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【FIN DAY3】ファイナンスⅠ③

今回はファイナンスについての説明を入れてるので長めです。
最近、このnoteを見てくれている人から「何を書いてるのか難しくてよく分からない」と言われることが増えてきたので、簡単な説明いれてみました。

クラスの概要

【テーマ】経営戦略と事業評価&資金調達手段の関係性
【ケース】インダストリアル・アクセサリーズ社

今回のケースに出てくるインダストリアル・アクセサリーズ社(以下、IAL社)は、重機等のアタッチメントをオーダーメイドで顧客に販売するカナダの会社。

こういうショベルカーの先っぽのやつを、顧客のオーダーに合わせてカスタマイズして売る会社です。(他の商品もあります笑)

IAL社はカナダ西部で50%のシェアを持っており、財務状況もすこぶる好調。創業者のストーン氏が会社をここまで育て上げてきたが、体調が悪く年も取ってきたため株主と会長という立場は保持しつつも実際の経営は社長のマクレーン氏ら経営陣に任せている。

ストーン氏は自身の体調の問題もあり、この会社を売却しようと考えている。事業に関してもこれ以上会社を大きくするつもりもなく、しっかりと利益を回収していこうという考え。

しかし、40代後半のマクレーンを始めとする現経営陣はイケイケで、カナダ中部や東部へと事業を拡大させていこうと考えている。

そこで経営陣のマクレーンらはストーン氏から株を買い取り、自分たちの拡大路線を推し進めていきたいと考えた。ストーン氏は自身が保有する株の時価総額は3000万ドル。1ドル100円で計算すると日本円にして30億円。マクレーン以下経営陣は、ストーン氏から株を買うべきか、買うとするとその資金はどう調達するのがよいのか。株主を募り資金を調達するのか(=株主資本オプション)、借りる(借入オプション)のがよいのか。

カナダ中~東部へ進出した場合の売上や予測を立て、今後入ってくるであろうキャッシュを現在の価値に割り戻して企業価値を求めるというのが第一段階。

そして、もしストーン氏から株を買うとした場合に、エコノミクスがどう変化するのか。これが第二段階。

最終的にはじき出された数字を参考に、数字以外の定性的な面も考え最終的に意思決定するというのが今回のワーク。

ファイナンスについて

決算書というのを聞いたことがあると思うが、その決算書の中に“財務3表”というのがある。それは損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つのことだ(非上場企業の場合はキャッシュフロー計算書の作成義務がない)。

損益計算書には、今年いくら売り上げて、いくら費用がかかり、結局利益がいくらなのかというのが書いてある。英語にするとProfit and Loss StatementなのでP/L(ピーエル)と呼んだりする。会社が黒字か赤字かはここを見ると分かる。

貸借対照表には、お金をどこからいくら調達して、何に使ったのかが書いてある。英語にするとBalance sheetなのでB/S(ビーエス)と呼ぶ。借金がいくらあるかとか、現金がいくらあるかとか固定資産がどのくらいあるかなどはここを見ると分かる。

キャッシュフロー計算書は、現金がいくら入り、いくら出ていったかが書いてある。Cash Flow StatementなのでC/S(シーエス)とかCFSと呼ぶ。本業でいくら稼いだか、投資にいくらかけたか、借金をいくらしたか(または返したか)などはこれを見ると分かる。

このような分野を扱うのは、アカウンティング(=会計)になる。つまり、お金の流れや、調達、使い道が「どうだったか?」という過去の数字を基本的に扱うのが会計の分野だ。(予測財務諸表など例外もあり)

これに対して未来の数字を扱うのがファイナンスだ。これから行う事業について、将来どのくらいの利益が出そうで、それは現在の価値にするといくらなのか、投資額は回収できるのかと、そんなことをやるのがファインナスの領域だ。

ファイナンスでは、キャッシュ(=現金)の価値は時間とともに目減りすると考える。今日の100万円と1年後の100万円では、今日の100万円のほうが価値が高いと考える。10年後の100万円より1年後の100万円のほうが価値が高いと考える。

同じ100万円なのになぜ価値が違うのか。

例えば、とある紳士がやってきて「君に100万円をあげよう。今すぐもらうのと1年後にもらうのとどっちがいい?」と選択を委ねられた場合どっちが得なんだろうか。

ファイナンス的に結論を出すと、今すぐにもらうほうがいい。なぜかというと、今日もらった100万円を銀行に預けておけば、(雀の涙程度はあるが)利息がつくため1年後には100万円以上になっているからだ。
さらに、この100万円をくれるという話が1年後には消えている可能性がある。「ああ、あの時はあげようと思ってたけど気が変わった」と言われたらおしまいだ。これをファイナンスではリスク(=不確実性)と呼ぶ。未来のことになればなるほど分からない(確実でなくなる=不確実=リスク)ので、その分価値が減ると考えるのがファイナンスだ。

ではどのくらい価値が減るのか。それは割引率というものを使って未来のお金の価値を現在の価値に計算しなおすことで、現在の価値になおすことができる。これを現在価値(PV)という。

つまり、1000万円の投資をすることで毎年100万の利益がでる事業があるとしよう。毎年100万円の利益だと、100万×10年で1000万円だから10年で元を取るよね、と考えるのはファイナンス的には間違いとなる。なぜかというと来年以降の100万円はどんどん価値が減少しているから。

とまあ、こんな計算をやって意思決定に役立てるというのが経営におけるファイナンスだ。

具体的にはこんな計算をする

最初見た時は「これは何の暗号だとう」と思ったが、学んでみるとそう難しいものでもない。これでなんとなくファイナンスの意味は伝わるだろうか…。

ということで今回のIAL社のケースでもこういう計算をやって、事業を拡大するのかとか、株を買うのかとか、そういう判断を下すことをやった。

介護業界での活用

今回のケースでは、自社が競争優位性を築けている場所から飛び出して、より成長している市場に向けて事業展開していこうというのがテーマだった。

お金の話だけではない。現在成功しているビジネスモデルを他の地域にもっていった時にそのまま使えるのか、自社の競争優位性は通用するのか、競合はどうなのか、予測売上や予測利益は実現可能なのか、色んなことを考えなければならない。

介護保険サービス業界では、市場を牛耳っているほどの大手はいないが上場している大手も地方で規模を拡大している非上場の中小企業も、今後ますます拡大路線をすすめていく企業が増えると思われる。

その時にファイナンスをしっかりやることで意思決定の精度が増す。逆にファイナンスなしでどんどん意思決定していくことの危うさもある。

天才的な嗅覚やするどい感覚で事業を成功させていく天才経営者もいるのかもしれないが、僕のような凡人は理論に頼らざるを得ない。

とにかく投資はどんな企業も行うので、ファイナンスの視点をもつというのは経営者にとって重要だろう。

自社(自分)への落とし込み

先々週あたりから、新しく施設を建設して新規事業をはじめた場合のNPV(正味現在価値)はいくらになるかという計算をやっていた。

まず22年分の予測の損益計算書を作った。なぜ22年かというのは、木造で建てた場合の耐用年数(減価償却期間)が22年なので借入もその期間に合わせて返済していくだろうという前提を置いた。また自社エリアでの需要も22年後はそこまで減少していないこと(人口推計より判断)や、事業の性質上景気に左右されにくいこと、売上の上限がありこの事業の成長性は天井に達するとゼロになること、高稼働率を維持することがKSFのひとつであることなどから22年分作っても大きく予測は外れないだろうと仮定した。(まあ介護保険がどうなるかは分からないけど、予測できないものを考えても仕方ない)

事業が軌道に乗るまでは月次で、軌道に乗り売上と利益が安定してからは年次で予測P/Lを作り、そこからフリーキャッシュフロー(FCF)を出した。

FCFは「EBIT×(1-税率)+減価償却ー投資ー⊿WC」で算出する。そこで毎年度いくらキャッシュが生まれるか分かる。それを割引率(WACC)を用いて現在の価値にもどすと、この事業の価値が金額で出てくる。EBITというのは税引前当期利益に支払利息を足し受取利息を引いたものだ。営業利益で代用することもある。WCはワーキングキャピタルのことで運転資本や運転資金というものだ。介護報酬は2か月遅れで支払われるので必然的に2か月分の事業費用は確保しなければならない。⊿WC(デルタWC)は、運転資本が年ごとによって変化する場合の差分だ。

建設費をいじるとNPVが変わるようにエクセルを作り、〇千万かけると赤字だとか、〇千万円以内に収めると事業として成り立つなとかそんなことが判断できる。

こういう計算をしてみると、事業のイメージがものすごく明確になってくる。長期的な予算も決まってくるし、何にいくら使えそうかも決まってくる。社員の給与だって決まってくる。

これまでいかにどんぶり勘定でやってきたかを反省する良い機会になった。売上の天井が決まっているためまずは財務戦略を固め、そこから介護事業のコアともいえる人事戦略をどう考えるかなどさらに落とし込んでいくことで、今まで闇雲に悩んできたことがかなりクリアになってきた。

やはりファイナンスは経営だ。

介護サービスの会社を経営しながら、経営学を学ぶため大学院に通っています。起業前の13年間は特養で働いていました。介護現場と経営と経営学、時々雑感を書いています。記事は無料ですがサポートは大歓迎です(^^)/