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「検察共和国」韓国 パート2

前回の記事で、韓国の最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表に関する逮捕同意案が韓国国会で予想外に可決されたニュースを取り上げました。これによって、検察が李在明氏を逮捕する道が開けたわけです。ただ、まだ逮捕の可否は裁判所の判断に委ねられます。今回は、その裁判所の「中の人」たち、判事たちの政治性について掘り下げたいと思います。
※前回は、こちら↓


1割の確率で逮捕状請求棄却?

ハンストという捨て身の手を打った李在明氏でしたが、多くの国民の目には「逮捕を逃れるためのパフォーマンス」と映ったようで、支持はそれほど広がりませんでした。それは、裏を返せば、これまで彼をめぐって提起されてきた疑惑があまりに多いので、「逮捕・起訴されるべき」という受け止めが広がっていたことも意味します。

現地の韓国人ジャーナリストの見立てでは、「裁判所が逮捕状執行を認める確率9割、棄却する確率1割。その1割は進歩派判事が審査を担当した場合だ」とのことは、前回ご紹介した通りです。判事といえば公正・中立でなくては務まらない職業だと思われるでしょう。もちろん韓国でもそうあるべきだと司法界も大多数の国民は考えています。ただ、実際には、判事ごとに政治的な「色」があるのは否定しがたいところです。

もともと、韓国は社会全体が保守派と進歩派に大きく分かれています。両陣営を分けるポイントはいくつかありますが、決定的なのは北朝鮮とどう向き合うのか、そのスタンスの違いです。保守派は朝鮮戦争で戦った敵として「力で抑止すべし」と主張するのに対し、進歩派は「同じ民族なのだから話せば理解しあえる」として融和的な姿勢を取ります。前の文在寅(ムン・ジェイン)政権は進歩派、今の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は保守派です。

保守と進歩の間で政権交代が起きると、国の政策も大幅に変わります。日本とのセンシティブな問題でも、扱いはひっくり返ります。例えば、徴用工問題の大法院(最高裁判所)判決をめぐる摩擦を文在寅政権が「放置」して両国関係がひどく悪化したのに対し、尹錫悦が解決策を示して劇的に関係が改善したのはご存じの通り。

韓国国内をみても、政権交代に伴って政府機関、大手企業、メディアなどの上層部で大幅な人の入れ替えが起きます。新政権に近いとされる人たちが一斉に引き立てられ、前政権派とみなされた人は雪崩を打って外される…誇張ではなく、社会全体の「総入れ替え」が繰り返されてきました。日本では、そうした保守と進歩の激しい攻防を茶化す向きもありますが、北朝鮮との分断状態が続く限り、やむを得ない側面はあります。国の基礎である安全保障をどう考えるかをめぐって双方の考え方は正反対なのですから。日本とは比較にならないほどシビアな状況下に韓国はあります。

それに、政権交代があると「総入れ替え」が起きて外交政策もガラッと変わるのは、アメリカも同じです。民主党と共和党とでは、まるで別の国の人たちかと思うほど、言うこと為すこと、あまりに違います。トランプ前大統領が気候変動のパリ協定から離脱してみせたように、国際条約でさえも「チャラにする」事態も起こしています。そうしたとき、日本の政府やメディアは「国際法上、あり得ない」と沸騰したでしょうか。自戒を込めていうと、日本の政治家たちはもちろん、メディアも、アメリカと「アメリカ以外」とでは、同じような現象でも批判ぶりに差がありすぎですね。

実は司法の独立性が高い韓国

話がやや脇にそれました。韓国の司法界においても、政権が交代すると新しい指導者が人事権を目いっぱい行使して自分たちの陣営に近い法曹関係者を要職に就けます。判事の場合、大統領が大法院長を指名することができます。さすがに一線の判事たちまで大統領が決めることはできませんが、政権の意を汲んだ大法院長が陰に陽に全体の人事に影響を及ぼすことはできます。そして、一線の判事たちも、それぞれが言い渡してきた判決の内容や、所属する「研究会」の政治的指向性から、概ね、保守か進歩かのカラーは分かっています。

今回の李在明氏の逮捕状請求に関して、保守や中道寄りの判事が審査したら承認、進歩派の判事が担当したら棄却もあり得る、というのが前半で紹介した予測です。ただ、政治的なカラーがあるといっても、毎回毎回、そのカラーに沿った判断が示されるとも限りません。例えば、徴用工問題をめぐって日本では「文在寅大統領が日本企業敗訴の判決を出させた!」という調子の誤解が広がったのですが、実際には「日本企業に賠償責任なし」という判断を示した大法院判事の一人は、文在寅政権期に指名された人物でした。

というわけで、韓国で、判事たちの間で政治的な色分けは確かにあります(アメリカ連邦最高裁の判事たちの色分けは、もっと鮮明です)。一方で、必ずしもその政治信条に沿った判断を出すとも限りません。時の政権が示した路線を真っ向から否定する判決が出ることも珍しくありません。これは、軍事独裁政権期に司法界全体が政権のコントロール下に置かれ、軍政による人権抑圧を救えなかったという反省も根づいているためです。この点、日本で個人が国を相手取って起こす訴訟で最高裁判所が総じて政府寄りの判断を示す傾向にあることを考えると、実は韓国の三権分立、司法の独立性は「高い」ともいえるのです。

さて、李在明氏。

裁判所が逮捕状執行にゴーサインを出せば、検察と対峙することになります。前回もご紹介したように、韓国は「検察共和国」という異名(?)もあるほど、検察が強いです。過去、何人もの大統領経験者が検察の捜査によって獄中の人となってきました。最大野党代表・李在明氏がどうなるのか、目が離せません。

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