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五右衛門風呂の苦い思い出

五右衛門風呂をご存じだろうか。
ごえもんぶろ

盗賊の石川五右衛門が豊臣秀吉に捕まり、
釜ゆでの刑に処せられたという釜が名前の由来らしい。


りゅう坊の生まれた家は、戦後じいちゃんが地域から借り受けた土地に、
建てた平屋の掘っ立て小屋のような家だった。
その家の風呂が五右衛門風呂だった。

釜に水を張り、釜の下から薪をくべて温める。

風呂に入る時は、釜の底が熱くなっているので
木で作ったスノコの様な物を、両足で底まで沈めて入るのだ。

その風呂を沸かすのは、じいちゃんだったりばあちゃんだった。

りゅう坊が10歳くらいの頃だったか
とある日、仕事から帰ってきた父ちゃんが風呂に入った。

「りゅう、ぬ~るいから薪をくべてくれ」と声がした。

りゅう坊はそれまで風呂を焚いたことがなかった。

「そこの横にある焚きつけをくべぇ」

言われるままやってみたが、上手く燃えない。

どれだけ時間がたっただろう。

業を煮やした父ちゃんは風呂を上がってしまった。

「そんなこともできんのか!だちかんのう!」

気の短い父ちゃんに思いっきり怒鳴られた。

りゅう坊は、胃の辺りが痛くなり、
頭から血の気がひいて目の前が真っ暗になった。

その場にうずくまってしまった。

ショックだった。

「父ちゃんを怒らせてしまった・・・」

呆れられたこと、できなかったこと、

期待に応えられない自分を責めた。

悲しくて 怖くて 泣くこともできなかった。


その頃のりゅう坊に声をかけるとしたら・・・

りゅう坊はあんまり喋らんかったもんな。

なにか聞かれても答える前に頭の中でいろいろ考えとったもんな。

「どう答えたらいいか いつも迷っていんだ」

「どう思われるか怖かった」


父ちゃんはおっかねぇ存在だったな。

「なんにも言えなかった 言えるわけがないよ」

怒らすのが怖くて。

「機嫌がわるいときは 自分のせいだと思ってた」


上手く言えんけど、

りゅう坊、おまえは家族の一員として

おまえは家にいるだけでよかったんだ。

かあちゃんやばあちゃん、じいちゃん みんなに愛されて可愛がられていたんだぞ。

りゅう坊は立派な大人になったんだぞ。

父ちゃんの田んぼも手伝って

結婚もして、子どももできて

その父ちゃんに孫の顔も見せられて、

色んなことがあったけれど

このあいだ 91歳になった父ちゃんの面倒も見てるじゃないか。

立派なもんだって。

たいしたもんだって。

あの五右衛門風呂事件があって

それを乗り越えて今があるんだ。

61年も頑張って生きてきたんだから!

おまえがいとおしくて

可愛くてしようがないぞ。


ありがとう りゅう坊!

五右衛門風呂の話しがこんな展開になってしまった。

言葉を入力しながら泣いてしまった。

すこしでもあの頃のりゅう坊に笑ってほしかったんだ。



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