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虹彩

昔から「眼」が好きだ。

眼球はまだ、失っても代わりの利かない人体の一部だ。人間には大抵ふたつきりしかない、一対の宝石に私はいつも眼を奪われてしまう。

学生時代、飴色の虹彩がうつくしい同級生がいた。その人の眼に陽があたると透けた飴色がきらきらとして、鼈甲飴みたいで美味しそうだなと思った。その人とは殴り合いを含む喧嘩ばかりしていてお世辞にも仲がよかったとは言えないが、それでもその眼はうつくしかった。

学生時代のことはほとんど覚えていない。覚えているのはいくつかのうつくしかったことと尊かったことだけだ。退屈な日常についてはほとんど忘れてしまったし、それでよかったと思う。

こうしてうつくしいことだけ覚えていたら、死ぬ間際に視る走馬燈はうつくしいのだろうか。できれば走馬燈を視る暇もないくらい苦しまず死にたいものだが。


サポートしてもいいかな、と思ってくれたそのお金であなたの大切な人と素敵な時間を過ごしてください。