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結婚できませんでした。

(どんなタイトルやねん。)

4年近く付き合った人と別れた。

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彼女と出会って約4年、僕は安定を手にした。

毎月の収入も、居心地の良い家も、心の拠り所も、あった。

なんとなく大人になっていく感覚が、なんとなく落ち着いていく感覚が、ハッキリとあった。

それが、望んでいたものかは別として。

結婚すると思っていたし、そんな話もしていた。

だが、別れを告げられた。

数日経っても消えない虚無感とふと襲ってくる淋しさ。

時間が解決してくれる。

日常はきっと戻ってくる。

だけど、もう誰もいないのなら、あの日常に戻りたくない。

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冒険をやめて、農家になった。

発信をしなくなったのは、もう伝えたいことも、言いたいことも、知って欲しいことも、かまって欲しいことも、昔に比べて減ったから。

承認欲求が減ったのではない。

ただ、心が潤っていたんだと思う。それはほんのりとした安心感からくるもの、つまりは幸せだった。

今は、心が枯渇している。

カラカラに、渇いている。

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2018年、僕はパプアニューギニアから帰ってきて冒険の次に夢中になれるものを探していた。

全国をウロチョロしながら、お金もないから、次はどこで働こうなんて考えていた。

当時28歳、そんな生活も4年目に突入していた。

その年の春、僕は大阪のとあるシェアハウスにいた。

住人のほとんどがタバコを燻らせ、部屋は灰色のモヤがかかっていた。

少しばかりの居心地の悪さも感じていた。僕はタバコが嫌いだから。

その部屋に、もう一人だけタバコを吸わない人がいた。

それが、彼女だった。

出会った頃は口下手で、自分の意見をあまり言わない人だった。

何に惹かれたかは分からないけど、一緒に居たいと思った。

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当時の僕らにはお金がなかった。

古いマンションに、ジモティで見つけた無料の家電を置いて、街を歩けばソファやら家具やらを拾って生活の道具を揃えた。

夜の散歩が、僕らの趣味になっていた。

もちろん、今思えば廃品を持って帰ってはいけないけど、それは許して欲しい過去であり、彼女はそんなことを一緒に笑ってやってくれる人だった。

出会った頃の彼女はアトピーの症状が濃く出ており、それが原因で何度も仕事を変えていた。

自分が支えなくちゃと少ない貯金を切り崩し、互いに支え合った。

あの時ほど将来を不安に感じた事はない。

だけど、何もかもが楽しかった。

そんな時代を乗り越えて、2019年、夏、長野での同棲生活が始まった。

彼女はライブ配信という世界に出会い、僕は実家の葡萄農家を継いだ。

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コロナの影響もあってか、はたまたCM効果か、ライブ配信という世界にスポットライトが当たり、各アプリの視聴人口が爆発的に伸びた。

彼女自身の頑張りも加わり、俗に言うトップライバーの仲間入りをし、月収が僕の2倍3倍4倍と凄まじい勢いで伸びていった。

活躍する姿を見て、素直に嬉しかった。

だけど、その代償として多くの時間が消えていき、すれ違いはそこから始まったのかもしれない。

僕はといえば、半年の農作業と、半年のスローライフという、理想に近い働き方に辿り着き、家族の理解も得られるようになった。

結果、趣味に没頭する日々を過ごすことになる。とは綺麗な言い方で、つまりは堕落していたのだ。

体重も20kg増えた。

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2020年、冬。

長野での同棲生活に終止符が打たれた。

折衷案の仲良し別居という選択をして、しばし距離をとって生活する運びとなった。

そして、そのタイミングで旅へ出た。

ダイエットと称した、チャリ旅である。

コロナによってどこへも行けず、今までやった事のなかった日本旅をスタートした。

その旅の道中、一人の青年に出会った。彼も同じく自転車に乗って旅をしていた。

道の駅にテントを張って、長い時間、互いの話をした。

それは、昔の自分と対話しているような感覚で、どこか懐かしい感じもした。

そこではじめて、僕は大人になった、なってしまったんだ、と実感した。

もう若くもないという現実も受け入れたし、何より、応援する側にいるのだと知った。

現実は何とも受け入れ難い。

青年と別れた翌日、僕は焦っていた。

まるで部屋に迷い込んだ虫が、必死に窓ガラスにぶつかる感じ。

外に出たい、ここから出られる、なのに出られない。

もどかしい気持ち。

果たして、13kg痩せて帰ってきたが、変化したのは体型だけで、妙な感覚だけが残った。

「何かが違う」

いつもこんな事を思っている。

情けない。

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今年の話。

頑張りたいという気持ちで筋トレも英語も始めた。

だけど、どっちも長続きしなかった。

努力が継続できない体になっている自分がそこにいて、焦りを通り越して、諦めみたいな感情に辿り着いた。

もがいてジタバタする、そんな姿を彼女は見守ってくれた。

「りょうくんなら出来るよ」

その言葉を何度も言ってくれたのに、結局、何も出来なかったし、何もなし得なかった。

もう一度、夢中になれることを探したつもりだったが、未だ、出会えていない。

強いて言うなら、彼女と一緒になることが、その代わりになるものだと思っていた。

だけど、そんな考えの僕に、次第に魅力を感じなくなったのかもしれない。

本当のことは分からない。

考え過ぎなのかもしれない。

それでも、彼女の気持ちが途切れてしまったのも、振られたのも、事実。

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先週の話。

思い出の地京都の鴨川にて、彼女との、3年8ヶ月の日々にサヨナラをした。

僕はもう覚悟を決めていたけど、彼女の方は覚悟がまだ無いらしく、7時間歩き続けて「別れよう」と言葉にした。

すでに陽は沈んで、人通りの少ない五条鴨川の遊歩道、彼女の後ろには京都タワーが光っていた。

学生時代に何度も見た景色が滲んで見える。

本心、僕は別れたくなった。

だけど、引き止めるほどの理由も自信も、強くあれる言葉もなかった。

素直に、別れの言葉を受け止めた。

「なんでこんな結果になったんだろうね」

彼女も別れのハッキリとした理由を見つけられずにいた。

思い返せば、たぶん、たくさんの理由があった。

お互いに求めすぎた事、共依存の関係になってしまっていた事、仕事による時間のズレが生じた事、婚期のタイミングを先送りにした事…。

どれも合っているようで、どこか違う。

彼女が必死に走り続けてる横で、僕は努力を怠っていた事。どんな自分でも好きでいてくれると、かまけた事。

彼女はただただ一生懸命生きてきた。

原因は僕の方にある。

それに、ようやく気が付いた。

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僕は今、変化したいと、4年間止まっていた時計を動かしたいと、思っている。

この数年間僕は、世間を批評し、人を批評し、作品を批評し、だけど、自分の事だけは批評しなかった。

その代償が、こうした結果を生んだのだと思う。

だから今、僕は僕を批評する。

これまで、僕は恋愛をそんなにしてこなかったし、不器用な方だと思っている。

彼女と付き合ってたくんさんの事を知ったし、人生ではじめて、心にポッカリ穴が開く、という経験をした。

人はこういう時に成長する、なんて言うけど、最初から成長しておけよって話で。

わかってる。

頭の中だけは完璧。そんな世界を壊さなくちゃ。


壊さなくちゃ。


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