3分でわかる測位衛星の法律問題

生活インフラとしての測位衛星

初めての場所に行く時、私たちはGoogle mapなどを通じて位置情報を使います(少なくとも私はGoogle mapがなければ初見でX-NIHONBASHIに行けませんでした)。宇宙基本計画では、準天頂衛星システムは2023年度をめどに持続測位可能な7機体制での運用を開始するとされています。
測位衛星は衛星から発信される電波によって位置を特定するという仕組みというわけですが、仮に誤った情報が衛星から発信され事故が起きた場合(例えば、位置情報の誤りによって交通事故が発生した場合)、直接の事故の加害者のほか、誰にどのような責任が発生するのでしょうか?

当事者の整理

測位衛星を使ったサービスには、多数の当事者が関わっています。

①衛星を打ち上げた国
②衛星を作ったメーカー
③受信機を作ったメーカー
④衛星システムの運用者
⑤サービスの提供者
⑥ユーザーと被害者

ユーザー・被害者と直接関係がある(契約している)のは、測位衛星システムを利用したアプリケーションサービスを提供している者です。詳しくは触れませんが、契約関係があるかどうかによって請求の根拠が変わってきます。

衛星打上げ国の責任

宇宙条約と宇宙損害責任条約は、宇宙物体によって引き起こされる損害についての国際責任を定めています。
しかし、ここでいう「損害」は宇宙物体が物理的に引き起こす損害に対する責任と解釈され(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 p.261)、宇宙物体を利用したサービスによって生じる責任まで想定していません。
そのため、打上げ国に宇宙条約と宇宙損害責任条約上の責任は生じないと考えられます。
※厳密には、ここでの議論は国家間(打上げ国と被害国)の関係。

衛星・受信機メーカーの責任

誤った情報の発信が衛星の不具合にある場合や、情報を受け取る受信機に不具合があって事故が発生した場合、製造物責任(モノの欠陥に基づく責任)が問題となります。
その不具合が製造物責任でいう欠陥、つまり「通常有すべき安全性を欠いている」といえるのであれば、製造物責任が生じることになります。

衛星システム運用者の責任

衛星システムを運用する政府・運用会社も無関係ではありません。
仮に日本の衛星システムに欠陥があり事故が発生した場合、衛星を「公の営造物」とする国家賠償法による責任(公的施設などの欠陥に基づく責任)が生じる可能性があります。
※準天頂衛星の運用は民間会社が行なっているため、不法行為(故意または過失によって損害を発生させた場合の責任)による責任が問題となる可能性あり。

他方、ユニークなのはGPSを運用するアメリカです。
アメリカでは政府の裁量的な判断に関しては責任追及できないというルールがあり、これが適用されると責任追及ができません。また、衛星から信号を勝手に受信しているだけなので、サービス内容や品質について何も約束していないという考え方が強いようです(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 p.262)。そのため、アメリカ(GPS)の場合、非常に限られた場合にしか責任追及は認められないと考えられます。

サービス提供者の責任

サービス提供者は、ユーザー・被害者と契約関係にあります。
そのため、被害者としては利用しているサービスの契約内容に基づいて、契約上の責任を追及することが考えられます。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・測位衛星システム(GNSS)から提供される情報の過誤と民事責任 小塚荘一郎・藤野将生・北永久

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