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コーチングで注意したいネガティヴな情動記憶の話

こんにちは。
コーチとして活動をしていると、以下のような相談を良く受けます。

「コーチングを受けているのに、人生が変わらない」

「そもそもゴール設定ができない、やりたいことがわからない」

「ゴール設定をしたのに、いざとなると行動できない」

話を聞いていると、コーチングの要であるゴール設定でつまづいている方が多いように思います。今回は、ゴール設定をはじめとした、自己変革の邪魔をする「情動記憶」のカラクリについてお伝えしたいと思います。


結論からお伝えすると、過去に経験した「ネガティヴな情動記憶」が、一種のトラウマのような形でみなさんを縛り、新しい変化を起こせないような習慣や癖となって、身体に染み付いている可能性が高いのです。このことは、みなさんの可能性を大きく制限してしまう原因となります。

「情動記憶」とは、過去の出来事のうち、強い情動(喜怒哀楽などの感情)を伴って脳に刻み込まれている記憶のことです。その出来事を思い出そうとすると、当時味わった感情も同時に引き出されてくるものです。

情動記憶のうち、傷ついたり、痛みをともなったり、恥ずかしかったりなど、とりわけネガティヴな記憶は、いつまでも覚えていたりします。

このことは、動物の生存本能と考えると理解しやすいと思います。強いマイナスの情動が生じるような出来事は、自分の命(生活)を脅かす危険な出来事であると人間の脳は認識します。

脳は、強い情動と危険な出来事(イメージ)を結びつけることで、長期記憶として保存し、似たような危機に備えて、いつでも思い出せるようにしておくのです。そうすることで、生命や生活を脅かすような危ない失敗を二度と繰り返さないことに役立てることができます。

この脳の仕組みは、同じ失敗を繰り返さないという目的においては、非常に優秀な機能と言えますが、この機能がしばしばみなさんの新しいチャレンジを邪魔する足枷として働いてしまうことがあります。

私の知人を例にお話します。

Aさんは、友人の結婚式の代表スピーチをこれまで何度も依頼されてきたといいますが、全て断ってしまい罪悪感を感じており、人前で堂々と話せるようになりたいと、悩みを打ち明けてくれました。

Aさんの友人達は、「Aさんは一番の友人だし、普段の話も上手でスピーチに適任だと思うからお願いしている!」と言ってくれたそうなのですが、Aさんはその言葉を信じきることができず、最後まで踏ん切りがつかず断ってしまったといいます。

「自分は本当は引っ込み思案な性格だから難しいのかもしれない・・・」と言うAさんですが、一方では複数の友人から適任だと真逆のことを言われている状況で、私は何かがおかしいと思い、次のような質問をしてみました。

「幼い頃に人前で話をして恥をかいた記憶はある?」

Aさんはしばらく考えた後で話してくれました。

「小学生の頃、学芸会の演劇でセリフを忘れてしまい、むちゃくちゃ恥ずかしい思いをした。みんなにも迷惑をかけ申し訳ない気持ちでいっぱいになった。」

これがまさに、ネガティヴな情動記憶として、Aさんの現在・未来の行動を縛る足枷として働いていました。

客観的に見れば、20年近く前の学芸会で失敗したからといって、結婚式のスピーチで失敗することとは何も関係がないし、友人達からもスピーチに適任だという評価を受けているのだから、引き受けたらいいじゃないか、と思う人もいると思います。

しかし、今回の場合Aさんは、過去の学芸会での失敗と結婚式でスピーチを行うイメージを強く結びつけて認識していました。小学校の学芸会での失敗は、Aさんの脳内で、

「大勢の前で話をすることは、恥ずかしくて、みんなに迷惑をかけるかもしれない、恐ろしいもの」

といった信念となって刻みこまれてしまっており、類似の出来事として認識した「結婚式でのスピーチ」は、何としても回避したい対象になってしまったわけです。

このように、過去のネガティヴな情動記憶によってつくられた信念が、あなたの意思決定や行動を抑制してしまうことが少なくありません。

上記はAさんの例で、Aさんに現れていた行動特性のうち、一つだけ明らかになったことを挙げたにすぎませんが、通常人間はこのようなネガティヴな情動記憶を多く持っているのです。(先ほどの動物の生存本能について考えると、ネガティヴな情動を伴った出来事は、記憶しておけばしておくほど、将来の身の安全を守る可能性が上がるとも言えますね。)

ネガティヴな情動記憶が、コーチングにおいて肝となるゴール設定や、ゴール達成に向けた行動を邪魔してしまうことも、ご理解いただけると思います。

ゴール設定で求められる、「自分のやりたいことで、思いっきり高くゴールを設定する」ことは、頭では理解できるのですが、いざ行動しようとすると、ネガティヴな情動記憶の影響で、「本当はやりたいことなのに、失敗を恐れてゴールから除外する」「ゴール達成には通らなければいいけない道だけど、敢えて避ける」といったことが無意識レベルで起きることがあります。

これによって、ゴールがなかなか設定できなかったり、設定されたゴールが100%の本音ではないものになったりします。

これが、コーチングのゴール設定や達成の過程でつまづいてしまう原因の一つです。


それでは、このような問題にどのように対応していけばいいのでしょうか。

まずは、過去のネガティヴな情動記憶が引き金となって、現在・未来の意思決定や行動にマイナスの影響を及ぼす可能性があることを認識することです。

そのうえで、どのような過去の情動記憶によって、今の習慣や癖がつくられているのかを考えて、明らかにしていくことが重要です。

最初は問題を洗い出すことは難しく感じると思いますが、根気よく探索する姿勢が大切です。必要に応じてプロコーチやカウンセラーなど、心の専門家の力を借りて取り組むことで、より高い精度で内省が可能になるはずです。

これらのプロセスを経て、問題を無意識だったものから意識できるようになってくると、マイナスの影響を及ぼしている情動記憶、そこからつくられている信念を、影響を及ぼさないあるいはプラスの影響を及ぼすものへ認識を改める作業が可能になってきます。

この作業・技術については、別の記事で説明をしたいと思います。
まずは今回の記事を読んで、自身のネガティヴな情動記憶に向き合うキッカケとなれば幸いです。

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