34回:誰の道具にもなるな、ミスタ・アイ

 という台詞がル・グィンの《闇の左手》を開いたら目に入ってきた。書棚のスペースが限られている中で何故この本をもってきたのかよくわからない。思い出したように手に取ってパラパラとめくっていたらそこで止まった。とても示唆に富んだ小説だし、前提として読み物として面白いのでどうぞご一読を。

 今日は台風一過後の大雨で外出する気が失せてしまい、家でダラダラしていた。そこから本を読もう思い立った。本当は萬代福に《環太平洋2》(パシフィック・リム2)か《Unsane》を観に行くつもりでいた。
 本を読み、野球の中継をチェックし、ご飯支度をする。《闇の左手》はその隙間で手に取られた。本来なら読まずに爐石戰記(ハースストーン)でもやるはずだった。

 昨日は低気圧と脱水の合わせ技で具合が悪かった。脱水っぽい時には冬瓜檸檬を飲むことにしている。甘酸っぱいものを口にすると気休めになる。が台風レベルの低気圧はそれを許してくれない。飲んで食べても頭が重い。こういう時イヴを即効で服用するように自分は出来ていない。痛みを創意工夫で乗り切ろう、という謎マインドが発生する。たぶん高校まで運動部だったからだ。ってか海外で生活するなら《闇の左手》よりイヴとかバファリンの方が一般的には優先度が高いみたいですね。

 一昨日はzineの最終確認をしていた。インタビュー相手のプロフィールがない、という致命的なミスに気がついた。内々なものだから油断しすぎていた。印刷の日程や値段を確認したり粽を食べたりしてる間に日が沈んだ。風は少しずつ強くなっていた。期末レポートに手を付けるかどうか逡巡しながら結局家に帰った。異様な蒸し暑さの中で向田邦子の小説を何冊か読んだ。プロ野球の結果をチェックする。私は日ハムファンだ。サッカーの世界大会が始まったことを知る。2002年日韓大会の時は中学生で見られる中継は全部見た。台湾だと蚊帳の外感がある。

 こうして文章を打っている間にお粥が炊けた。煮えたと言うべきか。鶏と青葱と椎茸が入っている。今から卵を放つ。
 「たしかに余はお前を怖れている。ミスタ・アイ。お前を送った者たちを怖れている。嘘つきを怖れている、陰謀家を恐れている。そして余がもっとも怖れるのは、過酷な真実だ。だからこそ余はこの王国をうまく治めているのだ。恐怖だけが人間を支配できるのだ。そのほかのものはだめだ。長続きがしない」
 電鍋を撹ぜながら目に入ってきた。この台詞はまだまだ続く。

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