シアター・オリンピックス②

備忘として、シアターオリンピックスでの観劇の感想を記しておく。筆者は芝居の専門家ではないので、素人の感想であると同時に、日本語以外の言語を理解しないため、海外の芝居のセリフについては字幕に頼っての理解であることをお断りしておく。

今回のシアターオリンピックスで観た舞台は以下の三つである。
①すべては夜のなか/パコ・デ・ラ・ザランダ(スペイン)
②マクベス/アレサンドロ・セラ(サルデーニャ/イタリア)
③浄化/オスカラス・コルシュノヴァス(リトアニア)

なんの面白みもなく、それぞれの感想を書いていく。

①すべては夜のなか
筋を説明するのは難しい芝居なので、書かない。
3人の老人が行くあてもなく彷徨い、最後には芝居を礼賛して朽ち果てていく話、という風に筆者は理解している。
家族から、社会から見放された老人はどこに向かえばよいのだろうか。
個人的な感想としては、終盤に向けて高まっていくエネルギーの強さは感じたが、もう少し練度が高ければさらに楽しめたのではないか、というのが本音である。決して悪い芝居ではないと思うが。

注目したいのは、これが日本の利賀村で演じられた、というところだ。この芝居を高齢化社会における警鐘、と単純に言い切ることには賛否があろうとは思うが、ここではその議論はしない。日本はスペインを超える高齢化社会で、利賀村に至っては65歳以上が人口の半数を占める限界集落である。

成熟した社会では、成長は緩やかになり、その後いかに維持していくのか、ということが問われるようになる。その力で国を支えてきた高齢者たちは、医療費問題、年金問題、近年では運転手の高齢化問題等、(基本的に本人たちのせいではないのに)疎まれるようになったようにも思える。

同じ文化を共にするすべての人間が、理不尽な思いをしないような社会の形成が要求される。そういうことを強く考えさせられる芝居であった。この問題の解決に積極的に取り組むことは、日本人の責務であろう。

②マクベス
筋については説明しない。シェイクスピアの有名な戯曲である。今回の舞台のなかで、最も上演時間の長い芝居だった。2時間10分ほどあるのではなかろうか。そのせいで冗長に感じられたことは否めない。だが、各シーンを切り取りモザイクのように配置し、全ての場面が非常に練度が高く視覚的にも美しく展開していく様には、大変な感銘を受けた。

もろもろ思うところはあるが、今回は「女性と性差」に注目してみたい。王の立ち位置に目がくらみ、躊躇するマクベスを奮い立たせ下克上を果たさせるマクベス夫人。その後もマクベスの罪の意識を取り除くよう振舞うが、やがて自身も狂っていってしまう。マクベスは女の股から生まれた人間によっては殺されない、という魔女の予言から、自身の不死性を信じているが、最後には母の腹を破って生まれてきた、というマクダフとの一騎打ちに敗れてしまう。このどちらにも、英雄の裏に女性の影が見え隠れする。

今の日本には、性別による偏見を持つ人々が一定数、いる。ここでは細かく書かないが、テレビなどを見ていると、驕った男性がたくさんいるものだ、と思ってしまう。過剰に権利を主張しすぎているのではないか、と思われる人もいる(男女問わず)。

性別の垣根が曖昧になり、さまざまなことが明るみに出やすくなった現代においては、「男性」とか「女性」とか大きな主語を使うことに細心の注意を払い、それぞれが生きやすいように人同士尊重し合うことが大事なのではなかろうか、と思っている。

③浄化
かなりとがった劇作家、サラケインの戯曲。サラケインという人物は今回初めて知ったが、大変に躁鬱の激しかった人であったらしい。日本語版のWikipediaには載っていなかったので、英語版のを見たところ(筆者はろくに英語が読めない)どうやら28歳の若さで自分の靴紐で首を吊ってなくなっているようだ。

だからなのかはわからないが、非常に暴力的、性的な芝居であったように感じられる。秋の山中で全裸になって演技をするなど、大変気合が入っているのはわかるのだが、正直どう見ていいかわからず、困惑してしまった。この芝居については、自身の勉強不足から理解が及ばなかったと感じているので、誰かわかる人は教えてほしい。

この舞台は、近親相姦、同性愛、売春といった性的タブーに、支配/被支配という関係の曖昧さを絡めて、ラジカルに演じられている。

何となく、DV相手から逃れられない男女の共依存みたいなものを連想してしまった。自身の貧困な問題意識と不勉強を恨むばかりである。

とはいえ、ストックホルム症候群とか、アイヒマン実験とかにもあるように、人間関係は、実は当人同士の直接的な関係性ではなく、立ち位置によってゆがめられたりも簡単にするので、本当に複雑で大事なテーマだとは思うんですが。

以上。海外の芝居を見ることは少ないので、大変良い経験になりました。

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