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【ダンジョン飯】生き物の権利である欲望と義務 食事による反芻

どうもお久しぶりです。シラヌイです。
今記事では九井諒子先生原作、【ダンジョン飯】について語ってみたいと思います。

果たして、どこまで書いていいのか……?

いいや、もう全部書いちゃおう。知らん!

おそらくここまで濃密な異世界漫画は無いのではなかうかと思えるほど異世界エアプの私の心に火を着けるはこの漫画、ダンジョン飯。
【ダンジョンで飯を喰らう】をテーマとして掲げてはいるものの実際には単なる飯漫画とは程遠く、バトルあり、笑いあり、涙あり、世界観、知見の多さ何を取っても穴が無い昨今には珍しい見る側を選ばない作品だと思います。たぶん…。

この作品の素晴らしさは何よりも異世界定番設定を深掘りしつつ、その設定を駆使した搦め手的な構造にある。

① キャラクターの二面性

この作品は異世界という設定は借り受けているものの、その上で作者の意図がかなりうまく表現されている。
この世界における冒険者は安心できるコミュニティをそれぞれ形成し、チームとして団体行動をするのが基本となっている。ダンジョンに挑むにはパーティを結成しなけれらならず、パーティーとは人間の不完全さの象徴とも言えます。

故に、冒険者にはパーティーという社交性が求められ相互扶助社会の側面と家族や友人などの私生活での側面という二つが割り振られ、それぞれ成長するにつれて他人行儀だった筈の彼らの根底にある本来の欲望が垣間見えます。

なぜこの二つの要素が必要なのか?と言いますと、【ダンジョン】には本来ある欲望を強く引き出すという性質がある為です。

ダンジョンに潜る目的は妹を助けるという目的でも、ダンジョンの魔力によって本来の欲望が強く発現してしまうというジレンマに皆が侵されるのです。

まず主要キャラクターは大別すると5人

戦士【ライオス】 種族トールマン【この世界での普通の人間】

サイコパス、優しいが兄としての責任感がある、問題児

本作の主人公にしてパーティーの大黒柱、しかし魔物になりたいというこの世界でも嫌悪される思想を幼少期から抱き、物欲、色欲などが無い好奇心だけで動く人間関係に苦労するタイプです。
このパーティーでの相性の良さが幸いして普通の人間のように振る舞えているのが奇跡とも言える人物。
行く先々でその歪さから除け者にされ続けた可哀想な人間、意外と豆腐メンタルなのもらしいと言えばらしい。
空気が読めず常に陽気なので相手を馬鹿にしているように思われ、怒られ、落ち込むが何故怒られたのかわからないので再度チャレンジするという負のループに陥っているのがこの人です。
とくに殺気立った冒険者にとって神経を逆撫でする逆鱗男となっている。

ライオス『君の両親は魔物に殺されたんだって?それなら一緒にその魔物を食べて元気を出そう。』

しかし、実際には頼りがいもあり基本的に飛び道具に見える彼の魔物の知識は周りに疎まれているせいか効率化が成されていないという悲しい武器となっています。
世俗的なことに無関心であるが魔物になりたいという欲望が災いし悲劇を産むのはまた後の話。

魔術師【マルシル】種族ハーフエルフ

おもしれー女、ツッコミヤジ癒し担当のオールラウンダー

優秀な魔女にして道化師。
父親がトールマン、母親がエルフのハーフエルフで幼少期からトールマンとの暮らしを余儀なくされていたからか普通のエルフよりも他人種への偏見が無く普通に接します。
自分が興味を持った者にたいしてはすぐさま友情を覚え、かなり義理人情を通してくれる優等生タイプ。
魔術師という性質上、やや杓子定規な所があったり自分のしたいことを優先順位の上に起きがちですが、この旅を通じて妥協を覚え、持ち前のどんくささと相まってオカン属性が強くなっていきます。

兎に角、癒し

いや……なんでこのエルフこんな可愛いんですかね?
おそらく千年生きるという人生観から、他の人種とは明らかに違う倫理観を持っている。でも、それを鉄の理性と持ち前の優しさで飲み下す異常な人間だと思う。
だって、自分の人生の10分の1しか生きない生物に馬鹿とか可愛いとか言われていちいち全部本気で受け止めて舞い上がったり悲しんだりしてくれる…そんな生き物異常でしょう。
その強さに皆惹かれるのでは無いだろうか。

ダンジョンという薄く汚く恐ろしい空間にも常に笑いを届けてくれる道化師。
すべからく一家に一台マルシルは必要。
どんくさいのはご愛敬。

しかしハーフエルフであることが災いして、皆との寿命の差を埋めたいという根底にあった欲望が暴走してしまいます。
彼女の社交性仮面を外し全てをさらけ出す本来の姿は必見です。


鍵開け師、罠解除【チルチャック】種族 ハーフフット

サークルのバランサー、ツッコミ役

仲間内人間関係のバランサー、アドバイザー。
年齢は29歳で、ハーフフットの種属ではもう人生折り返し地点、孔子50にして天命を知る苦労人。
仲間内でのモットーは【居心地の良いグループ】であることを信条とし、サークルクラッシャーが大嫌い。
特に女関係によるサークルクラッシュを何度も目撃してきたことから嫌気が差し、流れに流れてこのチームにやってきた。
ハーフフットSSRと呼ばれる程、自己の役割を正しく理解しており戦闘に不向きな分、補助的な役割に徹する縁の下。
只、パーティー内不和の原因が仲間内のドロドロの恋慕による者が多かった【特に女性同士の喧嘩】為にメスの臭いが大嫌いで、少女趣味に走るマルシルなどに度々嫌悪感を表している。
仲間内では度々ドライともいえる言動が目立ちますがそれには理由があり最初のころパーティーの新参として加入していた頃、人魚狩りの囮として利用されている事を偶然盗み聞きしてしまい自分の身は自分で守らねばと心に決めたことから彼の厳粛さはあります。
ゆえに前金払い、日割り払いは当たり前。
只より高いモノは無いは彼にとって骨身に染みた言葉でしょう。

実は家内がいて娘が三人いるが今は別居中、家庭内では亭主関白であまり妻に甘くしないタイプの夫。
一人立ちする娘を三人育て上げた立派なパパです。
ちなみに娘の名前は、
【メイジャック】
【フラートム】
【パックパティ】

魔物料理研究家 【センシ】種族ドワーフ

料理人、頼れる男、ギャグ要員

10年間ダンジョンで魔物料理を研究している自給自足のドワーフ。料理の腕は多彩で各国様々な国の料理を習得している。
豪放磊落にして繊細さが帳尻を保つ希な人間。
料理人らしく食事を取ることにたいしての拘りが強く、食事を通じて人間の本音を引き出し今後の方針の立案に関わる場所を提供する人間関係の潤滑油、整備士とも言える。
この作品のテーマ、食事に最も携わりダン飯がダン飯たる所以のキャラクター。
世辞に疎く、自分以外の人間を全て子供のように感じてしまいオカン属性を常に発揮している。
しかしこの一連のムーヴにも深層意識に根づくとある事柄が強く影響しており、バイアスを抱えた人間です。

獣人 【イヅツミ】種族 猫 + トールマン

自由奔放、誰もツッコミがいなければツッコミに回る

獣人であるせいで迫害を受け見世物小屋に監禁されていた事が一種のトラウマとなり、人間不信や束縛される事を極度に嫌う自由奔放な性格をしている。他の四人とは違い、成り行きで冒険に同行しており元の姿に戻ることを目的としている。

彼女も自由という漠然とした欲望のジレンマに陥っており、好きな事しかしたくないが好きな事をし続けると好きな事が好きで無くなってしまう。という二律背反を指摘される。

②欲望と義務感の狭間


ダンジョン飯のテーマの一つ【欲望と義務感の葛藤】

中でもマルシルはハーフエルフという寿命が1000年もある特殊な人種あるため、皆に置いて行かれることを恐怖し、すべての種族の寿命を1000年にしたいという野望があります。
彼女の父親はマルシルが子供の頃に寿命と病で死んでしまい、これからも別れを経験する事がトラウマとして刻まれており人一倍元気印のマルシルにとって友人との別れを何十回も経験することは耐えられ無いのが想像に難くありません。

マルシルの恐怖世界

しかし自分の都合で仲間が何百年も生きて苦しんでも良いかと言われるとそれは違います。マルシルには彼女にしか得られない人生観があり、それを他の人種と共有してしまう事は危険なのです。

彼女の1000年という寿命は父親の寿命の100年の10倍、母親の500年の2倍ありその上、子供を成す事ができないという雑種の特性も受け持っている。
さらには幼少期からトールマンとの生活をしていた事もあり、人生観がトールマンに近くこのズレが彼女を傷つける事になる。

彼女は自分が傷つきたく無いからこそ他人に妥協して貰うことで皆が幸せになる世界を望むのだが、あまりにも相入れない考えである事に気付かされる。
それでも、父親を亡くした恐怖を克服出来ない。
もしそれを実現する力を手に入れてしまった時、欲望と義務感のどちらを優先すべきだろうか?という葛藤に苛まれることになる。

この途方もない人生観を理解するのは本来困難な筈なのですが、マルシルの今まで見せてきた表情豊かな感情を経験した上でこの問題が重たくのし掛かるのは読んでいてかなり辛い所です。
わからなくもないというのが辛い所ですね。

③食事は万事を解決する

この作品の素晴らしい所は、良くも悪くも全てを【食べる】という行為に結果を重ねる事でしょう。

食べる行為の社会生活の一環は、大きく三つの面で我々にプラスの要素をもたらします。

・ 美味しいモノを食べるとオキシトシンやドーパミンが分泌されストレス解消になり、食欲が満たされ、幸せな気分になります。これにより自律神経の不調が解消され、睡眠の質を高め結果としてQOLを高めてくれます。

・必須栄養素は食事でしか接種することができない為に人間は、自分以外の個体から栄養を奪い取り、肉体の健康を維持することができます。それによって自己が生物のサイクルの一部であることを理解することに繋がり、生きるということに対する価値観を深める事ができる。

・人間にとって食事は只栄養を取るという事ではなく消化吸収を高める為に調理を行い、美味しい料理を追求し結果として文化の発達が促されるのです。
人間の歴史は調理の歴史であり、食材調理の変革とともに文明が発展していくのです。
今我々がこうしていられるのは、食材の調理法を確立してきた人類の叡知の賜物なのです。

ここでも欲望と義務感を重ね見ます。
只無軌道に食欲を満たしたいのであれば肉を焼いて食べるだけで良い。
しかし、食事には食材のポテンシャルを引き出し食べるという行為に様々な効力を付加したいという義務感が我々を支配します。

近年では食事の手順を省き、簡単に調理できる時代になってしまったが故にそのあり方が形骸化しつつあります。
ダンジョン飯にはその無駄を愛する者達が、ダンジョンや厳しい世界での安らぎを求めるように食事にこだわる姿が見られ、我々に食事の偉大さを思い出させてくれるのです。

この欲望と義務感の狭間に唯一支配されないのが、料理人であるセンシです。
この作品において、美味しいご飯を食べさせてあげる人は絶対的に必要不可欠であり彼らはまさに慈愛の象徴のような描かれをされます。


結論  ダンジョン飯の一口に言えない世界が、絡み合うスパイスや加熱調理された食材のような複雑さに似ている。

あ~、うまく言えないよダンジョン飯。
この作品、ロジカルではなく作者の感性によって描かれたタイプの作品であるためか良さを口伝するのがやや困難。

とにかく言えるのは!マルシル可愛い!ライオス馬鹿!センシ馬鹿!チル可愛い!イヅツミ可愛い!

=尊い。

こう伝え聞くと、な~んだキャラクターを推す漫画かぁ…と呆れられそうですが…

そうだよ!?いやそうじゃないよ?!

となる。

ダンジョン飯は思想書なのだ。
欲望という生き者のみに赦された権利としなければならない義務の狭間に常に立たされ人生を振り返り続け、結果として食べる事で全てを反芻する。

異世界漫画とは一線を画す、ダンジョン飯是非ご一読あれ。こんな他作品を卑下するような無骨者におすすめなのがッ!

食生活の改善!

生活リズムの見直し!

そしてッ
適度な運動ッ!

この三つを守っていけば!自ずと強い体は作られるッ!

こちらからは以上になります。


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