見出し画像

存在もしていないし、もちろん読めるはずもない本について堂々と語る⑦   『恋愛小説嫌いデスゲーム ~恋愛か、さもなくば死を~』高見祐介

 書けない。読書レビューのほうが……。うまく書けなくなってきている気がする。もしやこれのせいでは……、と言いながら続ける。

(※ここからはすべて存在しない小説について語っています。)

 Web発新感覚ホラーノベルという触れ込みで登場した本作は、高見広春『バトル・ロワイアル』や貴志祐介『クリムゾンの迷宮』といった作品が有名な、いわゆるデスゲームもののひとつと言っていいと思いますが、このジャンルには、おどろくほど数多の名作・怪作が存在する。

(定義をどこに持ってくるかによるが)たとえば思いつく限りあげれば、映画であれば「SAW」「CUBE」「CABIN」、小説であれば前述した作品以外にも法条遥『忘却のレーテ』、矢野龍王『極限推理コロシアム』、米澤穂信『インシテミル』、ゲームの「ダンガンロンパ」シリーズなどが筆者にとっては印象的な作品だった。ここに挙げた以外にも、あまりにもバラエティに富んだ作品が並んでいるので、正直なところ本書が新感覚なのか、新機軸を打ち出したものなのかは判断が付かない。それでも筆者にとっては頗る刺激的な読書体験だったことは間違いない。

 ネタバレあり。未読の方はご注意を!

《おれは今、人生でもっとも嫌いな恋愛小説というジャンルの小説を書いている》という一文で始まる本作は前書きの時点で、主人公の過去のことを小説形式で書いた、という作中作の構造を持った作品だと明かされている。この主人公がデスゲームの当事者である。佐藤将司というミステリ作家をしている27歳の小説家で、恋愛経験が乏しいことから恋愛小説を憎悪している。そんな将司が突然、何者かに襲われてしまい、気付いたら縛られて自分の自宅の椅子に座っている状態だった。目の前には素顔を隠した三人組が立っていて、「あるお嬢様と恋を成就させろ!」と命令される。もし成就できなければ死が訪れる、と脅された(相手は将司に関する情報をすべて把握していて、明らかに本気だと分かる)将司は、その真意も分からぬまま、初めて会うお嬢様との本気ではない恋を命懸けで成就させようとするが、徐々に本心から彼女のことを好きになっていく。

 作中作を書いている時点で将司はまだ生きていることが分かり、恋愛小説を書いているのだから、恋は成就した……という安易な展開にはもちろんならず、先に書いておくとその恋は成就せず、ふたりは悲劇的な結末を迎える。まず謎の三人組が所属している〈組織〉なるものの正体は完全には明かされず、お嬢様はこの〈組織〉の一員ではあるものの過去に〈組織〉を裏切ろうとしたことから、過去に十回ほど行われているこのデスゲームの参加者になってしまう。そう将司だけではなく、お嬢様も命懸けで将司を好きになろうとするのだから、将司が本気になるのも当然と言える。

 一度だけ差し込まれるお嬢様の心情。その〈組織〉への疑念と将司への想い。徐々に明かされる〈組織〉の主であるマザーの異常な恋愛憎悪。そしてお嬢様の死とともに将司は〈組織〉を壊滅させるために闘い続けることを決意し、物語の幕が閉じる。デスゲームと恋愛を重ね合わせて、SFで終わる、という良くも悪くもサービス精神過剰な作品で、通販サイトの評価は概ね芳しくなく、特に後半の展開が嫌われているようだが、ここまで色んな要素を詰め込めるのも才能だと思うし、筆者は意外と嫌いではない。

 恋愛デスゲームという言葉からは想像しづらい展開が待っていることも事実だが、同時に先の読めない展開であることも間違いない。文章や展開などが多少荒っぽくても、壮大な娯楽作品が読みたい、という読者におすすめしたい作品だ。

(いないとは思いますが、もしも小説化したい方がいたら、どうぞご自由に。いないか……。)