企画オケまるまる1つ編曲して思ったこと

みなさんこんにちは。りゅうと申します。

「スカイロフトオーケストラ」という企画オケの代表兼、編曲担当です。先日の公演はゼルダ愛の深いお客様に囲まれ、大変ありがたいことに完売御礼・計800人近い方にお越しいただくコンサートとなりました。

ふと思い立ち、自分の振り返りもかねて1つの企画の編曲を担当して現状思ったことを以下の4点に絞ってつらつら書いてみます。

・界隈外の人間がどうやって奏者集めしたのか
・企画草案からアレンジまでに考えていたこと
・今回の編曲で意識した3つのこだわり
・編曲を終えて良かったところと反省点

コンサート企画に興味がある・ゲーム音楽の編曲に興味があるという人にとっても1つの参考になるかなと思い、思うところを書いておこうと思った次第です。
なんて立派なこと書いてますが、1つの企画をやりきった身として、編曲面でどんなことを考えていたのかを個人的にまとめておきたかったのです。
別に独り占めするような事柄などありませんので、せっかくなら誰か1人でも参考になる人がいればと思い、noteにて書いてみることにしました。

あんまり堅苦しい感じにもしたくありませんので、1つのコンサートの編曲を1人で用意するという経験をした男の手記のようなもんだと思って足を崩して気楽にお読みください。僕はライターでもなんでもないのでとりとめのない拙い文章ですがそれでもよければ。
だいぶ文量も多いので、お暇な時にでも。

・界隈外の人間がどうやって奏者集めしたのか

今回の企画ではありがたいことに、フルオーケストラ(2〜3管編成規模)+合唱(混声四部合唱)という大規模な編成が可能になるくらいの人を集めることができ、無事に終焉(誤字にあらず)を迎えました。
団員数は合唱を入れて92名。かなり重厚なオーケストラサウンドをお届けできたんじゃないでしょうか。

先に企画が成立するほどの奏者集めに成功したポイントをあげると

・知名度も人気も高いシリーズ作品を題材にした
・事前に小規模な企画を実施して認知・信用してもらう試みを行った

の2点かなと思います。

1点目は自分が好きな作品と、世間のニーズが重なる作品をピックしたということですね。自分にとってどんなに神ゲー・神音楽であったとて、マイナーな作品だと奏者集めは難しいです。(不可能ではないと思いますが)
これはもう単純にその作品が好きな人や、そもそも知っている人の母数が少ないからです。少ない母数からさらに楽器演奏ができて、そういった情報にアンテナを張っている人…相当数が限られますよね。
ゲームとしての良し悪しは関係ないのです。
室内楽クラスの少人数編成ならともかく、フルオーケストラの人数をマイナー作品を題材に集めるのは相当困難だと思います。ゲーム以上に企画内容や企画者自身に相当な魅力があるか、フルオケをポケットマネーで呼べる石油王でもないと現実的じゃなさそう。
今回は自分のやりたい作品と、世間のニーズが噛み合っていたことに救われました。

続いて2点目、こちらも重要なポイントです。

自分のやりたい作品と、世間のニーズがうまく合致してもそれだけでは奏者集めは困難だったと思います。

僕はこの界隈に足を踏み入れるのは今回が初めて。一緒に運営を担ってくれた妻は界隈での演奏経験がありましたが、はっきり言って僕らの(企画・編曲者としての)知名度は「どこの馬の骨」状態だったと思います。

コンサートともなれば奏者の皆様から頂戴する参加費も高額になりますから、「どこの馬の骨」とも知れんやつの企画に飛び込むのは相当な度胸が必要じゃないかと想像します。少なくとも僕が奏者の立場ならそう簡単には飛び込めません。

そんな状況で、いくら知名度も人気も高いゼルダシリーズとはいえ、フルオケ+合唱の大編成オケのコンサート企画をいきなり立てる度胸も見込みもありませんでした。

フルオケともなると本番用のホールのレンタルだけで20〜30万くらいは軽く吹き飛びますからね。とてもノープランではできない。

そこで僕たちが最初に試みたのが「スカウォ演奏オフ」です。
要はコンサートではなく、純粋に演奏を楽しむ1日限りのオフ会を実施することにしたのでした。

この企画の目的は色々ありましたが、今回の話で言うと

・参加のハードルを下げて界隈の奏者さんに僕らの存在を知ってもらう

という点がポイントだったと思います。
このオフ会の参加料は4,000円。拘束時間は企画実施の1日のみ。
譜面を事前に用意し、譜読みと練習をある程度自主的にやってきてもらって当日お越しいただくことにしました。

うちの編曲の方向性や質はこんな感じですよ〜運営の雰囲気はこんなですよ〜ということを知ってもらうお試しプランのような感じですね。
普通の買い物と一緒です。まずは商品サンプルを無料ないしは安価に提供し、質に満足してもらってから本命の商品を買ってもらう。ドモ○ルンリンクルみたいなもんです(?)

これくらいのコストであれば仮に編曲や運営がイマイチだったな…となったとて、少なくとも万単位の参加費と長期の練習参加が求められるコンサート企画にエントリーするよりはリスクはだいぶ小さいです。

元より編曲の質にはそれなりの自負がありましたので、ここでしっかりと奏者の皆さんに満足いただけるものを作って「ここの運営はいい感じ!」と思っていただくよう頑張ろう!と思って編曲しました。
実際、オフ会終了後には編曲についてお褒めの言葉をいくつもいただき、企画そのものも概ね好評で終わったと感じています。

この企画での経験と、参加者の声が今回のコンサート企画での奏者集めの大きな力になったわけです。

小さいながらも実際に参加者がいるイベントを企画した「実績」と「信用」が出来たので、オフ会に参加された方が周りの方に僕たちの企画をオススメしてくださるようになりました。

演奏者サイドから考えても「実際に参加したことがある運営の企画」に友人を誘うのと、「単に扱う作品が好きだから気になっている企画」に友人を誘うのとではプッシュのしやすさやその具体性が段違いです。

0からオケ企画を考えている方は、まずはお試しプラン(単発のオフ会など)から企画していくのがいいと思います。
自分がやろうとしている企画に「乗りたい!」と思ってくれる人がどれくらいいるのか、テストしてみるのです。
1日単発の企画であれば多少見切り発車のどんぶり勘定でもどうにかなります。思い切って「こういうのやりたいけど興味ある人いますか!?」とツイッターなどで聞いてみましょう。
もう楽団に属してるとかそういう下地や繋がりがないのであれば絶対そうしたほうがいいです。急がば回れです。

長くなりましたが、次からは「編曲」の行程にフォーカスして思ったことなどを書いていきます。

・企画草案からアレンジまでに考えていたこと

ゲーム音楽オーケストラをいざやるぞ!となった時、当然まずは「何のゲーム?」というところを決めねばなりません。
僕の場合一瞬考えましたが、「スカウォ」だよなぁとここは秒で決まりました。

次にどんなスタイルのコンサートをするのかぼんやり考えました。
有名だったり、人気だったりな楽曲をまとめてスカウォセレクション的なコンサートにするのか、サントラを制覇する勢いでどっぷりと演奏するコンサートにするのか。

僕は後者を取りました。
1つのタイトルのみでコンサートを構成するならば、その作品の音楽をしゃぶり尽くすくらいの内容にしたいよなぁと。それにどうせやるならやれることはやりたいと。だってスカウォが好きだから。あれもこれもやりたいんじゃ。
普通のコンサートじゃほぼ100%取り上げられない楽曲をお救いするのが使命ってもんでしょ。スカウォは女神の詩とスタッフロールだけのゲームじゃねぇんだぜ!?ってことをわからせないといけません。

幸い、そういった方向性のコンサートは前例がありました(ビビオケさんとか)ので、いけるやん!くらいの軽いノリで決めました。しかし、前例としてビビオケさんをあげましたが、あそこは複数人の編曲者によってプログラムが構成されていました。1本のゲームを題材にしたコンサートのプログラムを1人で書くのは正直頭がおかしいと妻にも言われるなどしました。
いやでも大好きなゲームすぎて他の編曲者入れたら確実に「音楽性の違いにより解散」コースなのが目に見えてたので1人で頑張ることにしました。

さて、題材を決め、その作品の音楽をフルコースレベルで楽しんでもらうところまでは決まった。そうしたら次はどんな構成(プログラム)にするか考えないとですね。

スカイウォードソードは、マスターソードの誕生秘話が描かれる作品です。なのでマスターソードとその精霊ファイにフォーカスが当たるようなプログラムにしたいなーという発想からスタートしました。
すると自然とスカウォの物語をなぞるような曲順にしたいなとなり、ファイがリンクを呼ぶ時の「マスター」と「マスターソード」を絡めて「Episode of Master」なんてタイトルいいんじゃない?とりあえず仮で!くらいのノリで企画を進めていきました。(結局これがそのままコンサートの副題になりました)

妻がスカウォの楽曲リストをスプレッドシートに起こしてくれたので、それをベースに曲順や採用曲を検討していきました。
当初の予定とは違う形でまとまった楽曲もあります。例えば第2楽章は最初、第1楽章や第3楽章と同じでストーリーをそのままなぞるように進めるつもりでした。
ですがスカウォのストーリーで訪れる土地は3地方をめぐることの繰り返しであり、やや冗長な印象のコンサートになってしまいそうだという懸念がありました。
曲自体は新しい曲であっても、構成として間延びしそうだなと思ったんです。
(その結果としてフロリア湖やラネール砂海など、中盤以降のフィールド曲をカットすることになってしまったのは申し訳なかったです。)
なので第2楽章は厳密なストーリー順というよりは、特定の共通点をもつ楽曲でまとめたよりメドレーらしいメドレーにブラッシュアップしました。

第1節はスカイロフトの住人たち
第2節は試練の詩
第3節は様々な強敵たちとの戦い
第4節は女神の剣についてとゼルダとの再会

をそれぞれテーマとしてまとめました。関連性の高い楽曲たちがまとまったことで、アレンジとしても凝った仕掛けをしやすく、編曲もやりやすかったです。

第2楽章の最後にマスターソードの成長を持ってきて一区切りできたのはプログラムとしてもとても良かったと思います。

基本的に原曲に忠実なアプローチで編曲していきましたが、大きく手を加え、僕の妄想パワーを爆発させたのが2回目の「ギラヒムとの戦い」と「終焉の者 雷鳴」
特に雷鳴の方は企画の初期段階から「勇者VS終焉の者であると同時にファイVSギラヒムでもある」というイメージがあり、絶対に「勇者の詩」「魔族長ギラヒム」「ファイのテーマ」を織り込んだアレンジをしようと決めていました。マスターソードという「剣」にフォーカスする以上、この対決を盛り込まないわけにはいかんと。
で、いざ書き進めていくといつの間にか「女神の詩」と「ガノンドロフのテーマ」のフレーズも使ってました。

遥か未来まで輪廻を描き続ける宿命のはじまりによって、いつか訪れる未来を想うと彼のフレーズを盛り込まずにはいられなかった。
勇者の詩の対旋律(簡単に言うと合いの手的なメロディのことです)に女神の詩を盛り込んだのも、女神ハイリア、ゼルダの想いを乗せて勇者は戦ってるんだな…と。自分で言うのも何だけどここの編曲めちゃくちゃ自信作です。奏者のみんなやお客様がどう思ったかはわかりませんが僕はとても満足しています。
最後、終焉の者の断末魔と雷鳴を再現できたのも大満足です。あのシーン本当に好きなんです。一騎打ちして、トドメに飛び上がったリンクがマスターソードに雷落としてそれごと終焉の者をぶち抜く演出神すぎる。こんなにかっこいいトドメ他にあるか???いやない。
そして響き渡る終焉の者の断末魔、そして一筋の落雷…あああ好きすぎる。こんな僕のわがままに答え、金管の男性陣が素晴らしい絶叫でこのシーンを演出してくれました。噂のホワイトボードことサンダーシートと銅鑼で雷鳴もしっかり演出できたと思います。ここの本番ティンパニ叩きながらずっと鳥肌でした。
すみません、公演時の思い出語りになってしまいましたね。

最後に、多くの人が話題にしてくれたアンコールについて。

スカウォの最後を締める楽曲は何がふさわしいのか?女神の詩?ゼルダの子守歌?あるいは他作品の楽曲?
この「はじまりの物語」、「マスターソードの物語」の締めにふさわしい音楽は何だ…?

そう悩んでいた僕に天啓が降りてきました。
マスターソードが登場する作品のメドレーを作り、「いつかまた あなたの魂と共に」と言ってくれた彼女との旅路を表現する…
閃いた時「俺は天才かもしれない」と正直思いました笑
妻に楽譜を見せると「これは譜読み会まで奏者にも内緒にする」と。

書き上げた時はホックホクだった僕ですが、サプライズに使うと聞いてヘタレモードに。本当にこれでみんな喜ぶのか?すごいトンチンカンなことやってないか?と猛烈に不安になったのを覚えてます(情緒不安定)
でも譜読み会でお披露目した時、会場の空気が温まる感じがしました。
そして本番を終えた後の皆様の感想を読んでも相当な反響でした。

今回のこのアレンジは正直スカウォだからできる反則技なのですが、悩み悩んで降りてきたアイディアではあったので、自分が愛する作品をどう演出したら輝くだろうかと考え続けるのは大切かもしれないですね。

・今回の編曲で意識した3つのこだわり

今回僕は

・原作、原曲の雰囲気を大切にしたアレンジをする
・「練習すればなんとかなりそう!」感のあるアレンジをする
・どのパートにも美味しいポイントがあるアレンジをする

という3点を意識しつつ編曲を進めていきました。

原作、原曲の雰囲気を大切にしたアレンジをする

今回のアレンジの方向性として「あまりひねったことはしない」と決めました。(0とは言わない…笑)
スカウォは生オケ収録の曲も多いのですが、それをそのまま演奏してぇ!と思っていたので、そういった物は極力原曲に寄せて譜面にしました。
あとは初めてのゲームオケ編曲なので、まずは素直に行こうと思ったのもあります。

その他、オケ編成ではない打ち込みで作られている曲は、原曲の雰囲気を大切にしつつもちゃんとオーケストラ楽器が無理なく、過剰な負担なく演奏できるか気をつかってアレンジをしています。
打ち込みやシンセサイザーであれば楽勝でできるフレーズであっても、人力で演奏するには困難なフレーズは山ほどあります。
打ち込み前提で作られているからこそ、そこには細心の注意を払わないといけません。
これには楽器の知識や、演奏経験などが重要になってきますがまずは「このフレーズ、奏者にとって無理のないものになっているかな」としっかり考えながらアレンジする意識が大切かなと感じます。
と、偉そうなことを言っていますが、自分もまだまだ勉強不足。練習を重ねていく中で、これは指使い的に厳しい…などの相談をいただくことも何度かありました。
ですが空オケのメンバーは大変たくましく、「〜なので、別案でこういうのはどうですか?」と提案してくれるんです。
これに大変助けられました。


「練習すればなんとかなりそう!」感のあるアレンジをする

「ここ難しいからちゃんと練習しないとダメだな」というところはあれど、

こんなもんやってられっか!!!

と思わず譜面をぶん投げたくなるようなアレンジにはならないように気をつけています。
先の原曲を大切に…が行き過ぎるとこういうことが起こりえます。実際にそういった現象が起こってしまっている譜面も見たことがあります。
自分がその譜面を渡されたらどう思うか?忘れないように戒めたいです。
ヴァイオリンのことはわかるけど、管楽器はさっぱりだ!みたいなこともあると思いますのでそこは素直に奏者さんに聞いてみましょう。

・楽器として得意なフレーズ
・練習すればどうにかなるフレーズ
・できれば避けたい、楽器の構造的にやや厳しいフレーズ
・演奏不可能なフレーズ
・管楽器なら息継ぎが無理なくできるフレーズなのか

あたりを確認してみると良いでしょう。出来てなくて相談を受けた男がここにいます。くれぐれも確認しようね。お兄さんとの約束だ。

どのパートにも美味しいポイントがあるアレンジをする

1stがつまらない譜面になることはあまりないと思うのですが、2nd以下を演奏する人たちも「ああ、今私は大好きなあの作品のあのフレーズを弾いてる!」と感じられる美味しいフレーズをきちんと作ってあげるべきだと思います。
昔、オーケストレーションの本を読んでいた時に書かれていた内容にとても感銘を受け、僕のオーケストレーションの1つの指針となっているのが「2nd以下が退屈な譜面を書いてはならない」というもの。
どんな作品でも意識すべきポイントと思いますが、特に今回のような特定の作品の音楽を演奏する企画の場合はなおさらだと思います。
「ゼルダがやれる!」と思って来てくれるのに、メロディじゃないものばかりだとやっぱりちょっと切ないと思うんです。
もちろん充実したアレンジをする上で、そういった伴奏や裏方の役割が必要なことは言うまでもありません。曲として成立させるために必ず何かのパートがそういった役目を担う必要があります。
ですがそれを特定のパートに押し付けすぎないように気を付けています。

それは「退屈」と感じてしまうパートを無くす意味合いもありますし、特定のパートに同じ役割を任せ続けるのはアレンジの単調さに繋がる原因にもなりますので、意図がなければいずれにせよ避けるべきことだからです。

何より、この手の企画オケというのは本質的に「奏者ファーストの企画」です。(と僕は思っています。)無論、お客様の扱いが奏者以下になるとか、無下に扱うとかそういう話ではありません。
が、現実問題企画の性質としてお客さんからお金をいただくことはほぼありません。企画の運営資金は演奏者1人1人が決して安くない参加費を支払ってくれているから成り立っています。
つまりは「お金を払ってでもこのオケに乗ってこの曲演奏してぇ!!」という頭がおかしい(褒め言葉)レベルの作品への愛や音楽への熱意で来てくれてるわけじゃないですか。

それが箱を開けてみたら譜面として全然面白くない…美味しいところ全然ない…なんて思って欲しくないんです。
「私は今、大好きなゲームのあのフレーズを大人数の合奏で(ココ重要)演奏してるんだ!!」という喜び、感じて欲しいですよね。

編曲を終えて良かったところと反省点

昨年の秋頃から少しずつ書き溜めをはじめ、2022年4月半ばにプログラム全曲を書き上げました。
#母吹の編曲を担当なさったながはなさんと同じ日に完成するという奇妙な偶然もありました。
一応プログラム上の曲数としては第1楽章が5節、第2楽章が4節、第3楽章が3節とアンコールという構成ですが、全部メドレーなので実際の曲数は100曲近いものになりました。
小節数で言うと3800小節以上というクラシックのシンフォニーも真っ青のボリュームになり、自分でも軽く引きました。コンサート企画に初挑戦する男が、プログラムの全ての編曲を担当するというあまりにも考えなしな挑戦でしたがなんとかなるもんです。が…オーケストレーションに不慣れな人は真似しない方がいい。いや本当にマジで。メリットがでかい分、デメリットもえぐいです。

良かったところ

・編曲の速度と質が大きく成長した
・自分のやりたいことをやりたいよう出来る
・練習中ずーーーっと自分の編曲作品が聞ける

良かったところとして思いつくのはこの辺りです。

まず「編曲の速度と質が大きく成長した」ということ。

案の定編曲期間中は大変でしたし、ラストスパートで時間的余裕がなくなってきている中、捗らずにゲームなど別の娯楽に逃げて、事務や会計をしてくれている妻に怒られたりしました。(それはそう)
ですがこの「一公演分のプログラム全部自分で書いて用意した」という経験ができたこと自体がめちゃくちゃ良かったです。
結局数は力で、それが転じて質になるので強制的に物量をこなすことでオーケストラアレンジが今まで以上にやりやすくなったように感じます。
僕は耳コピあまり得意じゃないのですが、この企画を通じて少しパワーアップできた気がします。(楽譜は存在しないので編曲はすべて耳コピする必要あり。ほとんどのゲーム音楽の宿命ですね…)

続いて「自分のやりたいことをやりたいよう出来る」点。これは企画段階からプログラムを1人で構築できる楽しみにつきますね。ただし、これはデメリットと表裏一体。相応の技量がないと奏者のひんしゅくを買ってしまったり、最悪そもそも楽曲として成り立たないクオリティにもなり得ます。諸刃の剣です。手前味噌ですがある程度オーケストレーションを学んできた身だったから今回の1人編曲も何とかなったのだと思います。不慣れな人は1曲ずつトライしていきましょう。

「ずっと自分の編曲が聞ける」のもとても素敵なことですね。
めちゃくちゃ勉強になりますよ。こう書くとこう響くのか!と発見の連続です。みんな僕の譜面を演奏してくれている…(感謝の気持ちポワンポワンポワーン)と、ありがたい気持ちにもなれます。みんなが合奏開始前とかに音出しするフレーズに自分が書いた楽譜の音が聞こえてくるのめちゃくちゃエモいよ。これはこれから編曲勉強するよって人にぜひ味わってほしい体験の1つ。

反省点

編曲という点ではざっと以下の3点が大きなところだと思います。

・原曲意識が強すぎた側面アリ
・曲数が多すぎてチャレンジングなことがあまり出来なかった
・単純にリスクがでかい

上で散々偉そうに原曲に寄せすぎて云々と書いといてあれですが、そんな意識で取り組んでもなお「原曲に寄せすぎてオケに必要以上の負担がかかってしまったな」と感じる場面がありました。
楽器の構造上の得意不得意というのは、その楽器のことをあまりわかっていない人が思うイメージの何倍も影響がでかいと考えて編曲するのがいいと思いました。
わかりやすく、ありがちな例でいうと「曲のキー(調性)」です。
オーケストラ楽器は一般的に

弦楽器はシャープ系が得意(演奏しやすく、よく鳴る)
管楽器はフラット系が得意(演奏しやすく、よく鳴る)

と言われています。
(ただし、どちらも調号が増えてくると相応に演奏効果は落ちていく傾向にあります)
これはもう楽器の構造上の問題なので詳しいことはここでは説明しません。
(おい!同じ編成内で対立するな!と習いたての頃思ったものです。)

とはいえ、お互いに調号2つ〜3つくらいまでならば歩み合う余地はあります。
(一部管楽器は移調楽器なので譜読みが大変ですが…)
本当にどうにもならないのが純粋に調号が多いパターン。

スカウォの楽曲には本当に様々なキーの曲が登場します。可能な限り原曲と同じキーで演奏したいのがファン心。今回用意した曲は全て原曲と同じキーを採用しました。
ですがそのせいで一部の奏者には大変な苦労をおかけするハメになりました。
第1楽章第1節で採用した「大空の散歩」がいい例です。
この曲の原曲キーはDbメジャー、調号でいうとフラット5個。弦楽器にとっては地獄のようなキーです。案の定ピッチを取るのにめちゃくちゃ苦戦させてしまいました。
じゃあ半音上げるなり下げるなりすればいいのかというとそんなに簡単な話ではないのです。
キーが変わると曲の雰囲気もびっくりするくらい変わります。
Dbメジャーは壮大だけどちょっとセンチなキーだと僕は思っています。このキーが持つ雰囲気が「大空の散歩」のあのロマンティックさにつながっているのは間違いなくあって、むやみにキーをいじれず、弦楽器の人に泣いてもらいました。(特に2ndとヴィオラ…ごめんよ)
これが半音違いのCメジャーやDメジャーだと明るすぎるんです。
弦楽器は響きにくいキーなんですけど、それがこの曲のしっとりした雰囲気にもつながっているんですね。CやDだと弦が響きすぎてしまう。
とはいえ、ピッチが取りにくいキーなのは事実なのでマジでその点は申し訳なかった。

あともう1つやばかったのが「ギラヒムとの戦い」
この曲、1回目と2回目はGマイナー(フラット2つ)なのでまぁいいのですが、問題は3回目。

半音…上がるんですよね…キー…

G#マイナーになると、調号はなんとシャープ5個!
弦はもちろんのこと、管楽器が地獄を見るキーになります。
じゃあ半音上げをボツにするのか?
いや、それをやるとギラヒム様の「今度こそ本気」感が失せてしまうのです。
これは別にG#マイナーが必須というわけじゃなくて、Gマイナーという第1形態が前提としてあるから「半音上げ」に効果があるわけです。
この辺りのさじ加減は本当に難しい。無限に悩み続けてる。
でも本番はこのクッソ演奏が大変なキーを素晴らしいクオリティで演奏してくれました。いや演奏してて本当にしびれました。マジでかっこよかったよ。最高でした。
閑話休題。とにかくアコースティックな楽器でアレンジをするときには、ピアノのようにあらゆるキーを安定して響かせられる楽器はほぼ存在しないということを忘れないようにしたいですね。

・曲数が多すぎてチャレンジングなことがあまり出来なかった

というのもあったと思います。
特に最後の方、追い込み部分で書いていた楽曲は勢いでガッと書き上げたので自分の手グセや好みがストレートに出てしまっていたように思います。
今回のプログラムで最後に完成したのは第1楽章第4節、その前に第1楽章第3節でした。
どっちも完成度的には満足してるけど、自分の手持ちのスキルだけで何とかしてしまった感は否めないな〜という感じ。
あ、でもどっちも締め方は気に入っています。4節の最後にキングドドンゴ戦のイントロ使ってるの気づいてくれたお客様もいて嬉しかったです。

全体的に見ても、あまり大胆なアレンジにはチャレンジできなかったなーとは思います。とはいえ奇抜なアレンジをすればいいというわけでもないし、スカウォの世界観を楽しめるようなアレンジじゃないとダメだったので、チャレンジングなアレンジが必須ではないのだけど、もう少しくらい色々挑戦してみたかったなー色々な楽曲を分析して、それを実験したかったなーとは思います。そう、1人でやるとどうやっても時間がいっぱいいっぱいになってしまうのです。
でもこだわりたかったから1人で書いてしまったよね。

・単純にリスクがでかい

この企画、僕が途中でぶっ倒れでもしたら詰んでたんですよね。
編曲の用意もそうだし、練習中も僕はティンパニやって当日MCもやったので僕がなんか事故ったら企画は高確率で破綻していたと思います。1人で色々やるのはある意味楽だけど、リスクも大きいです。
今回、空オケの運営のコアメンバーは僕と妻の2人ですが、これってだいぶ狂気の沙汰だったようです。しかもそのうち1人は編曲も全部やってるし。他所様は運営10人とか普通なんですね…無知とは恐ろしい…

実際途中で妻がコロナになって2週間くらい動けなくなり、動けるのが事務仕事が壊滅的にポンコツな僕だけになった時、ロクに空オケの業務が進められませんでした。ほんと自分は音符書くしかできないわと痛感しました。そうやってフタばかりするのはダメですが、こういう系統の仕事が苦手なんだなとはっきり認識はできました。

といった感じで空オケで編曲全部やったことについて色々書いてみました。
本当とっちらかった文章になってしまったけど、空オケに関わってくれた皆様のおかげで大変貴重な経験をさせていただきました。

もっともっとオーケストラアレンジの勉強はしたいし、音楽力も上げたいのでこういう企画を続けたいなーという気持ちは大いにあります。
でももし次やるときは運営をもっと増やして、妻が楽できるようにしたいものです。事務力ポンコツ人間に事務を手伝わせてはいけない。足をひっぱるだけじゃあ。運営の人数は増やしたいけどプログラムの構成やコンセプトは決めさせてほしい(強欲)
ホール争奪戦争も胃が爆発するので誰か…頼む…
ありがたいことに空オケを通じて、心強い仲間がたくさんできましたので次何かやるならみんなを存分に頼る所存。
その代わり編曲は任せてくれ…!空オケ終わって次やるなら1人じゃなくて他の人も…とか考えたけど結局プログラムを構成する段になったら1人でやりてえ!ってなりそうだとわかったのでここは頑張ります。

ここまでの超長文にお付き合いいただきましてありがとうございました。

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