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法律に対する経営者の向き合い方

日本は自由主義のもとで経済成長を目指しているわけだが、法治国家でもあるので、企業は法律の制約下での競争をしている。企業の経営者は、法律に対する一定の認識を持っておかないと、とんでもない事態になってしまうことがある。
経営者は法律に対して、どのように認識し、向き合っていくのがよいのだろうか。

大前提として認識しておきたいこと

日本は民主主義国家であり法治国家である。国民主権としての自由が保障されている一方、社会の秩序と安定を維持し、国民全体が安心して暮らしていく最低限のルールが必要であり、それが法律として定められている。企業も人々も日本国内で自由に活動できることと引き換えに、法を遵守することが求められる。
企業は、その規模が大きくなればなるほど、社会や経済に対する影響力が大きくなるので、当然ながら社会的責任を求められてくる。好業績を継続することや、世の中的に価値ある商品・サービスを提供していけば、世の中から注目や賞賛を得られる一方、定められた法律を守らなければ、マスコミや世論に叩かれ、社会的な制裁を受ける形になってしまう。
当然のことなのだが、企業経営は、単なる利潤の追求だけはなく、公正な取引と競争環境の維持、労働者の権利の保護、そして正しい納税が義務であることを認識しておくことが求められる。

企業を取り巻く法整備は、まだまだ途上段階にある

法律は多岐に渡り、毎年、改正・変更・新設されている。経営者の中には、次々と変わる法律に辟易としている人も多いことだろう。しかし、これはまだ途上段階にある。
戦後ほどなくして、日本国憲法を始めとした全ての法律が新設もしくは大改定された。以降現在に至るまで、企業経営に関する法律が、新設もしくは改定・追加され続けている。その背景には、日本そして世界の経済成長、労働環境の変化、市場環境の変化と取引のボーダーレス化、科学技術の進化など、世の中の変化に準じた法が必要になってくるからだ。
戦後から高度成長期、そしてバブル経済期に至る時代までは、原則論だけの規定や、画一的なルールで運用することができていた。それは、企業が同じような生産活動をし、国民が同じような消費活動をし続けていれば、国家経済は成長し、国民が豊かになっていった時期だったからである。企業も国民も同じ価値観を持って、同じ活動をしていた訳だから、その活動を規定するルール、つまり法律の数も少なくて済んだ。同じような活動をしている中で、枠に外れる行動は目立つ。法律で制御しなくても、同一性・均一性を好む日本人には自然と抑制が効いたのである。
加えてその時代は、民主化の途上段階であったため、数の論理が優先された。多数の人たちの問題や影響のある課題が優先され、少数意見やマイノリティの人たちにとっての課題の優先順位は、相対的に低かった。今日のSNSのように、一人の消費者が発信できる手段もなかったというのも、社会課題に国民の意見が届かず、近年に至るまで、法律が追い付かなかった要因でもある。法律が増えていることは、社会の価値観と活動の範囲が、多様化し複雑化していることの現れでもある。

国家が企業に定める主な法律

法律は、価値観や行動様式の違いがある二者との間で、共通のルールを定めることにより、二者間の不当な争いや不利益を防ぐことが最大の目的である。企業にとって、関係する相手方(=ステークホルダー)は、従業員、得意先、競合会社、仕入・外注先、資金調達先、投資先、株主、行政機関など、多岐にわたってくる。ステークホルダーの種類とその絶対数が増えれば増えるほど、利害や意見の相違が発生し、調整や合意が必要となる。つまり国家が定めている法律は、ステークホルダーと企業との関係において、権利や公正性及び透明性を担保するためのルールと捉えてよい。
以下、企業経営において共通となる主な法律を挙げよう。

 会社設立・運営:会社法
 商取引:    民法・独占禁止法・下請法・特定商取引法・
         消費者契約法・不正競争防止法
 人事労務:   労働基準法・最低賃金法・労働契約法
 権利保護:   著作権法・特許法・商標法・個人情報保護法
 税務:     所得税法・法人税法・消費税法
 財務:     金融商品取引法
 マーケティング:景品表示法・不正競争防止法
 倒産:     破産法・民事再生法・会社更生法

上記、以外に業種・業態に特化した法律が数多くある。特に規制産業や特殊技術を要する業態には、それに応じた法律が整備されている。

法律に対する経営者の向き合い方

経営者は、各法律の内容の理解や解釈の細かいことまで理解する必要はないだろう。大事なことは、どの法律が本質的に重要なのか、そしてどんな言動をとることに気に留めておく必要があるのか、その判断基準を持っておくことである。
一般的に法対応は、何か事が起きてから、つまり事後対応のケースがほとんどである。戦後から昭和の時代までは、取引形態がシンプルで、同業他社が数多くあったため、同様な事例が過去に存在していた。それらに照らし合わせれば事後対応できたのである。
しかしながら、企業の形態も多様化し、従業員の生活や価値観も多様化してきた現在、事後対応だけでは済まなくなってきた。特に、大きな損害賠償や風評被害に影響を及ぼす事案に対しては、未然の対応が必須となってきた。リスクマネジメントに対する経営能力がより求められている。
一方、規制緩和のような法改正は、ビジネス機会につながる可能性が高まる。これに対しては、時期を逃さず、機会を事業に結びつける手腕が問われる。
法対応は法務部門や弁護士に任せればよいという考え方は、既に古い。また、法に触れなければ何をやってもいいという考え方は、すぐにバッシングの標的になるだろう。
今の時代、経営者そして役員たちには、法の正しい理解と品格ある言動が、ビジネスを推進する上で求められている。

FIN.   October 30th, 2022


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