moment83 side:unkown


部屋を彼女が出たタイミングでオレも外に出た。

「ちょっと」

「はい。あ。二宮さん」

「今日この後時間ある?」

「あーはい、」


「はるちゃーん!2次会行くでしょー?」

お友達が彼女に遠くから声をかけた。


「あ、うん!ちょっと待って!

あの、2次会終わってからでもいいですか?」

「別にオレはいいけど。あんま飲んで来るなよ。大変だから」

「え?あ、家に行けばいいの?」

「うん」

「わかりました。じゃあ着きそうになったら連絡しますね」


彼女とお友達だけで2次会をやるみたいだった。楽しそうだったな。それはよかった。

ぼーっとしながら家で彼女からの連絡を待った。

ほとんど、メッセージと同時にチャイムが鳴った。

「お邪魔しまーす」

もう慣れたもんだ。不思議な感覚。


「どうぞ」

「なんか久しぶりに来た…

じゃないや。えっと、私呼び出されるようななんか悪いことしました?」


「してるしてる」

「え?」

「辞めるなんて聞いてない」

「言ってないですもん」

「…」

「二宮さん、私ね、一般人なんですよ。元々任期満了なんです。」

「それで?勝手にさよならしようとしてたの?何も言わないで?」

「…」

彼女は困った顔をした。
それはそれで、かわいいけど。


「これ」

彼女に小さな箱を渡した。

「なんですか?」

「あけて」

「あ、イヤリングだ!え?新しいの?買ってくれたの?」

「うん。」

「ありがとうございます!えー!やったー!」


「あと、これ」

小さな箱を、もう一つ。

「ん?」

「あけて」


「…指輪…?」

「…」

「えっと…指輪は…なくした覚えがないんですけど…?」



「ずっと。そばにいて欲しいから。」



彼女は目を丸くしてオレを見た。
言ってる意味を理解しようとしていた。
いや、意味はわかるよ。日本語だもん。
なぜ、か。ってことでしょ。

すごく長い沈黙だった。
いや、静止した時間というか。
彼女が突っ立ったままだったから。

でもオレも別に急かしたりはしなかった。


そのあと、少し後ずさりしながら、彼女は言った。

「えっと…ちょっと、お話ししてもいいですか?」


「どうぞ」


彼女は少し怯えたような感じで話し始めた。自分の気持ちを、確かめながら、頑張って言葉にしていた。

「私…みなさんいい人で、みなさんに、人間的に好意があって…でもそんな、好きになるとか絶対ありえないしダメだと思ってて。私は一般人だし。仕事しに来てるし。

そう。そうなんです。

そうだったんですよ。

なのに、あのとき、二宮さんの触れた手が、あったかさが、どうしても消えなくて。

だから、知らない間に手を繋がれても、…キスされても、抱きしめられても、嫌じゃなかったし、むしろ嬉しかった。

けど、嬉しいって感じてる自分が…。ダメなのに。でも、ダメなのに、嬉しいからそういうことを続けていて。もっとダメで。

なんでこんなことするの?って、聞いてみればよかったんだけど、自分が少しでも期待してる答えじゃなかったら辛いし、そんな確かめるようなこと言ってしまったら、私たちだけじゃなくて、仕事を頑張りたい自分も、なんか…いろいろ、全部壊れそうで、だから、何も言わなかった。肯定も否定もしなかった。」

「…」

「一回聞いてきたでしょ?なんで何も言わないの?って。」

「うん」

「…言ったら終わっちゃいそうだったから。」

「…」


「そうやって、いいとこ取りして、」

「それはオレも同じ。」

「…」

「お互いわかってたんだよ、ね?」


「…じゃあ、どうして?今になって…

…好きになったらいけないのに。」


「なんでいけないの?」

「だって!立場が違いすぎるでしょ?!」

彼女は少し声を荒げた。



「じゃあオレが一般人ならよかったの?」


「それは…」


「一般人のオレだったら好きになれるけど、芸能人のオレは好きになれない?」


「それは違う。」

彼女はきっぱりと言った。


「けど、…」

「お前は肩書きで人を見るような奴じゃないもんな。」


「…私は…こうなるために来たんじゃない…」

「うん。仕事をするために来たんだよね。わかってるよ。」

「…」

「アイドルと一般の女の子の恋愛なんてさ、御法度中の御法度だよな。わかってるよ。知ってる。だからオレだって何も言わなかった。お前と同じ理由で。」

「…」

「ズルいことをしてるのもわかってた。お前が何も言わないことをいいことに、そこに甘えてた。」

「…」

「…だけど、オレはお前がお前だから好きなの。好きになっちゃったの。それでもダメ?」


「ダメじゃない…けど…」

彼女にはこういう癖がある。


愛されるってわかると遠ざかる。
それがシャッターの正体。


「…ただ、怖いだけ。」


「…」


「幸せって怖いでしょ?私今すごく嬉しいの。だけど、もしそれを失ったらって思ったら、怖いの」


「…」


「もし、いなくなったらって。私の嫌なところが出て、そのとき嫌いになられたらって思ったらすごく嫌。

…こうやって相手を信じられないところも嫌。」


「…」


「…私普通じゃないし、頑固だし、めんどくさいし、」


「もういい。」

「…」



彼女が自分を愛せないように
御託を並べたって、

一番大事なことは



「それで?

結局お前、オレのこと好きなの?」






彼女は大粒の涙をこぼしながら言った。

「…好きだよ!ずっと、ずっと好きだっ、」


彼女を抱きしめた。


「オレも。」



彼女の心が溶ける音がした。


ああもう、何もいらない。


何もいらないや。


あたたかさがしみわたって
彼女の丸裸の気持ちがわかって

それはとんでもなくシンプルだった。





「なんでもいい。お前がお前ならもう何にもいらない。そのままでいて。そのままのお前が、オレは好きなの。」



「あったかい…」



「一緒に、ゆっくり、やっていこう?」



そのままベッドに倒れこんだ。
初めて身体をかさねた。


感じたことがないくらい
あたたかくて
心地よかった。


彼女を抱き枕みたいにして
胸に顔を埋めた。

「ずっと一緒にいて。」


「いるよ?指輪もらったし」

ちょっと笑いながら彼女は言った。


「今度もっといいのあげるから」

「ふふ笑 うん。」


「ずっとね、こうしたかった。」

「うん」


そう、ずっとこうしたかった。
この部屋にはもう、素直しかない。


「あのね、」

彼女が静かに話し出した。

「ん?」

「…うまく、できないと思う。」

「何が?」

「…上手に、愛されることができないと思う。上手に愛することもできないと思う。」

「…」

「迷惑かけちゃうけど…だけどね、私、二宮さんのこと大好きなの。それは絶対変わらないから、」

「うん」

「だから…その、なんかおかしかったら言ってちょうだい」

「うん。わかった。」

「ごめんね」


「ゆっくりでいいよ」

「うん…」

「まだ始まったばっかりだよ。

大丈夫。ずっとここにいるから。」



彼女はぎゅっとオレを抱きしめてきた。

可哀想だと思った。
好きだって言われると、拒絶せざるを得ないその心の傷。幸せを感じきれない。彼女の安堵は一体どこにあるだろう。

でも彼女は、一生懸命オレの気持ちを受け取ろうとしている。それに、不器用ながらも愛してくれてることはわかる。

それに応えたい。


彼女の心が安らぐ場所を作りたい。


1分でも1秒でも長く
彼女の心があたたまる時間を。







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