『デヴィッド・リンチ:アートライフ』を観て

海外ドラマファンでなくても、ツイン・ピークスという作品名は知っている人も多いだろうし、日本においても、デヴィッド・リンチの名前はかなり一般的に知られていると思う。今も、リンチの作品だから観たい!という層は、決してレアではないだろう。

彼の作品を意識して観たことがない自分も、(どちらかと言うと、今まであまり関心がなかった)表題のドキュメンタリー映画の存在を知り、リンチという人をより感じ取れたらという気にふとなったので、先日UPLINK渋谷で観てきた。今回はその映画の感想についてです。

先日の谷川俊太郎氏について書いたこととも重なるが、これだけの才能があるリンチでさえも、映画でメシを食えるようになるには、若い頃とても困難があったのだな、ということが印象的だった。父親や兄弟から、早く仕事につけという催促もあったという。自身アートライフだったと述懐している若い時期は、職業的には生業として成立していない、まだアーティストとして萌芽していない、だからこそ好きなことだけを追求できた、好きなことを極めることを余儀なくされた幸せな時だったのだろう。

映画の中で、彼がただひたすら絵を描いているシーンが多く流れている。その絵画手法の専門的な知識が自分にはないので、よく分からないが、かなり独創的だと感じる。根っからのアーティストなのだということは、映像から十分に伝わった。

ただ、映画の中で、ひときわ心を奪われたのは、やはり過去の映像作品がスクリーンの中のディスプレイから流れた瞬間だったのは否めない。あれだけ絵を描いているシーンを見せられながらも、ほんの数秒の映像作品が、もう端的に感覚的にリンチのリンチ足らしめるシーンであることは間違いないと思えた。その数秒のシーンが彼の全てであり、他の表現方法を凌駕しているのだ。それは彼が望まなくても、現れてしまう、見つかってしまう才能なのだと思う。それが分かっただけでも、とてもいい映画だった。

映画を観たあと、同じ渋谷でやっていた、リンチの版画展を観た。もしかしたら、映画では感じなかった彼の映像作品以外の才能を感じられるかもと期待して。

版画展は、確かに良かった。しかし、映画の中の映像作品で観て衝撃を受けた以上の感動はなかった。

それでも自分はリンチに落胆していない。もし彼が絵画で成功したくて研鑽して描いて、でもそれほどに評価されなくても、それでいいとも思う。

映画では、彼の才能の豊富さ、多才さを伝えたかったのかも知れない。だが、自分にとっては、彼の映像作品の独創的で他の誰とも似ていない才能を、改めて感じさせる際立たせるドキュメンタリーだった。
まだ幼い末娘とのシーンが微笑ましかった。彼女の存在が、これからのリンチの作品に何らかの影響を与えるだろうと、期待もさせる映画だった。
自分みたいにリンチ作品をほとんど観てなくても彼の何かが伝わる映画だったので、広く多くの人に是非観て欲しい。

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