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私のひだりをかえして・・・ 第三話   「完結長編小説」

 地獄の始まり

2011年2月5日

 お父さんが出張に出かけてから2カ月ほどしたころ、私の身体に変化が起こり始めた。

ご飯の炊ける匂いがたまらなく嫌になり、吐き気を催す・お母さんの作ってくれるご飯や給食にあまり味を感じない・身体が熱っぽくだるい・なんだか胸が張って痛い・生理が来ていない

(こんなの成長期によくあることだろう)

勝手に思い込み誰にも言わずほったらかしにしていたのだが、ある日お母さんと晩御飯を食べている時に急激な吐き気を催してトイレに駆け込み吐いた。

『どうしたの? 大丈夫?』

急いでトイレに駆け込んだので扉も開けっ放しで嘔吐している私の背中をお母さんは摩ってくれている。

『う、うん。ごめん、もう大丈夫』

 お母さんは私の額に手の平をあてて、高熱ではない事を確認してから

『麗、正直に教えて欲しいの。もし、妊娠したら妊娠したで私は麗の味方だから大丈夫よ。お母さんの見る限りつわりじゃないかと思うのだけれど、相手の男の人は麗の大切な人? ちゃんと応援するから教えて』

(妊娠? 可能性があるとするならば・・・お父さんしかいない)

一瞬頭をよぎったが、

(いや、いつも優しくしてくれるお父さんに限ってそんなことあり得ない)

と何の根拠もない自己完結をして、

『ううん、そんなわけないじゃん!それにまだ中学生よ? 成長期によくあるものだって前に保健の先生も言ってくれたし、ひょっとしたらちょっと風邪っぽいのかも』

『そう、明日以降も調子が悪いようなら一緒に病院行くから言ってね。今日は無理して食べずにもう休みなさい』

 お母さんとの会話が終わった後に自分の部屋のベッドに上に座ってあれこれ考えてみた。

(あの忌々しい事件の後に妊娠についてはいろいろ調べた。つわりや胸が張るといった症状が、あの男のせいだとするとちょっと時間が経ちすぎているし、婦人科で「妊娠の心配はありません、大丈夫です」と先生から言われてホッとしたはず。でも待って、あの男のものが私の中に残っていて妊娠しちゃったのかもしれない・・・お父さんは出張でいないし、お母さんにこんなこと聞けない。そうだ、安藤先生には全部話したし相談に乗ってくれるはずだから、明日先生に電話してみよう)

『はい、安藤でございます』

前と変わらない安心する声を聞いてほっとした私は、今度は取り乱すことなくちゃんと話をした。

『先生、麗です。先日はありがとうございました! 赤ちゃん元気ですか? 』

『あら、麗ちゃん! 久しぶりね。うんうん、赤ちゃん元気よ』

『あの、もしよかったら明日の学校帰りにお邪魔して、赤ちゃん見せてもらってもいいでしょうか・・・』

『もちろん大丈夫よ! 今度は手ぶらでいらっしゃいね』

先生との電話はこんな感じで終わり、お母さんに「明日安藤先生の赤ちゃんに会いに行ってくるね」と伝え、その日は宿題を終わらせて寝た。

 翌朝迎えに寄ってくれたえっちゃんと

『もうすぐ私たちも3年生になるねー。高校どこにする?』

なんて話をしながら学校に行き、特別普段とは変わらない生活を送った後に安藤先生の家を訪れてインターホンを押した。今回は赤ちゃんを抱っこした状態で先生が玄関の扉を開けてくれて、私を自宅内に招き入れてくれた。赤ちゃんは可愛らしいパンダの涎掛けとおくるみに包まれてスヤスヤと先生の腕の中で眠っていた。

『いらっしゃい、よく来てくれたわね。さあ、入って』

そう先生に促され、

『はい、お邪魔します』

今回も赤ちゃんを起こさない様に小声で挨拶し、靴を揃えて準備されてあったスリッパを履いてリビングに案内された。前回と同じ部屋だが緑色の割と大きな葉っぱを付けた木が隅っこに鎮座している。

『先生、あの木は何ですか? 前回お邪魔した時は無かったと思うのですが・・・』

『ああ、あれは「幸福の木」といって、他の先生たちが贈って下さったのよ。そんなに頻繁にお水をあげなくてもいいしお部屋の中に緑があるって素敵だからあそこを指定席にしているの』

赤ちゃんを抱っこしたまま、ニコニコしながら答えてくれた。

『紅茶いれるから、赤ちゃん抱っこしていてくれる?』

そう言われて嬉しい反面ドキドキしながら、赤ちゃんが腕の中に綺麗に収まる抱っこの仕方などを簡単に教えてもらい、私は生まれて初めて赤ちゃんを抱っこした。とてつもなく愛おしくかわいらしい姿で、自分の腕の中で全く警戒せずに安心してスヤスヤと眠っている。

(女の幸せってこういう事なんだろうなぁ)

なんて、夜泣きやおむつ替えの大変さなど全く考えることなく無責任に、そして純粋に「私の腕の中に小さく愛おしい命があること」の喜びを噛みしめていた。

先生がハーブティーとお菓子をお洒落なお盆にのせて持ってきてくれたのだが、今この瞬間が幸せすぎて

『先生、もう少し赤ちゃん抱っこしていてもいいですか?』

と聞いたところ、優しい笑顔で快諾してくれたので私は自分の腕の中で眠る温かい命を感じながら赤ちゃんを起こさない様にそっとソファに腰を下ろしたところで先生から

『麗ちゃん、赤ちゃんって意外と重いから腕が痺れたり疲れたりしたら言ってね。それと、女が赤ちゃんに触れたいって思うときは何かしら自分の中の不安を払拭したいって思うときが多いのよ。先生で良かったら何でも話してごらんなさい』

言われたので、私は先生にしか訊けないことを話し始めた。

『この間の先生が言ってくれた「交通事故にあったみたいなもの」の時に、妊娠してしまう事ってあるのでしょうか・・・』

『麗ちゃん、赤ちゃんベビーベッドに寝かせるわね。詳しく聞かせてくれる?』

先生は赤ちゃんを静かにベビーベッドに寝かせ、対面ではなく小さな声でも聞こえやすいよう私の左側に座った。

『妊娠したかもしれないっていう「吐き気」とか「胸が張る」とか自覚症状はあるの?』

『はい、あります。生理も来ていません・・・』

『生理周期はもう安定しているの?』

『いえ、まだだと思います。3カ月くらい開いてしまうこともよくあります。』

『だったら生理のことは、間が空いているだけかもしれないわね。そして、あの時の事は随分時間も経っているし、婦人科で「大丈夫です」って言われたのよね?』

『はい、言われました。でも今まで大好きだったアボガドが急に食べられなくなったり、口に入れた物すべての味が薄く感じたり、妊娠が心配で調べてみたことが全部当てはまるんです・・・』

『そう、身体はすっかり女性だものね。遅かれ早かれそういう時期はやって来るのだから、先生は妊娠そのものを否定したりしないわ。だって麗ちゃんのお腹の中に新しい命が宿っているかもしれないって事でしょう? でもね、あの事件の犯人の子どもである可能性はないと思うの。だとすると、誰か大好きな先輩とか大好きな男の子とかと結ばれちゃったのかな?』

『それが・・・私、まだ、そういう事ないんです』

私はお父さんの事は言えずに先生に嘘をついた。

『うーん。だとすると女の子の身体って凄く繊細で、読んだ本の主人公に恋をしたりアニメの格好いい男の子に恋をしたりすると、「想像妊娠」っていって実際には妊娠はしていないのだけれど、何カ月も生理が止まってしまったりつわりみたいな症状が起こったり、胸が張ってきたりすることがあるのよ。身体の構造や動きは全て脳が指令を出しているから、脳が「妊娠だ」と思い込んでしまうと身体はそのように作用してしまうことがあるの。だから男性との繋がりが無いのであれば、精神や神経からくるそちらの方だと先生は思うなー、思春期の女の子はよくあることよ。生理周期も生活のリズムや気持ちの影響を受けることがあるからね。それに麗ちゃんは心に深い傷を負ったでしょう? そのショックが今身体に起こっていると考えてもおかしくないと先生は思うわ』

私は無知が故にこの先生の言葉を自らが嘘をつきながら完全に信じ込んでしまった。

(そうだよね、だってお父さん以外の人とそんな事ないもの。あり得ないんだ、これは思い込みなんだ。それに、考えるほど生理も遅れちゃうんだもんね)

『そうですよね、物理的にあり得ないですものね。良かったー、先生にお話を聞いてもらえてスッキリしました! こんな事お母さんにも友達にも相談できないからモヤモヤしていました』

 それからは雑談とも言えるような、もうじき3年生になることや「例の交通事故」から身も心も随分と回復してきている事、母の入院や、退院してきた時のお味噌汁の事などなど色々話を聞いてもらい、今回も赤ちゃんに人差し指をぎゅっと握ってもらって幸せな気持ちで帰路に就いた。


2011年2月7日

 翌日学校から帰るとお父さんの靴が玄関にあった。

(出張から早く帰れたんだ!)

喜び勇んでリビングに走っていき、いつもの様に珍しいお土産や外国の話などを聴かせてもらうワクワクを抑えきれずに

『お父さん、お帰りなさい!』

リビングの扉を開けるとそこにはお母さんの背中だけがあり、夕食の支度をしていた。

『お父さんは書斎よ、挨拶していらっしゃい』

そう言われて

(よし、大好きなお父さんを驚かしてやろう)

大きい声で驚かせるイタズラを考えながら勢いよく部屋の扉を開け、

(お父さん、おかえ・・・)

 私は固まった、確かにお父さんは部屋にいた。

ヘッドホンを着けてパソコンのモニターの前で私に背中を向けた状態で机に座っていた・・・私の声を聞いて慌てて両手でモニターを隠したものの、そこに映っていたのはあの日暴行されている自分の姿が横の角度から撮影されていたものだった。もちろんそんなところに防犯カメラはなく、そこにあるのはシューズクローゼット。様々な記憶が一気に私のキャパシティーをオーバーする形で噴出し、

『いやあぁぁぁ!!』

叫びながら階段を駆け下りて靴を履き、通り過ぎる人が不思議な顔で私を見てくることも目に入らないほどのパニック状態で、3駅も離れている安藤先生のところまで電車にも乗らずに走って向かった。

 もう何がなんだか分からない、とにかく目に映った現実を話して理解してくれる人、そして分かってくれる人は安藤先生以外に頭に浮かばなかった。

(助けて! 助けて!)

途中何度も転び、手を地面に着いた時の傷や擦りむいた膝小僧は血まみれになりながらも全く痛みなんて感じることなく先生の自宅に到着した時には、左の靴がどこかに行ってしまっていた。手に血の付いた半狂乱状態でインターホンを何度も押し、私は今まで出した事の無い大声で泣き叫んでいた。

『先生ー! 先生ー!』

 先生がビックリして泣いている赤ちゃんを抱っこしながら出てきてくれた。同時に、恐らく道中とんでもない形相で血を流しながら走っている姿を見て誰かが「ただ事ではない」と警察に通報したようで、パトカーまでも到着した。

『どうしましたか、大丈夫ですか?』

警察官に触られた腕を振りほどいて私は泣き叫んだ。

『触らないで!』

この時、先生は泣いている我が子をベッドに寝かせてきて私の介抱をしながら「事件ではない、多感な年ごろで自分は教師である」と警察を説得してお引き取り頂いたそうだ。

 ガタガタと震える身体を毛布で包み、先生は私を床が汚れる事など気にせずに家の中に招き入れ、傷の消毒と止血をしてくれたことはうっすらと覚えているが、意識がはっきりとしたのは何度か先生に呼びかけられても返事の出来なかった私の頬を、先生が思いっきり叩いて

『麗ちゃん、しっかりしなさい! お話も出来ないでしょう!』

言われた時だった。ようやくハッと我に返った私は、左側の頬がジンジンする痛みのお陰でぼんやりとながら現状把握に全力を注ぐことが出来た。現在自宅ではない所におり、目の前で安藤先生に両腕をつかまれた状態であちこち傷だらけなのを処置されている。左の頬がジンジンするのは恐らく先生に引っぱたかれたからだろう、毛布にくるまれてソファに座っており、赤ちゃんがけたたましく泣いている。

 ふと視線を下に向けると左足の靴下がボロボロで今にも穴が開いて指が出てきそうだ。靴下の薄くなった部分から透けて見える足の親指をヒョコっと動かしてみたその様子がなんだかとても面白くて、私は気でも触れたかの様にお腹を抱えて大笑いした。息がヒューヒューなっても面白くてゲラゲラ笑い続け、その内お腹が痛くなっても笑いは止まらず涙を流しながら笑っていると顔を持ち上げられ、今度は右の頬をひっぱたかれた。

『麗ちゃん、お願いだからしっかりして先生にお話を聴かせて! 話してくれないと先生も分かんないよう・・・』

安藤先生は大粒の涙を流していた。その顔を見た私は正気に戻り、赤ちゃんが泣いている事も、先生が赤ちゃんをほったらかしにして私を抱きしめてくれているのも理解し、あの光景を思い出して

『うわーん』

先生にしがみ付いて泣いた。途中で先生のご主人が帰ってきて赤ちゃんを抱っこしながらあやしてくれているのに気づいたのは、泣きすぎて過呼吸になった私の鼻と口にハンカチを当てて、過換気状態を緩和させる行動をとってくれている安藤先生の顔がはっきりと目に入った時だった。

『僕はこの子と2階にいるから、大丈夫だから』

そう言いながら先生のご主人は階段を上って行った。

(初対面だというのに挨拶も出来ていない)ふとそんな通常の思考回路になった時、

『まずはゆっくり全部飲みなさい』

白湯を渡された。ゆっくりとフーフーしないと飲めないくらいの温度だ、でもこうして飲んでいくうちに呼吸が楽になっていくのを感じた。

『麗ちゃん、ここはどこ? 私はだれ? いま時計の針は何時を指している?』

との問いに、

『ここは先生のお家です。私の前に居るのは安藤先生で、時計の針は19時15分です』

答えたのを聞き、先生はすっくと立ちあがり受話器を持って電話をし始めた。ここに来て強烈な身体の痛みと疲れに襲われ、呆然とした状態で座っていると、電話を終えた彼女は私の前に座った。

『いつもの優しい話し方では自分の感情をコントロール出来ないようだから厳しめに話すわね。まず貴女が何に驚いてパニックになったのか、冷静に話しなさい!』

 今まで見た事の無い形相で厳しく言われた私は、彼女の思惑通り冷静にボツボツと話をした。

『お父さんのパソコンの画面に私が写っていた・・・』

『貴女の何が写っていたの?』

『宅急便の男に乱暴されているところ。お父さんはヘッドホンをしてみていたけれど、私が部屋に入ったらモニターを両手で隠した・・・』

両手で自らの口を押えて一瞬言葉を失った先生だったが、質問は続いた。

『お母さんはこの事を知っているの?』

『知らないと思います、何も言わず飛び出してきちゃったから・・・』

『そう、この間妊娠したんじゃないかって相談してくれたわよね』

『はい・・・』

『それが想像妊娠ではなかったと仮定した場合、聖母マリア様じゃないんだから物理的にあり得ないのよ。男性の遺伝子と女性の遺伝子が結合して初めて妊娠のスタートだし、つわりというのは相手の遺伝子を自分の身体の中で大きく増幅させることによる拒否反応みたいなものなの。それを乗り越えて命は育まれていくし、育っていくの。他に男性との接触があったとかそういう事も包み隠さず話してくれないと先生、麗ちゃんに寄り添えないよ・・・全部お話してくれないかな、貴女の力になりたいの』

一緒に苦しんでくれる、一緒に戦ってくれる、一緒に泣いてくれる先生に私はもう隠し通せなくなってしまっていた。

『お父さんに、性教育を教わりました・・・』

『え・・・それはいつ頃から? いつからお父さんに身体を求められるようになったの?』

『小学校4年生だったと思います、「お母さんは恥ずかしくて教えない、海外では父親が教えるのは当たり前だ」って。でもすごく優しかったんです、毎日抱きしめてくれるし誰よりも褒めてくれるし・・・』

『それ、お母さんの前でも同じ? 』

『・・・いえ、お母さんが居ない時です』

少しの間のあと先生は優しい顔になり私の両頬をその温かく優しい手で撫でながら、

『引っぱたいたりしてごめんなさいね・・・痛かったでしょう、でも麗ちゃんにこちらの世界に戻ってきて欲しくて・・・先生にお話しして欲しかったの』

言い終わるか言い終わらないかと同時に、先生は私を大きな愛情で抱きしめた。これは何とも言えない感覚だが、まるでお母さんのお腹の中に居るような絶大な安心感を得られた気分だった。

『もう、大丈夫ね? さっきご自宅にも電話してお母様には「私のところにお嬢さんはいますので安心してください」と言ったの。そして「送って帰りますからくれぐれも無理やり連れ戻しに来たりしない様に」と伝えたわ、貴女の様子からただ事ではないと判断したからよ。ほら、残ったお湯全部飲んで』

 私は素直にお湯を全部飲んだ、その間に先生は立ち上がって引き出しから体温計のような細長い形をした物を持ってきて、私の目の前に差し出して言った。

『これ、妊娠検査薬。お手洗いに行ってこの部分に3秒くらいお小水を掛けていらっしゃい、そうすれば妊娠しているのかどうかがはっきりするから。いいわ、心配だから先生も一緒に行くから目の前でしなさい!』

もう恥ずかしいとかそういうレベルではない、目の前のこの人だけは信用出来るという人が「そうしなさい」というのだからそうする、それだけだ。

 表示された結果を見て彼女は深い溜息をつき、

『全部終わるまで目の前に居るから安心なさい、ほら下着を上げて、手を洗って・・・』

私は彼女に言われるがまま行動した。真ん中に赤い線の入った妊娠検査薬を広げたティッシュの上に置いて、再度深い溜息にも似た息を吐いた彼女は、

『もうね、ここまでショックな事が続いて訳が分からないだろうから、先生がちゃんと説明してあげます。その代わり、取り乱したりせず先生だけを信じてくれる?』

 今の私にはもう目の前の先生しかいない、厳しい表情で言われたその言葉に私は頷くしかなかった。

『よし! どこまで聞く覚悟ある?』

『もう、訳が分からないから全部お願いします・・・』

『分かった、先生という立場よりも、同じ一人の女性として寄り添うから安心なさい! 赤ちゃん産んだ女は強いのよ!』

『はい、お願いします』

 ここからの先生の言葉ははっきり覚えているし、先生自身が録音してくれていたので警察署での重要証拠として採用されることになる。

そして・・・父親に対する判決。

被告人は被害者の母親を騙し、最初からその娘にターゲットを絞っていた。

母親のいない時間を見計らって「海外では当たり前である」と性教育である風を装い頻繁に性的暴行を加え、更にその発覚に恐れを抱いた被告人は第三者に被害者を暴行させたばかりか、それだけでは飽き足らず自らの性的趣向を満たすために、この状況を録画して繰り返し見ていた。これは非常に悪質な性犯罪であり、被害者が心身共に負った傷は一生かかっても拭いきれるものではない卑劣極まりない犯行である。尚、先日逮捕された実行犯から「50万円貰って頼まれた」との証言もあり、本案件は計画的犯行で悪質極まりない。更に検察側の捜査により、「母親の血液成分の中からヒ素が検出された」との報告が入っている。被害者の母親が以前、突然の体調不良により入院したという記録があり調査したところ、この結果に至った。こちらも体調不良に見せかけて妻に対する殺意があった計画的犯行と断定せざるを得ない。

『よって、被告人に懲役25年を命ずる』

 時は過ぎ、高校2年生になった夏に弁護側の再審請求は棄却されて父親の実刑が確定した。中学3年からこの判決が下るまでの約3年半、いろいろな変化があった。

父親が逮捕されて間もなくの頃激しい腹痛があって、トイレに入った時に急に大量出血して

(あれ?)

思ったのもつかの間、私は何かとてつもないものを落として流してしまったような気がして婦人科に駆け込んでみると、そこはモヌケノカラ状態だった。これはちゃんと病院で診察してもらったが、私が起こしてしまった殺人第1号は「トイレに流れてしまった水子様」だった。

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