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7665日の物語 24

自宅まで約200メートルという所で背筋がゾクッとしたのと同時に

『かーーざーーーまーーー!!!!!』

という声が聞こえた。明らかに本気で殺しに来ている、殺気だ!!

『茜ちゃん、逃げて!!』そう言って僕は彼女の前に出た。

気配を読む。。1人・・じゃないな、2人、いや3人か。。。

タチの悪いことにブームというのは移り変わる。バタフライナイフから

サバイバルナイフに武器は変わっていた。バタフライナイフは果物ナイフ

サイズだが、サバイバルナイフとなると刃渡り20センチ近くある。包丁

と同じくらいのサイズだ。茜ちゃんの方に目をやると小刻みに震えている。

空手の有段者といえども女の子だ。僕1人でなら何とか。。。と考えて

いたら、こいつらの仲間なのか。10人ほどに囲まれた。

『おい、俺が1人で相手になってやる。この子は返してやれ』

『はぁ?おべー馬鹿じゃれーの?おめ―殺ってかろのお楽しめじゃんよ』

ろれつが回ってない。異常な汗をかいている。これは覚せい剤か。。。

これだけの人数相手にしたことは無いし、サバイバルナイフ。しかも

茜ちゃんを守りながらとなると、どうやって闘ったらいい??

『風間君・・・暴力・・・駄目だよ・・・』

茜ちゃん、わかってるけどこんな時に何を言っている。。。

『キャッ!!』という声と共に茜ちゃんの腕がナイフで切られた!!

『大丈夫だから、暴力はだめだから!!!』そう叫んだ茜ちゃんの後ろに

小さな人影。1人倒されたのが見えた。師匠だ!

『風間君、これは暴力じゃない。正当防衛だ。ただし、やりすぎるな。

できるか?』

『押忍!!』

僕と師匠は間に茜ちゃんを入れて。互いに背中合わせになった。

『コォォォォーーー!』『ハァァァーーー!』道場で師匠と立ち会って以来

だ。お互い本気で息吹を入れ、体制を整えた。

『君は茜を守る事だけに集中しろ!!』

『押忍!!』

近所の通報でパトカーが到着する頃にはヤカラは全員倒れていた。2人で

やった。2人で茜ちゃんを守った!その達成感で『師匠!!』と振り向くと

視界に師匠の姿はない。ふと視点を下にやるとしゃがんでる師匠がいた。

『師匠、やりましたよ。僕やりすぎてないですよ!!』

『・・そうだな、よくやった(笑)』  うそだろ?背中にナイフが

刺さっている。慌てて抜こうとした時『触るな!!』と救急隊員の声

がして僕は止まった。

『今抜くと大量出血する恐れがあるから、このまま病院まで運ぶ。

お嬢さんや君だって無傷じゃないんだから一緒に救急車乗って!!』

茜ちゃんは腕の皮1枚切られていた。出血はさほどでもない。僕は

ナイフは残っていないものの、左足の膝の内側を刺されていた。

恐らく廻し蹴りをした時に刺されたのだろう。アドレナリンが出ていたのか

全く気付かなかった。3人とも救急車に乗って動き出した。

『お父さん!!!』

茜ちゃんが泣いている。

『でーじょーぶだよ、こんくらい(笑)ちょっと刺さったレベルだ。

それより彼氏の出血の方が大変だぜ?』

酸素マスクを付けられた師匠が笑いながら言った。そうだった。僕も

左脚を刺されていたのだった。「くっそ!!」思わず拳を握った。

あれ?左拳が握り込めない。。見てみると大量出血の原因はむしろこちら

だった。左手薬指の第一関節から先が皮1枚でつながっている状態、

「開放性粉砕骨折」だ。左指、左脚。どれだけ左が弱いんだ!!

(いやいや、そんなこと考えている場合じゃないだろ?)と今は言えるが、

当時は「武」に生活すべてを捧げていた。しかも師匠と組んでこれかよ!!

という情けなさの方が勝っていた。とにかく悔しかった。

病院に到着しストレッチャーで師匠がまずオペ室に運ばれた。

『上着切りますね!!』という声が聞こえた。出血を少なく綺麗に刃物を

抜くためには着ている者なんか邪魔。だから上着を切って刺さっている刃物

の部分を消毒して、手術しながら刃物を抜くのだろう。

茜ちゃんの傷は皮1枚だったので救急車の中で

『これなら縫わなくても大丈夫だね』と言われて包帯で処置されていた。

対して僕は大体鼠径部を圧迫して止血し、左わきに自分の拳を挟み込んで

止血している状態。こちらも緊急オペだと言われた。

動揺している茜ちゃんを落ち着かせるため、言った。

『茜ちゃん、大丈夫だよ(笑)ごめんね、怖い思いさせたね(笑)』

『ううん、風間君・・・お父さん・・・』

『あはは、師匠も笑ってたし僕も笑ってる。大丈夫。茜ちゃんにしか

できない事があるんだ。同じ空手家としてお願いできるかな?』

それを聞いた彼女はフーっと息を吐き、「押忍」と答えた。

『あのね、師匠も僕も手術するってなると「手術同意書」っていうのに

署名・捺印しなきゃいけないの。これはお母様じゃないとダメなんだ。

タクシーで家に戻ってお母さん連れて来てもらえないかな?』

『押忍!』自分のすべきこと、せねばならない事がわかった顔をしている。

『いい子だ』 そう言っておでこにキスをした。彼女が病院を出たのを

見送った記憶が曖昧だ。僕も大量出血で意識がぼーっとしていた。

ストレッチャーで自動ドアの手術室に運ばれてライトがいっぱい・・・

までは覚えているが、そこからの記憶はなく、気づくとベッドに横に

なって左腕と左脚は心臓よりも高い位置に吊るされていた。

2人部屋で隣には師匠が寝ている。(無事だったんだ、よかった)

『目が覚めた?』お母様の声がした。

『はい、ご迷惑をお掛けしました。』

『本当よ。うちの男どもはこんな大怪我して!まあ、そのおかげで茜は無事

たんだけどね(笑)先に伝えておくね。風間君の左薬指、くっついたけど

もう曲げられないって。さっき手術後の写真見せてもらったけど、粉砕した

骨の代わりにセラミック入ってるみたいだよ。まあ、見た目くっついただけ

ヨシとしなきゃね。脚は縫って縫合しただけ。』

『あの、師匠はどうなんですか?』

『ああ、あの人は分厚い筋肉のおかげで綺麗に抜けたってさ(笑)

出血も少なく、内臓も何ともないみたい』

『よかった。。。茜ちゃんは?』

『私のせいで2人にケガさせたって。。。私が違うって言っても届かない

の。風間君が目覚めるまで待合に居るって。呼んできていい?』

『ぜひ呼んでください。彼女の心の苦しみは僕が治します』

『呼んでくるわ、お願いね。。』そう言ってお母様は出て行った。



重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。