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恋は穏やかに死んで

深夜1時。1日の仕事を終えてベッドに転がると窓からお月さまが見えた。

寝返りをうつと、隣のベッドでオットくんが生きてるか死んでるか分からない程度の寝息を立てて眠っている。
寝ているときにあまりにも動かないものだから、たまに本気で心配になって鼻をつまむ。
すると「ふえっ」となんとも微妙な声を出すので、それを聞いて、ヨカッタヨカッタ、ちゃんと生きていた、と私はまたベッドに潜り込む。

ねえ、そこの奥さん。
旦那さんのこと、好きですか?

恋人だった期間を含めると付き合いは10年にいくらか足りない程度。向こうはどうなんだろうなあ、何も考えてないかな、だろうな。
まあ普通に考えたらその間、恋愛はしていないわけじゃないですか。
いやもうそれだけブランクあったら、現実で好きってどういう感情だったか忘れてしまいそう。
ドキドキすることもないし、会いたくて会いたくて震えることもない(いやそれは恋人になりたてのころにもなかったけど)。最近、一番ドキドキしたのってなんだろう、と振り返ってみたら、パソコンのデータが飛んだことだ。あれは鼓動が速くなりすぎて絶命するかと思った。

家で待っていれば、帰ってくる。
待ち合わせをすることもなく、2人で遊びに出かける。
次の日が休みなら、夜遅くまで筋肉痛になるぐらいマリオカートに勤しむ。
毎日会っててよく飽きないよなあ、と思うけど、それがたぶん家族というやつなんだろう。

この隣で寝ているひとのことを、私はどう思ってるんだろうなあ、としみじみ、考える。
好きとも違うし、友達とも違うし、パートナー? 仲間? 家族? ……うーん、どれもしっくり来ない。
でも、一緒にいて居心地がいいのは確かだ。

ときめきたいなあ、と思うことはある。
でも、恋をするのもしんどい。
そもそも情熱というものがあまりないので、いろいろ投げ出して誰かを好きになるのもしんどい。
これから死ぬまでこの人とまったり過ごしていくのかしら。
……うん、ちょいとたるいけど、しんどくはない。
そう考えると、ときめきたいという欲求もくしゃみみたいなものなのかもしれない。

たまに、オットくんはうなさられる。
うーん、うーん……。
ハイハイ、と言いながら頭を撫でるとすぐにおさまる。
それですり寄ってきたりでもしたら、きゅんとするのかもしれないんだけど(想像できない…)、ぷいっとこっちに背を向けてまたスヤスヤ眠り出す。
かわいくねえな、と思いつつ、かかとでお尻を軽く蹴る。

きっと明日の朝起きたら、
「おくさんに蹴られる夢見たよ〜」
とか言うんだろう。
そういうことだけは覚えてるんだ、こいつは。
余談だけど、今までで一番うなされていたときに見ていた夢は
「怒った奥さんに自転車(オーダーメイドのやつ)を捨てられた」
というものらしい。それいいな、本気でやってらんないと思ったらやってやろう。

さて奥さん。どうですか?
旦那さんのこと好きですか?

私は分かんないです。

ちょっと自分が死ぬときのことを想像してみる。
最期に思い浮かべるのは、誰の、どんなときの顔なのか。
結局、運命だった人のことなんて、死ぬまで分からない。運命の人なんていないかもしれない。出会わないかもしれない。
ただ、死ぬときに、後悔とかそういうんじゃなくて、
「ああ私、あの人のこと好きだったのね、ふふふ」
なんて笑っていられたらいい。
だからどうか、本当に好きだったあの人のことは忘れずにいられますように。

#エッセイ #夫婦 #好きな人 #恋

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