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コロナ禍にオフィスの拡張移転が増加する理由

「コロナ禍でも拡張移転は増えてますよ」という話をすると、経営者の皆さんに結構ビックリされます。

一回目の緊急事態宣言前後は、メディアでも「オフィス不要論」が頻繁に取り上げられていましたし、たしかに弊社のオフィス仲介サービス「officee」にお問い合わせいただく内容としても、ベンチャーやスタートアップ界隈の縮小移転が多かったです。

あれから1年が経ったいま、僕が見る限りでは、拡張移転ニーズが結構回復してきている印象です。意外かもしれませんが、コロナ禍だからといってすべての移転が縮小というわけではなかったりします。

理由① 空室が増えたことで拡張移転しやすい市況になったから


どうして拡張移転が増えているのか。一つは、オフィス解約の急増で空室率が上がって、逆に拡張移転しやすい市況になったから。

コロナ前は、オフィス解約・縮小というのは正直レアだったと思います。特にベンチャーやスタートアップは変化が激しく、事業も組織も急成長しているフェーズだと、短いスパンで拡張移転を繰り返していく。

こういう企業がたくさんあると、当然ながら物件の取り合いが起こります。竣工前なのに満室とか普通にあるし、空室が出てもすぐ埋まる。圧倒的に供給が追いついてない、という感じ。

そんななか、突如起こったのがコロナの流行。緊急事態宣言前後にオフィス解約がどっと増えたのは、「先の見通しが立たないから、負担の大きいところからコストカットしよう」と判断する経営者が多かったからじゃないか、と僕は思います。

オフィスの解約が進むと、当然、オフィス市場における空室率は上昇していきます。解約予告期間があるので、「明日にでも退去!」とはならないですが、半年から1年くらいかけて、じわじわと上昇を続けました。

この頃にはもう、コロナが簡単に終息しないという認識が広まり、企業にとってもある程度事業の先行きが見えてきた状態。コロナ禍でも業績を伸ばしているところは、増員のために拡張移転しようと動き始めます。

オフィス解約をした企業が多かった分、以前と比べて空室も多く、結果的には移転先が決まりやすくなりました。

理由② オフィスに対する考え方が変わってきたから


拡張移転が増えているもう一つの理由は、オフィスに対する考え方が変化し、一人あたりの面積を広くしようとする企業が増えているから。

まずコロナ禍で一番意識すべきなのは、オフィス内での十分な感染症対策。隣席との間隔を空けたり、向かい合って座らないようにしたりすると、必然的に席が足りなくなりますよね。

あと、テレワークを取り入れつつもオフィスを残す意思決定をした場合は、「なぜオフィスが必要なのか?」という問いに対してしっかり答えを持つことが大事です。

たとえば、オフィスは従業員同士のコミュニケーションを活性化させる場なのか、企業文化をつくり育てていく場なのか。「毎日当たり前のように出社する場所」ではなくなったからこそ、従来の考え方とは少し違うものになっていくはず。

オフィスに求める役割が変化すると、どんなスペースを用意すべきか、一人あたり面積をどう計算すべきかなど、オフィスの在り方をゼロから見直さないといけません。

人を増やしつつ強い組織にしていくために、オフィスに集まることの意味を再認識する経営者が多く、だからこそ戦略的に拡張移転を選択する企業が増えている、と僕は見ています。

一人あたりのオフィス面積が広い方が、パフォーマンスは上がる


ちなみに、株式会社サトウファシリティーズコンサルティングが公表している「海外のオフィスビルの運用・保守管理コスト情報」によると、欧米諸国の主要都市における執務者1人あたりの事務所床スペースが約6坪なのに対し、日本では2~3坪。かなり狭いことが分かります。体格差なども考慮すべきなのでフラットには比べられないものの、この差はかなり大きい。

終身雇用型が未だに根強い日本と違って、欧米ではジョブ型雇用が主流。いかに一人ひとりが生産性高くパフォーマンスを発揮できるかが重視されます。この2つの事実を突き合わせると、究極的には「一人あたりのオフィス面積が広い方が、パフォーマンスは上がる」と言えるんじゃないでしょうか。

日本でもここ数年は既に、一人あたりのオフィス面積を広く確保していく動きがあって、コロナ禍でそれが加速している印象です。アフターコロナでも、おそらくこの流れは変わらないでしょう。

経営者が問われているのは、「働く場所」に対していかに投資をするか。働き方が多様化している今、それは必ずしもオフィスに限らないのかもしれません。

でも、だからこそ、オフィスでしかできないことが浮き彫りになっている。オフィスの価値は、コロナ禍でより一層高まっていると僕は思います。