見出し画像

#呑みながら書きました

原稿の締切がすぐそこまで迫っている。

あまり人に言えないライティングの仕事。僕の仕事には二種類ある。胸を張れる仕事と背中を向ける仕事。今、手を付けているのは後者。

そう言えば、冷凍庫にボンベイサファイヤがあった。煎茶を漬け込んで半分手を加えたインフューズドジン。ロックグラスに注ぐ。とろりとした質感はいつみても色っぽい。緑茶よりも林檎ジュースの色味に近い。馥郁。ふくいく。バーテンダーは香りについて語る時、「馥郁」という言葉を使いたがる。ほんのり青っぽい香り、それは茶の成分に違いなく、一番最初に立ち上がり、鼻に抜ける一番最後まで残り続け、余韻を残して消えていく、消えていく、消えていく。

消えていけ。

酒を飲みながら文章を書いたことがない。文章にも失礼だし、酒にも失礼だからだ。それはきっと僕が、物書きでありながらバーテンダーであるがゆえの特別な感情なのかもしれない。よくよく考えてみれば、お互いの良いところを知っているのだから、文章を書きながら酒を飲めばいいし、酒を飲みながら文章を書けばいいはずで。僕は今まで、ずっと大きな勘違いをしていたのかもしれない。そう思った瞬間、気付いた。

僕の仕事は酒を飲むことではなく、カクテルを作ることだった。

文章を読むことが仕事ではないように、酒を飲むことが仕事ではない。でも、文章を読まなくては魅力的な文章は書けないし、酒を飲まなくては魅力的なカクテルを作ることはできない。
煎茶を漬け込んだジンはどこかパイナップルのような甘味がする。苦味の奥の奥の奥の、ちょっとした隙間に現れる熟れた果実の甘み。それは、手に取って掴んだ瞬間、消えていく、消えていく、消えていく。

消えていけ。

原稿の締切がすぐそこまで迫っている。と同時に、#呑みながら書きました の締切もすぐそこまで迫っている。
今日、マリナ油森さんとTwitterでやりとりをした。「noteの企画を立ち上げてみると、そこに応募されてくる作品は皆平等に愛おしい」ということを分かち合った。自分が企画してはじめて実感した。



だから僕も肩の力を抜いて、誰かの企画に参加したい。マリナさんにそう言った。すると彼女はとても感じの良い言葉で受け止めてくれた。素敵な人だと思った。
このnoteを書きはじめるほんの数分前に、#呑みながら書きました の締切が今日の0時までということを知った。そして今、僕はそのことについて書いている。

とりあえず、ジンを飲み、頭に思い浮かぶことをただタイピングしている。あまり人には言えないライティングの仕事は脇において、今、このnoteに集中している。

これはきっかけなんじゃないかって思う。
酒を飲みながら文章を書くことがなかった僕が、そのラインを飛び越えた。企画に参加することがなかった僕をマリナさんがとても感じ良く受け止めてくれた。今日が締切だということも、そして僕の原稿の締切だということも。

僕の仕事には二種類ある
胸を張れる仕事と背中を向ける仕事

この企画を選んだと同時に、酒を飲みながら文章を書きはじめたと同時に、僕はラインを越えた気がする。

もう、やめ時なのかもしれない。

これは決意表明になる。酒を飲んでいるからじゃない。いろんな偶然が重なって、いろんな想いが駆け巡って、一つの答えに辿り着いた。
もう自分に嘘をつくのは嫌なんだ。背中を向けて得たお金は、僕の文章に本当の意味で生きることになるのか?僕は嘘のない言葉で表現したい。目の前に大きな壁があっても、誰かに何かを言われても、僕は「僕の言葉」を書きたい。

消えていけ。

それは僕の身体に潜む嘘。手となり、足となり、その場の体裁のためになめらかに動いてしまう嘘たち。今日を限りに消えて行ってもらう。

この企画に参加できてよかった。
少し酔っぱらったけれど、決意をするためにお酒の力を借りるのは悪くない。片道の燃料しか積んでいない飛行船に乗った若者たちも、旅立つ前は酒の力を借りた。彼らと一緒にすることは失礼かもしれないけれど、でも、決意に重たいも軽いもない。

僕はもう、自分に嘘はつかない。
自分の仕事、自分の言葉に全て責任を負う。

飲みはじめた時より、ジンの苦みは薄れ、パイナップルに似た果実の甘みが濃くなったような気がする。
この企画と出会えてよかった。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。