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負けるな 勝たなくていいから粘れ

相変わらず、雨は降っている。ゴウゴウと音をたてて、風も吹いている。そんな夜の街を、灯りの少ない田舎街を、ただただあてもなく歩いていた。

普段なら、おばけが怖いとかなんとかという理由で、こんな夜遅くに出歩くことはほとんどない。ジメジメとした梅雨の暑さに負けてアイスを食べたくなったときでさえ、夜の街は歩かない。

そんなどうしようもなくビビりなチキンだけれど、今日だけは違った。自ら選んで外へ出た。服を着替え、靴を履き、玄関の鍵を開けた。相変わらず、雨は降っている。ゴウゴウと音をたてて、風も吹いている。

そういえば今日は台風だった。そうだったと思ったのは、あてもなく歩き始めてからしばらく経った、ふと我に返った瞬間だった。いつのまにこんな遠くへ来たのだろう。どれほど歩いたのだろう。いまは何時なんだろう。どれを考えても答えにはたどり着かない。だけれど今は、そんなコトはどうでもいい。

発端は、自ら企画をし、立ち上げた運動だった。試験的ではあるけれど、Twitterのハッシュタグを使い、関連するツイートを見て確認すると、小気味良い手応えを掴んだ。うまく進んでいるようにさえ感じていた。

ただやはり、新しいことをすれば、それをNOと言う人は出てくる。100人中100人に好かれようとするのはむずかしい。形がどんなものであれ、傷つくことはあるだろう。それは、頭では理解していた。いつか来るかもしれないその恐怖に似たようなものに、冷静に何をしたら良いのか覚悟はできていた。はずだった。

いつものようにハッシュタグを使って検索していると、知らなかった方がよかったなぁ、どうしてこの左手の親指はサクサクとスクロールしてしまったんだろうと後悔の念に駆られるものを見つけてしまった。

もしもそれが、炎上記事を書いたがために寄せられた、批判コメントならば仕方ない。誰かやなにかを傷つけて、そうして自分を強く見せるようにしていたのならば、天罰なのだろう。
ただ、今回は違った。予想もしていなかった。完全に、心を砕かれたのだった。まだ、批判の方がよかったのかもしれない。来るかもしれない荒波に、頭では対応できていても、心がついていけていなかった。

きっと、しばらくTwitterのその画面を眺めていたんだと思う。ついさっきの事なのに、どうしてかあまり覚えていない。

ピコンと、小さく短く通知音が鳴った。来るのを待っていたかのようにスマホを持つ。見れば、一緒に企画をしている方だった。どうか、同じことで同じような気持ちを抱いていないと良いなと思った。でも、願いは叶わなかった。

彼女は戸惑っていた。どうしたらいいかを、考えていた。そんなメッセージに、「ちょっと、なんとも言えない怒りというか」と、ぶっきらぼうにも程があるような返信だけして、夜の街へと飛び出した。

気付けば、雨は止んでいた。風はまだ少しだけ吹いている。今日が、風の吹く夜で良かった。胸の中に、胸というか、つま先から頭の先までを支配していたモヤモヤが、風に乗ってどこかへ飛んでいった。

『負けるな、勝たなくてもいいから粘れ』

いつかの恩師が言った言葉が、今日ほどカチッとはまる日はないだろう。今日が、風の吹く夜で良かった。

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