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ゆる漫画レビュー:第8回『1978年のまんが虫』

オススメのマンガを、ゆる〜く紹介していく「ゆる漫画レビュー」。
第8回は『1978年のまんが虫』(細野不二彦)。

細野不二彦さんといえば、オールドファンには『Gu-Guガンモ』や『さすがの猿飛』が有名ですね。その後も『ギャラリーフェイク』や『電波の城』など、つねに第一線で活躍し続ける大ベテラン作家です。

その細野不二彦さんがデビュー当時を振り返る、ご自身初となる自伝的な作品が、この『1978年のまんが虫』です。

『1978年のまんが虫』細野不二彦(小学館)

舞台は、日本にSFブームが到来した1978年。
主人公の細納さいの不二雄は、神奈川の有名私立大学に通っていますが、「内容スカスカのアホ学生」を自認しています。
マンガやアニメなどのサブカルチャーが大好きで、気鋭のクリエイター集団「スタジオぬえ」と親交を持つうちに、そのメンバーのひとり・松崎健一さん(のち『機動戦士ガンダム』の脚本を担当)に「あわよくばマンガ家になりたいと思ってるだろ?」と心の内を見透かされ、悩み、迷いながらも、マンガ家への道を歩み始めることに。
タイトルや主人公のネーミングから、藤子不二雄Aの『まんが道』(主人公のひとり藤本弘=藤子・F・不二雄は、作中では「才野茂」の名義)への目配せが感じられますね。

のちにマンガ家となる主人公の青年期を描いた物語、という点では『アオイホノオ』(島本和彦)が思い出されます。2014年には柳楽優弥主演でドラマ化もされました。
『アオイホノオ』の作中では主人公・ホノオと同じ大作家芸大に通う庵野秀明さんらの若い頃の姿が描かれます。そのなかで細野不二彦さんは「カッコイイ絵柄でギャグをやる」先駆者と位置付けられ、コミックス20巻ではついにホノオが細野不二彦その人と出会います。

年齢的なことを言うと、細野不二彦さんは1959年生まれ、庵野秀明さんは1960年生まれ、島本和彦さんは1961年生まれ。
つまり「『アオイホノオ』と同時代に東京では何が起こっていたのか」が描かれるわけです。

こうした(成功者の)自伝的な作品だと、歴史を訪ねる楽しみのほうが勝りがちなものですが、『1978年のまんが虫』にはそうならない仕掛けが施されています。
それが、家族との関係です。
アルコール依存症の父、障がいを持つ弟。
複雑な家庭環境に翻弄されてしまいます。これまでの自分を支えてくれていた環境が徐々に閉じていくような閉塞感に苛まれながら、先行きの見えない不穏さを感じながら、まだ何者でもない主人公が「まんが道」に一筋の光明を見出して、自分の人生を一点突破していく。
これにより、ビルドゥングスロマンとして物語的なハラハラドキドキが担保されていて、青春譚としても一級のストーリーとなっているわけです。

マンガやサブカルの歴史に対する興味の多寡によって、「歴史を振り返りながら物語を楽しめる」か「物語を楽しみながら歴史を学べる」の違いはあるかもしれませんが、決して個人の思い出話に終始しない物語性があることは確かです。
ベテランのストーリーテリングの心地よさを、再認識するはずです。

ちなみに細野不二彦さんは、現在、「ビッグコミック」(小学館)で『バブル・ザムライ』を連載中。『1978年のまんが虫』より少し後の時代、バブル期の日本を舞台にしたアクション・サスペンスです。当時の時代の空気感を再現する手腕は、あいかわらず冴え渡っていますよ。

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