見出し画像

存在もしていないし、もちろん読めるはずもない本について堂々と語る④   『杏奈か麗、仁奈』都留州戸井

 普段とは違う語り口で書けたりできるのが、ちょっと楽しい。今更ですが空想レビューに関しては、レビューの筆者は必ずしも私、R.S.ではない場合があります。どういうことか言うと、レビューを書いている筆者自体が私の創作である場合があります。

(※ここからはすべて存在しない小説について語っています。)

 どこまでも人をおちょくった作品だ。世紀の大駄作といっていい作品である。著者だけでなく、この作品の出版を許した出版社に憎しみを抱くほどだ。恋愛小説の〈れ〉の字も知らない作家と編集者が作った恋愛小説の悪い見本のような作品だ。

 本書『杏奈か麗、仁奈』は、片仮名に直せば『アンナ・カレーニナ』、作者名は『都留州戸井』は、トルストイのことだろう。帯には、別名義で著作のある作家が覆面作家で再デビューと書いてあるが、プロ作家の文章、描写とはおよそ思えないような稚拙さ! もともと大した著作の無い作家の受け狙いとしか思えない。すくなくとも私が評価することなんて絶対ないだろう、下手くそな作家だ。そもそもあなたは『アンナ・カレーニナ』を読んだことがありますか、と著者に聞きたくなるほど、その1/10でも、その崇高さを受け継いでいれば、まだ評価できたものの……。

 内容に触れるだけで気が重くなるが、触れないわけにもいかないだろう。主人公は結婚10年目、45歳の文具メーカーに勤務する営業マン。押しの弱い性格で仕事もうまく行かず、婚活パーティで知り合って結婚した妻は自堕落で鬼嫁タイプなので家でもこき使われている。まぁこの魅力の欠片も無い男が、杏奈、麗、仁奈という三人のタイプが違う(書き分けが下手過ぎて、どれも一緒に見えるんだけどね)女性と不倫する、という話なんだけど、私だったら絶対付き合わないね、こんな男。

 同僚で7歳年下の杏奈と同窓会で再開した同い年の麗はふたりとも美人であることが表現されているが、そんなふたりがこんな魅力ゼロの男を好きになるか。まぁ仕方ないここは百歩譲って許そう。問題は、三人目の仁奈である。美少女の女子高生が主人公に一目惚れして猛アタックされるのだ。こんな美少女ならたとえ援助交際だって人を選べるだろうに、よりにもよってこんなさえない男を……。恋人と別れてまで追い掛ける美少女の情熱的な恋。その恋に見合う相手ではない。

 主人公は最後、愛する女性とともに死を選ぶが、その相手が杏奈というのも微妙としか言えない。杏奈は、村上春樹を愛する文系女子。きっと著者の好みなのだろう。

 まさかこんな表現をもうすぐ2020年という世の中で使うことになるとは思わなかった。

 人間が書けてない小説だ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いじゃないが、これを評価する奴も私は嫌いだ。

(いないとは思いますが、もしも小説化したい方がいたら、どうぞご自由に。いないか……。)

後日談……?