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「限りなく透明に近いブルー」に溢れる色彩

とにかく、この小説の中に溢れる色彩が素晴らしい。

ゴキブリの様々な体液の色、吐瀉物の色、豪雨に打たれてながら口紅で赤く身体を地面に縛りつけるということ、全身に鏡をあしらったドレス。

謎多き男グリーンアイズは、「君なら黒い鳥がきっと見えるようになるだろう」とリュウに言った。きっと、リュウ(龍)には、ただこの荒んだ場所の住人を全うするにはとどまらない「何か」を持っているということを、彼は見抜いたのだと思う。

ちょっとだけ文句を言うと、腐ったコールドチキンを食べてコールドターキー(ヘロインの離脱症状の鳥肌)が表現されるあたりは、実話なのかもしれないけれど、作りこみの感があった。でも、まぁ、その後鳥の描写が続くし、それもありなのかしら…

表社会だろうと、裏社会だろうと、強い詩情を見出し、表現できるひとはそう多くない。この小説の舞台は、セックス、ドラッグ、ロックンロールが渦巻いているが、それらの要素が揃えば、必ずしも美しい詩情がもたらされるわけではない。

この作品は、エクストリームな要素によって、バイアスをかけられてしまったり(読者自身の倫理観の上で読まれたり)、色眼鏡で見られがちなので本来の良さがなかなか理解されにくいかもしれない。この作品に溢れる色彩を、ありのままの姿を直視しなくては、本当に勿体ないと思う。私は読む前に、正直、こんなに秀逸な詩的作品だと思っていなかった。素晴らしいの一言に尽きます。

ちなみに私の、とても好きなところは、“限りなく透明に近いブルー”が、血に縁取られているという点である。

熟れ過ぎたパイナップルや、胃液の酸っぱいにおい、体液やカニ足の生臭い匂い、血の鮮烈な匂いの満ちるむさ苦しさの中で、まるで無菌室のような場所に、ひとつ離脱していたリュウのマインドが狂い始める。リュウがついに見たであろう不吉な黒い鳥。それを見てしまったからこそ、彼には、その先があったのだ。


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