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3分でわかる宇宙旅行の法律問題

宇宙旅行が現実に

米国のヴァージン・ギャラクティックが、2019年中旬を目標に商業宇宙旅行開始との発表をしました。

また、ブルー・オリジンも、年末までに「ニュー・シェパード」の有人打上げを目指すと発表しています。

日本では、ZOZOの前澤社長がSpaceXの大型ロケット「BFR」で月周回旅行をすると発表しています。

スターウォーズやスタートレックを観たことのある人は、一度は宇宙旅行を夢見たことがあるのではないでしょうか?宇宙ベンチャーの台頭によって、宇宙旅行はもはや夢物語ではなくなっています。
元AKBの前田亜美さんは「明日ちょっと宇宙でも行かない?日帰りで!くらいに身近になるといいよね」とも話しており、宇宙旅行のビジョンが多くの人に共有され、多くの人が「ちょっと宇宙行ってくる!」と言える時代の到来が待ち遠しいものです。
ちなみに上述のSpaceXの月周回旅行とブルー・オリジン、ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行とでは、旅行の内容が全然違います。ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックが計画しているのは、高度約100kmくらいの所に数分滞在して戻ってくるというものです(サブオービタル宇宙旅行)。
現在のところ、「日帰り旅行」であれば、ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックといったサブオービタル宇宙旅行、「泊まりで旅行」であればSpaceXのオービタル宇宙旅行という選択肢になるのでしょう。

今回は、そんな宇宙旅行を取り巻く法律問題を取り上げてみます。

「宇宙」の定義

宇宙旅行に関して明確にルール整備したはありません。そもそも、「宇宙旅行」でいうところの「宇宙」の定義が曖昧です。
宇宙の定義については、物理的な側面を重視するか、宇宙活動の実態を重視するかの2つの考え方があります。前者の物理的側面を重視する考え方は、高度100Km以上を宇宙と定義する考え方です。この考え方は、高度100Km以上であれば、地球の重力の影響が相当低くなっているという物理的な側面に着目します。
しかし、この考え方はあまり支持されておらず、多くの国は宇宙活動の目的や機能といった、実質的な側面に着目して決められるべきという考え方に立っています。というのも、仮に高度100Km以上を宇宙と定義すると、例えば100Km未満の部分をロケットが通過した場合(スペースシャトルのような有翼の機体が滑空しながら再突入してくる場面を考えるとわかりやすい)、その部分が属している国から文句を言われかねません。宇宙条約は宇宙活動の自由を認めていますが、高度100Km以上を宇宙と定義してしまうと、100Km未満の空間はその自由は保障されないわけですから、むしろ宇宙活動の自由を狭めてしまうことになりかねないというのが理由です。「宇宙とは」という問題提起に対しては、未だ国際的なコンセンサスが取れていないのです。
なお、2018年12月13日、ヴァージン・ギャラクティックの「スペースシップツー」が、試験飛行で高度82.7kmに到達しましたが、その際「宇宙空間に到達」とされています。

宇宙旅行者の取扱い

宇宙旅行というところの「旅行」とは何を指すのでしょうか?具体的には、宇宙飛行士と宇宙旅行者は何が違うのでしょうか?
宇宙条約は、宇宙飛行士を「人類の使節」としています。また、事故、遭難、緊急着陸の場合の宇宙飛行士の扱いに関する宇宙救助返還協定は、宇宙飛行士に対するすべての可能な援助の提供、宇宙飛行士の迅速かつ安全な送還といった対応を求めていますが、いずれも宇宙飛行士が何を指すのか定義が明確ではありません。
とすると、我々がイメージするような試験をパスし、訓練を受けた宇宙飛行士の他、前澤社長のような宇宙旅行者も宇宙飛行士に含まれるとも考えられます。
なお、米国商業宇宙法では、Crew、Government astronauts、Space flight participantsに分類し、宇宙飛行士と宇宙旅行者を区別しています。 
ちなみにパスポートについては、外国に渡航するわけではないため不要ですが、例えばいったん羽田からフロリダに飛び、SpaceXのBFRで宇宙を目指すという旅程の場合、羽田から出国する時にはもちろんパスポートが必要ですし、宇宙から帰ってくるときに日本国外に着陸予定であれば、帰国のためにパスポートが必要です。弾道飛行で国内発国内着予定であったとしても、念のため持っていった方が良さそうです。

インフォームド・コンセント

宇宙旅行には、場合によっては生命に対する危険が伴うため、そのリスクを事前に旅行者に伝え、内容を理解してもらう必要があります。
米国商業宇宙打上げ法では、宇宙旅行者に対し、正しいリスクを伝え、同意が得られているのであれば、万が一事故が発生したとしても、連邦政府は責任を負わないという仕組みが導入されています。
仮に日本で、「宇宙旅行契約」に、宇宙旅行者へのリスクの説明と同意があれば宇宙旅行事業者は責任を免れるとされていた場合、消費者契約法によって無効とされる可能性があります。保険等のリスクヘッジ策を充実させ、事業者のチャレンジ精神を削ぐことない環境が必要です。

宇宙ホテル

約380,000kmの旅路を経て、無事に月へ辿り着いたとします。せっかくなので宿泊したいと誰もが思うでしょうが、宇宙ホテルを建設することは法律(条約)上可能かという問題があります。というのも、宇宙条約は、月その他の天体を含む宇宙空間は国家による取得の対象とならないとしており、国家による土地所有が禁止されているからです。
これについては、国家による所有が禁止されているのであって、民間であれば禁止されていないのではないかという主張があります。しかし、国際宇宙法学会は、国家が所有できない以上民間の所有も認められない(要旨)として、これを否定する声明文を出しています。
他方、天体への建造物の建築は宇宙条約で禁止はされていません。
仮に宇宙ホテルを建築するとなれば、その土地部分の取扱いをどうするか等々、問題となりそうです。

お土産は何にするか

せっかく月に行ったのですから、月の石やらレアメタルをはじめとしたお土産を持ち帰りたいものです。上述の通り、宇宙条約では天体の所有は禁止されていますが、その資源の所有は禁止されていません。
とはいえ、無制限の資源開発を認めてしまえば、宇宙資源の枯渇や独占につながりそうです。
国際宇宙法学会は宇宙資源に関する国際的なルールの必要性を主張しており、課題の整理や検討等を行っているワーキンググループもあります。

宇宙ごみ問題

直接宇宙旅行の問題というわけではありませんが、宇宙旅行者の安全確保という点からすると重要な問題でしょう。
ここでいう「宇宙ごみ」は、よく観光地で見かける「ごみは持ち帰りましょう」的なものと少し違います。宇宙空間を漂う大量の衛星の部品に関する問題、いわゆるスペース・デブリ問題です。
宇宙空間に漂うデブリは、地球上から観測できる10cm以上のもので約2万個、1mm以下のものも含めると推定で5兆8,000億個以上あると言われています。1mm以下とはいっても秒速7〜8kmで移動しているため、衝突した際の被害は計り知れません。例えば、宇宙服を着て宇宙船の外に出ることができる「船外活動ツアー」に参加していたとして、BB弾くらいの物体(かたい)が秒速7kmで身体にぶつかってきたという場面を想定してみてください。ちなみにライフル銃の弾丸初速がだいたい秒速800mくらいのようです。船外活動ツアー実現のハードルは高そうです。
宇宙関連条約では、デブリの発生を禁止する明確な規定はありませんが、国連宇宙空間平和利用委員会が「スペースデブリ低減ガイドライン」を策定されており、日本の宇宙活動法では、人工衛星等の打上げにあたり、デブリ発生を抑止する対策を講じることが求められています。

おわりに

お気付きかもしれませんが、今回取り上げた宇宙旅行の法律問題は、宇宙旅行で発生し得る法律問題が地球上でどのように処理されるかという点ばかりです。
仮に宇宙ホテルで旅行者同士がトラブルになった場合、ガイドの案内を無視した旅行者がクレーターに落ちた場合、旅行者がレゴリスをホテルでばら撒いてしまい、旅行者全員花粉症(っぽく)になってしまった場合にどのような問題が起き、どのように解決されるのか、あるいはすべきなのか、整理していく必要がありそうです。

出典:
宇宙旅行入門 東京大学出版会
これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会
宇宙法ハンドブック 慶應義塾大学宇宙法センター
スペースデブリ 加藤明
人工衛星等の打上げに係る許可に関するガイドライン

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Ryosuke Hoshi(3分でわかる宇宙法)

外資系スタートアップの企業内弁護士 住居、地方創生をはじめ社会課題の解決に挑みつつ、宇宙に関するルールを研究、発信 技術と法律が交差するとき、私たちの暮らしはもっと良くなる
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