが優れていたこともありますが、一度自宅で試着したメガネはすでに自分のモノであるように感じてしまいます。この時点でメガネを得ることより、メガネを失うことのほうが辛く感じてしまい、そのまま購入してしまうのです。

これはよくある「無料トライアル期間」でも見られることです。物理的なモノやサービスでなくてもこの効果は発揮されます。

例えば、フィットネス系アプリを例に取りましょう。
「体脂肪率が下がってきました!さらに腹筋のエクササイズをすればより健康的な体になれます」
より
「体脂肪率が下がってきました!しかし、追加の腹筋のエクササイズを逃すとリバウンドする可能性が高まります」
のほうがよりユーザーを行動に駆り立てる強力なメッセージになります。

またオンライン授業を展開するUdacityは卒業すると授業料の半分が戻ってくる仕組みを採用しています。先に支払ったお金を失いたくない気持ちとコミットする気持ちの両方をうまく使っている事例です。

インセンティブとリワードの落とし穴

人を動かすためにはインセンティブやリワードが必要だと知りながら、多くの方はインセンティブとリワードの違いを理解していません。インセンティブは未来に対する約束であり、リワードは過去に起こった望ましい行動に対してすぐに与えられるものです。

例えば契約を取るごとに10万円のボーナスが出るのはインセンティブ。この場合、契約が取れるのは未来のことであり「もし契約が取れたら10万円差し上げます」という約束になります。

リワードは例えば10km走る毎にアプリ内でレベルが上ったり、ランダムにポイントが付与されたりすること。この場合、10km走ったという「過去の行動」に対して注目しています。

リワードで気をつけるべき点は望ましい行動が起こった時に、すぐに何度も継続的にリワードを与える必要があること、かつ、バラエティを持たせることです。

インセンティブにも同様、気をつける点があります。それは社会的なインセンティブなのか、それとも経済的なインセンティブなのか、顧客とどんな関係を結ぼうとしているのか見極める必要があることです。

例えば、結婚して間もない夫婦が母方の家のディナーに招待されたとしましょう。招待された夫が間違っても「お母さん、今日のディナーはとても美味しかったです。お礼に3万円をお支払いしたいのですが現金でよろしいですか?」などと言ってはいけません。

お母さんは確実に失望するでしょうし、もうディナーには呼ばれないでしょう。

彼女にとってお金がインセンティブではなく、もてなすことで感じられる家族の繋がりや自己貢献感のような社会的なインセンティブを期待していたのです。

経済的なインセンティブは社会的な文脈を排除する力があります。感謝の言葉やハグなどお金やモノに頼らないインセンティブは経済的なインセンティブに弱いのです。

参考:+ACUMAN

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