スクリーンショット_2018-09-08_11

アーティストにはなれないけど、ストーリーを伝えることはできる〜勝手に編集後記

「僕は、"伝える"というのベクトルの始点と終点にいる人が少なければ少ないほど、純度が高く、強くなりやすい、と思っています。「自分のこの気持ちをあの人に伝えたい」という強く、そして個人的なベクトルこそが、結果的に多くの人の心に残るのだと思っています。」

伏し目がちに、でも明らかに語気を強めて、写真家・映像作家の奥山由之さんが発したその一言は、今回の特集に対する編集部、そして私自身の姿勢を象徴していた。

Forbes JAPANに転職してちょうど1年たったくらいから、担当デスクを筆頭にメンバー一丸となって「30 UNDER 30」という特集に向けて仕込みを開始した。アート、エンターテイメント&スポーツ、ビジネスアントレプレナー、ソーシャルアントレプレナー、ヘルスケア&サイエンスという計5分野から、30歳以下の30名を選出。この企画はまさに、担当していたメンバー全員の「個人的なベクトル」が集まったものだった気がする。

ここでは、自分自身の話についてのこしたい。私はこの企画内で「アート」部門の編集担当をした。理由を改めて考えてみたところ、2つのことが言語化できた。

1つ目は、「アーティスト」という存在と彼らの生き様がとにかく"好き"だからである。1つ目は、とかいいながらこれが全てかもしれない。(もちろん、アーティストとひとことで言っても多様な人々がいることは前提で)

私はアート業界のことなんてさっぱりわからないし、好きなアーティストはいるが、彼らや彼らの作品を比較したり(おこがましい話だが)評価したりするだけの判断基準も持ち合わせていない。だけど、やりたかった。

小説でも絵でも、料理でも写真でも服でもなんでもいい。自分自身の生き方に対する哲学、世の中に対する独自の視点と解釈、内側から湧き出てくる感情を表現する力… 

お金や周囲からの評価、社会の流れに一切脇目を振らず、自身の好きなことに熱狂し、苦しみながらも作品を生み出し続ける彼らの生き様は本当に尊い。自分にはないものをあまりにも多く持ち合わせている人々に触れたかったし、その時の話を少しでも多くの人に教えたかった。

2つ目は、「何かを0から生み出すひと」が憧れの対象だったから。小さいころから本を読み、漫画や映画を見て育った私は、いつかこんなものを作れる人になりたいと頭の片隅でずっと思っていたのかもしれない。祖父母が自営業で豆腐屋を営んでいたことも影響していたのもわからない。ただ、それを自覚したのは大学生になってからだった。

私は自分自身を「アーティスト ワナビー」だと思っている。そう、すごくダサい (し、そのダサさは自覚しているので責めないでほしい)。彼らのような生き方に憧れ、羨ましいと思うが自分にはできない、と諦めの気持ちを抱いていた。

ならせめて、彼らのストーリーをすくい上げて伝えることがしたい。彼らのストーリーや彼らの信念を、少しでも広く伝えることができれば、自分の矮小なこの気持ちが少しは報われるのではないかと思っていた。エゴイスティックかもしれないが、これは自分がメディアという場所に身を置き続けている理由のひとつでもある。

以上が、会社、媒体、企画とはまた離れたところにある、私自身の「個人的なベクトル」である。それが今回、素晴らしい書き手やフォトグラファーをはじめとする作り手の方々の協力のおかげで実現することができた。

「多くの人に届けたいという意識だけで作られたものは、大抵の場合、狙い通りに多くの人に深く刺さることはありません。大概、「刺さる」というより「見える」だけに終始します。」( 奥山由之さんの言葉から引用)

今回アート部門で合計6名を取材したのだが、6名それぞれある特定の友人の顔を思い浮かべ、「この人に読んでもらいたい」と思いながら記事を編集していた。

誰とは言わないが、SNSでの反応や対面での会話を通じて、少なくともその人達には「刺さって」いたことがわかったときは、しめしめと心の中でにやけた。すごく楽しかった。

常に膨大な情報にまみれざるを得ないこの仕事をしていると、作っているときは確実に誰かに刺さるものを作っているつもりだったものが、できてみると、奥山さんのいう「見える」だけのものだったと反省することもままある。ただ、いちサラリーマンである以上は仕事の選りすぐりは難しいので、仕方ないことかもなとも思う。それでも毎回自分自身が納得できる仕事をしていくためには、自分自身の中にある小さな想いを拾い上げ、都度企画や取材対象と重ね合わせながらつくっていくしかないのだろう。

----

そんなことを考えながら、素晴らしい方々に取材をし、編集をしていた記事、もしよかったら読んでいってください。あと、所属に関わらないふわっとした相談でもよいので、何かお力になれることがあれば何でもお声掛けください。

安田翔平さん|kabi シェフ

井田幸昌さん|現代アーティスト

奥山由之さん|写真家・映像作家

ノガミカツキさん|アーティスト

吉田志穂さん|写真家

YOSHIさん|モデル


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?