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7665日の物語  1

風に揺蕩うような霧雨の振る中、傘を手に持って学校に向かう途中の

ゴミ収集場所。木製電柱の下、毎週火曜と金曜がゴミの日と決まっている。

前の晩から出す人や、分別をしない人もいる。ビール瓶が袋から

飛び出している。いくら何でもこりゃあひどい。

酒屋さんに持って行けば1本5円になるのに。。

駄菓子屋さんで5円あればアイスクリームガムが買えた。

アイスガム

アイスクリームガムとは丸い色付きのガムが紙製の箱の中から

ボタンを押すと出てくるもので、出てくる色によって10円分とか

20円分とかのお菓子と交換できる。もちろんハズレの白玉もある。

5円握りしめてボタンを押す子供にとっては一世一代の大博打である。

後ろ髪をひかれる思いで学校へと歩を進める。。

まだ今の様にカラスの被害に逢わない為に、

『収集所にはネットをかぶせましょう!』 とか 

『ゴミは各市町村指定の中身の見える透明な袋で出す事!』

なんていう取り決めもなかった。

前日に終電に間に合わなかったサラリーマンだろうか。

ゴミの中で幸せそうな顔をして寝ている。表情を見る限り彼にぴったりの

枕だったのであろう。うっすら笑顔を浮かべて霧雨の中大いびきだ。

僕の学校はマンモス小学校と呼ばれていて、地域でも有名だった。

クラスに生徒は46人。1年生の僕にとっては最初は迷ったものだ。

クラスが13クラス(教室)。1年生だけでこの数である。ベビーブーム

だったこともあり、子供が多い時代だ。

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新品の重たいランドセルにおんぶされて登校していた頃は他の学年の教室に

行ってしまう事もザラにあった。

校舎がまるで巨大迷路である。廊下の窓から校門を見て何とかそこまで辿り

着き、用務員さんに教室までの行き方を教えてもらうなんてこともしばしば

あった。その後は教室までダッシュである。

しかも高学年ほど地面に近い(校舎は4階建て)教室で、小学年は

4階。「体が小さいうちに足腰鍛えておきなさい」という事だったのか。

そういえば体操の授業に『うさぎ跳びで校庭2周』というものが

あった。

今の時代にこんな事をしようものなら、教育委員会やら保護者会やら

それこそ頭のおかしいモンスターピアレンツたる人が怒鳴り込んで

来た事だろう。『児童虐待だ!!』って。

マンモス小学校だけに校庭もだだっ広ければ、校舎もでかかった。

それ故にみんなヘトヘトになりながらも「うさぎ跳び校庭2周」は

こなしていたし、先生に文句を言う子供なんていなかった。

そんなことしようものなら出席簿の角の硬い所で頭を叩かれるか、

先生が書いているカランコロンと音がする、今では一部の旅館のお手洗い

位でしか見かけなくなった木製の平下駄でこれまたゴツンとされる。

学校における児童虐待なんて聞いたことが無かった

(あったのに知らなかっただけかもしれないが。。)

むしろ、「昨日の夜、先生の家でご飯食べさせてもらった!」という

冬でもいつも同じボロボロのTシャツを着ている上級生が羨ましくもあり、

子供ながらに『何であの人寒くないんだろう?』なんて思っていた。

学校の先生にため口なんてもってのほか!嫌われる先生はいたものの、

先生は先生。そこはみんなしっかりと崇拝とまではいかないまでも

一線を引いていた、だって先生だもの。だから羨ましかったし、

本気で叱ってくれるから頬をひっぱたかれても当たり前だと思った。

時代背景を考えると、戦後の高度経済成長期に頑張った大人達が税金で

作ってくれた施設である。文句を言うなんてとんでもない!というのは

今の僕なら理解できるし、あの上級生の家が貧乏であった事も合点がいく。

最近見ないが、あの頃の子供はスライムみたいな緑色の鼻を垂らして

いる人が多かった。僕には医学の知識がないので、それが良い事なのか

悪い事なのかは判らないが、少なくとも青っぱなの時代の方が今と比べて

はるかに健康だった! というのはいろいろな側面をみてもわかる。

今ほど建物もなく野山が遊び場、防空壕の名残の洞窟が秘密基地だった。

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お腹の中に虫がいる子も当たり前にいたし、ザリガニを釣って食べたり

秘密基地でガマガエルを調理?してみんなで食べていた。荒野のような

野原を走り回っては肥溜めにはまり、井戸水を汲んで洗い流しても臭いは

消えなくて、生えているヨモギをモグモグ噛んで吐き出したものを身体に

擦り付けてまるで体臭のキツイご婦人が大量にブランド香水を振りかける

が如く、友達同士塗りたくった。楽しい思い出だ(笑)

だいぶわき道にそれてしまった。話を元に戻す。7665日前のあの日、

サラリーマンが眠っていた寝ていた場所とは全く別の場所にある電信柱

の下にある収集場所でかすかに聞こえる音。子供のころに比べて格段に

衛生的になって、もちろん集められたごみ袋にはカラス防護ネットが

掛けられているその中からその音はかすかに、でも確実に聞こえた。

何の音だろう、いやーまさかね・・・なんて通勤の為に駅へ向かう

僕の足をその音は止めさせた。何だかすごく通り過ぎ行くことに後悔

しそうな気がしたのだ。あの日の様な霧雨ではなく、まとまった雨量の

中、傘に当たるボツボツという雨音が耳障りだ。



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重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。