大人になるということ#06

当然のことながら提携レーベルから
大バッシングを食らった。
「俺たちの音楽。俺たちの信条。今回のシングルの宣伝に関して
自費で負担してます。何か問題ありますか?」
シンラはいつも通り強気な発言を投げる。
ここはパートナーシップを結んだレーベルの【理事室】だ。
でも音に一片に対して触れられた
シンラは、僕たちは、そんなことどうでも
良かったんだと思う。

「自分たちのしたこと分かっているのかね?
その様子だと分かっていないようだ。君たち、諸君がしていることは
遊びじゃない。仕事だ。ビジネスだ。売れるか売れないか。
市場が昨今なんて次元じゃないレベルの話で荒れているのはいくら子供の
君たちでも解るだろう?」

「こどっ」

目を閉じ腕を組み押し黙っていたトキオが
立ち上がり激昂しかけていたシンラを右腕で強く制止した。

良くも悪くも時として言葉や行動には
責任が伴う。
今ここで、シンラが相手に向かって殴りかかっていたら。
音楽に対して触れられた。口を出された。
そこは契約では僕たちの管轄であり、裁量をもって為すことで
お互いに合意したはず。
ただシンラが熱くなるように僕たちだって子供じゃない。
だからこそ、言われる本筋を理解したうえでここにきている。
契約の違反として出るところに出てもいい話ではある。
だが、そこまで幼稚じゃない。こうなることくらい予測はしていた。
だが視界に映るこの偉そうに構えるこいつに僕だって
シンラがでていなかったら同じことをしたかもしれない。

理事だけあって
オーダーメイドなのか縦のストライプの砂みたいな色のスーツ。
短くオールバックのような感じで纏められた髪。
なんなら髪も砂色だ。ネクタイの柄も珍妙で小金色をバックに
狂った時計のようなプリント。
そして僕の嫌いな色。
赤、深紅、臙脂。
もはや漆のようなテカりがすごくて天井のシャンデリアの光源を
僕だけを狙って見せつけるかのような赤。
足元が気になって気になって、この部屋から一刻も早く出たかった。
僕もまだまだ子供でそんなことでフラストレーションが臨界点に
達していた。もちろんこの状況の上での話だけど。

「無理するな。noiseで待っててくれ。俺たちでまとめるから。」
トキオが耳打ちをしてくれた。

「ありがとう。頼んだ。」と返し、一足よりも先にいつもの
スタジオに向かった。


赤は人を興奮させる色だと言われている。
だから僕もシンラも滾ってしまったのだろうか。
僕に関しては全身のどこか、それこそネックレスやイヤリングの
小さな赤を見てしまっただけでも気分が悪くなる。
仮に相手が異性で才色兼備だとしても、だ。

まだ心臓が激しく震えていた。


じゃなくて、携帯が振動していた。


手にやっと持った時には携帯はまだやるべきであるその仕事を辞めた。

まるで僕のように。



着信1件【瑠衣】と表示されていた。

なぜか茫然としてそれを映したディスプレイを
眺めていた。


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