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3分でわかるコンステレーションの法律問題

コンステレーションとは?

2019年5月23日、SpaceXは、約12000機の超小型衛星からなるシステム「Starlink」のうち、60機の打上げに成功しました。
Starlinkは、地球上のあらゆる場所で最大1Gbpsのインターネット接続を提供することを目的とするプロジェクトです。

上の図からわかるとおり、大量の超小型衛星が軌道を周ることで地球上のどこにいても通信が可能となります。
また、衛星が低軌道で地球を1周するには約90分かかるので、衛星1機が特定の地点の地表データを取得しようとすると、90分に1回しか取得できません。
しかし、複数の衛星を軌道上に投入すれば、地表データを常時取得し分析することもできます。これを目指すプロジェクトがアクセルスペース社の「AxelGlobe」です。

また、OneWebも600機の衛星を打上げ、地球のどこでも高速インターネットサービスを提供するプロジェクトを進めています。

このような大量の超小型衛星を軌道上に周回させる仕組みを(メガ)コンステレーションといいます。
今回、コンステレーションをめぐる法的論点として、①スペースデブリの問題と、②損害賠償責任との関係について取り上げます。

スペースデブリの問題

IADCスペースデブリ低減ガイドラインでは、スペースデブリを「地球周回軌道に存在するか大気圏再突入途中の、全ての非機能的人工物体であり、それらの破片と構成要素を含む」と定義しています(同ガイドライン3.1)。
また、規制の内容については国連スペースデブリ低減ガイドラインで以下の項目が規定されています。

①正常な運用中に放出されるデブリの制限
②運用フェーズでの破砕の可能性の最小化
③偶発的軌道上衝突確率の制限
④意図的破壊活動とその他の危険な活動の回避
⑤残留エネルギーによるミッション終了後の破砕の可能性を最小にすること
⑥宇宙機やロケット軌道投入段がミッション終了後に低軌道(LEO)域に長期的に留まることの制限
⑦宇宙機やロケット軌道投入段がミッション終了後に地球同期軌道(GEO)域に長期的に留まることの制限

スペースデブリをめぐるルールについては以下にまとめていますので、併せてご参照ください。

コンステレーションは宇宙空間に大量の宇宙物体を送り込むので、スペースデブリの増加が懸念されています。

ここで、衛星同士の衝突事故の事例として、Iridium-Kosmos事件(2009)が参考になります。米国のIridium LLCが運用する通信衛星Iridium33と、ロシアが運用する通信衛星Kosmos2251が衝突した事件です。
この事件によって、Kosmos2251から785個、Iridium33からは335個のスペースデブリが発生(カタログ化)したとされています(出典:「宇宙の長期的に安全な利用のための宇宙状況認識(SSA)の現状と課題」青木節子)。

こうした事件を踏まえ、コンステレーションによる宇宙物体の増加を懸念し、スペースデブリの定義を見直す必要性や、そもそもガイドラインを法制度化すべきといった提唱もされているところです。

いずれにしても、コンステレーションによる宇宙物体の増加によって、既存の枠組みでは対処不可能な事態を生じさせることもあり得ます。
この点については、スペースデブリの問題としてだけではなく宇宙交通管理(Space Traffic Management)の問題としても議論されていたりします。STMについては以下にまとめています。

損害賠償責任との関係

宇宙に物体が増えれば増えるだけ、それらが衝突する事故が増加(具体化)することが想像できます。
宇宙損害責任条約は、地表以外の場所で引き起こされた事故については過失責任を負うと規定しており、人工衛星同士の衝突は宇宙空間で発生した損害として、過失責任が問題となります。

なお、宇宙空間(軌道上)で生じた損害をめぐるルールについては以下にまとめていますので併せてご参照ください。

「過失」の意味については厳密に定義されているわけではありませんが、被害者(被害国)が、相手方の衛星が「衝突を回避すべきであるのにしなかった」ことを主張立証しなければなりません。
衛星ビジネスが加速すれば、衛星を保有・管理する事業者もそれだけ増加することが予想されます。コンステレーションが実装された世界においてもなお現在の枠組みが通用するかは検討が必要でしょう。

参考:
・Annette Froehlich Editor『Legal Aspects Around Satellite Constellations』(European Space Policy Institute 2019)
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・宇宙の長期的に安全な利用のための宇宙状況認識(SSA)の現状と課題 青木節子

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