3分でわかるISSの法律

ISS民営化?

米国が、2025年に国際宇宙ステーションの予算を打ち切る方針であることを発表しました。
国際宇宙ステーション(International Space Station:ISS)は、地上約400kmの高さにある有人宇宙実験施設で、約90分で地球を1周する速度で周回しています。大きさはサッカーのフィールドくらいで、複数のモジュールから構成されています。大きく特徴的な太陽電池は、常に太陽の方を向くように自動で回転しています。
1984年にISS計画が発表されてから16年後の2000年から宇宙飛行士が滞在するようになり、現在は6か月ごとに交代しています。
関係国は、アメリカ、欧州、ロシア等の15カ国で、日本は実験棟「きぼう」、物資補給機「こうのとり」を提供しています。2018年9月にH2Bで打ち上げられた、こうのとり7号が記憶に新しいです。

ちなみに、ISSというと「宇宙兄弟」の某実験を思い出しますね。あれは感動です。

ISSに関するルール

ISSに関しては、ISS政府間協定(Inter Government Agreement:IGA)にルールが定められています。
これは宇宙諸条約を補完するもので、
①管轄権
②刑事裁判権
③知的財産権の帰属
等の規定が整備されています。

管轄権

仮に、ISSで搭乗員同士の民事トラブルが発生した場合、どのように(どこの国の法律で)解決されるかという問題です。宇宙空間はどこの国にも属していないので、トラブル発生時の拠り所を定めておく必要があります。
IGAでは、参加国は、宇宙物体登録条約(宇宙に打ち上げる物の登録に関する条約)によって「登録した物(モジュールなど)」と、ISS上の「自国籍の人」に対して管轄権、管理権を持つとされています。つまり、日本はきぼう、こうのとり、日本人の宇宙飛行士や旅行者について管理権を持つことになります。
そうすると、きぼう内の民事トラブルや日本人搭乗員同士の民事トラブルについては日本の法律によって解決されることになります。

刑事裁判権

仮に、ISSで搭乗員が他の搭乗員を殴って怪我をさせた場合、どのように(どこの国の法律で)裁かれるかという問題です。
IGAでは、参加国は、飛行要素(モジュール等)上の人員であって自国民である者について刑事裁判権を行使できると規定されています。
民事の場合とは異なり、刑事裁判に関しては「人」に着目しています(属人主義)。これは、宇宙飛行士や旅行者の注目度からすれば、他国によって自国の宇宙飛行士や旅行者が裁かれるのはあまりよろしくないという価値判断によるものです。

知的財産権の帰属

ISSで発明がなされた場合、その権利はどの国に帰属するかという問題です。
IGAでは、飛行要素上で行われる活動は、その登録国の領域においてのみ行われたものとみなすと規定されており、「人」ではなく「場所」に着目されています。例えばきぼうでなされた発明は日本、デスティニー(アメリカの実験棟)でなされた発明はアメリカで行われたものとみなすということです。
ここで注意したいのは、各国の特許法等をはじめとする知的財産法の適用範囲が重要ということです。IGAは直接権利を付与しているというのではなく、参加国がそれぞれの法律をISSでの行為に適用することを認めているだけで、実際に権利が認められるためには、参加国の法律がISSでの行為に適用されるようになっていなければなりません。
例えば、アメリカの特許法は管理権のある人工衛星でなされた発明に対しても適用されるよう法改正されており、デスティニーでなされた発明にはアメリカ特許法が適用されます。
ただ、日本の場合は早く特許を出願した人が勝つ先願主義が採られているので、必ずしもアメリカのような法改正は必要ないという指摘もなされています(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎ほか p144)

おわりに

以上、簡単にISSでの民事・刑事問題、知財をめぐるルールを取り上げてきましたが、民事に関しては当事者の国籍がそれぞれ違う場合の具体的な手続や、知財をめぐっては複数のモジュールにまたがって発明がされた場合にどうなるか、船外活動中の発明はどうなるか等、整理すべき点が多々あります。民事の問題については調停等の国家間で合意された方法で解決するとされてはいますが、商業利用が進んだ場合にも同様に考えられるかは改めて検討すべき点なのだろうと思います。
いずれにしても、商業利用によってより多様な活用方法が見出され、より多くの発見や文化が創出されることを期待するばかりです。

参考:
・JAXAホームページ 宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
http://iss.jaxa.jp/iss/about/config/
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎ほか
・宇宙法ハンドブック 慶應義塾大学宇宙法センター
・これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会
・宇宙兄弟 小山宙哉


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