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ルールの意味

ハローウィンの季節になると、仮想した若者たちで渋谷の街は楽園と化す。
お酒に酔ったミッキーマウスやゾンビが街を練り歩き、信号無視に始まって、ひどいときには軽トラックをひっくり返す者まで現れた。
暴動にも見えるルール違反もこの日限りと許される祭りなのだろうか?
 
夢の国の話を聞いたことがある。
 
夫婦は、息子の5歳の誕生日に彼が一度は行きたいと言っていた夢の国に彼を連れて来たそうだ。
主治医から余命宣告を受け、残された彼の人生を少しでも充実させてあげたいとの願いからだったそうだ。
一日をいっぱい遊び、立ち寄ったレストランでお子様ランチを注文、それを美味しそうにほうばる彼の姿に夫婦は笑顔で涙したという。
来年の誕生日も又来ようねと約束する家族、しかし、その約束は守られることはなかった。少年は白血病でこの世を去る、僅か5年と数か月の命だった。
 
一年後、夫婦は二人だけで夢の国を訪れる。
少年の6歳の誕生日に彼と約束したお子様ランチを食べるためだ。
しかし、レストランにはお子様ランチは7歳以下のお客様に限らせて頂きますと表記されていた。
 
夫の手を握る妻の右手には力がなく、それを優しく包む夫の左手にも落胆の色が隠し切れない。
夢の国には似ても似つかない夫婦に、一人の店員が声を掛けたそうだ。
夫はその店員に息子のことを話す。そして今日がその子の6歳の誕生日であること、一年前の約束を守ってあげたいことを……
 
話を聞いた店員は「お子様ランチ2名様分ご用意いたします」と即決で答えたという。
 
勿論これもルール違反だ。
 
そして、夫婦を店内に招き入れた店員は、テーブルまで案内する途中に最高の笑顔とこれ以上ないくらい明るく大きな声で言ったそうだ。
 
「3名様! ご案内いたします!」
 
どちらの行為も楽園で起きたルール違反には変わりはない。
ただ、その理由には大きな違いがある。
前者は人に迷惑をかけただけの行為であり、後者は、人の心を優しくするための好意だ。
 
ルールとは、人々が幸せになるために存在するものであって、その存在意味もここにあると思ってしまうのは私だけだろうか?

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