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漫画「オナニーマスター黒沢」

「最後には等身大の救いがあるよ」

この評は非常に的を射ている。

これは、ふざけたタイトルの割に内容がしんどく、読み続けるか迷った私に友人がくれた言葉。

最初は、別にそんないい話じゃないよ、と言っていた。

「でも、そうだな……最後には等身大の救いがあるよ」

と彼は言った。
本当にその通りだった。

そしてその「等身大の救い」は、奇跡や魔法など無く地に足の付いた内容でありながら、とても自分では再現できなさそうなところに、心震える要因がある。

私はすっかり、オナニーマスター黒沢のことが好きになってしまった。

オナニーマスター黒沢とは

web上で伝説的人気を誇った『オナニーマスター黒沢』がついに電子書籍化!中学二年生の黒沢の楽しみ…。それは学校の女子トイレで同級生をオカズに自慰にふけること。しかし、クラスでイジメに遭っている少女に見つかってしまい……。(Amazonより)

あらすじで面白さが伝わらないのは、出来事を通して目に見えないものを描いているからだ。

最初は、女子トイレでそんなことしてるんじゃねぇよとつっこみたい彼の「日課」や、少女へのイジメ描写が続きただただ辛かった。

男子中学生の楽しいオナニーライフにはさほど関心がない。
その点、タイトルに偽りはない。

しかし、しかしなのだ。

物語が進むにつれ目が離せなくなり、とてつもない引力で引き込まれ、最後は満たされた気持ちで包まれた。

こんな恋の描写があるのか

人気の無い放課後の女子トイレで同級生をオカズにオナニーに耽るのが「日課」の主人公。

1人を好み、群れず、「自己主張が苦手な目立たない生徒」だと自分を評す彼が、ある同級生に恋に落ちる。

その描写が秀逸なのである。

それは、体からはじまる恋。肉体関係ということではない。
体の変化から、恋を自覚する。具体的に言うと(なるべくネタバレしたくなかったのですがごめんなさい、内容に触れます)想い人を、これまで行っていたオナニーのオカズにできなくなるのである。

(彼女と)会話をしたあとは
何故か決まって僕のイチモツは
オリハルコンのごとく硬度を増し
僕の意思とは無関係に元気良く脈打つ
原因は不明

「原因は不明」じゃねぇよ。
それは恋だよ!恋っていうんだよー!!と読者として叫びながら見守ると次のステージは、暴走。

彼のイチモツはこれまでにない暴走状態に陥り、彼はそれを鎮めるが、その後突然、嘔吐。
これまで日々の愉しみであったオナニーに対し、体があらわした拒絶反応。
そのインパクトは、主人公にとっても読者にとっても、デカい。

それから主人公は、何の予定も無い夏休み中、彼女に会いたい、という思いから町をひたすら歩き回るようになる。偶然に、彼女に出会えることを願って。

誰にも傷つけられない完璧な世界に耽っていた、その外にあったもっと美しく胸をうつ現実

さて、作中で主人公は決してオナニーライフを満喫しているだけではなく、「日課」がいじめられっ子の少女にバレてしまったことで、事件を引き起こしていくことになる。

それは彼の恋や、友情、少女のいじめ環境と絡みあって、ずぶずぶと抜けられない沼のように、深度を増していく。

こんな「日課」をもち、孤高の道を選びながらも、黒沢は根暗で自我の薄い人間と言うわけではない。
彼なりの意思でその道を選択している。そんな彼が、苦しみ、半ば自暴自棄になり、暴走していく姿をみるのはつらい。

瞼の裏の世界でなら
誰もかれもが僕の思い描いた人間になる
本物の君の前じゃ
恋愛小説の恋の相手にはなれないのに
瞼の裏の世界でなら
君が望む恋の相手にもなれるのに
君に手が届くのに
こんなことばかり得意だ……

かつて嘔吐してしまい、オカズにすることができなくなってしまった彼女を再び脳内で犯すことが可能になった黒沢の独白は、あまりにも静かで、美しく、そして切なく、読んでいて泣きそうになってしまった。

やっていることは割かしサイテーなんですけどね。

そして色々あって、黒沢は自分が起こした事件について、彼なりの方法で責任をとることを決意する。
それが冒頭の「等身大の救い」につながるのだが、それは「等身大」の彼が出来る地に足の付いた方法でありながら、眩しくて、清々しくて、凄惨でありながら美しくて、私は「オナニーマスター黒沢」に尊敬の念を抱かずにはいられないのである。

あの恋に落ちる感覚を味わってみたいと思った

ところで私の股間にはイチモツはついていないけれども、先述の黒沢が恋に落ちる描写を読んで、無性に男になってみたいと思った。

そしてこんなにも激しい身体感覚があるならば、味わってみたいと思った。

これは私が女だから、若干夢を見ている部分もあるのかもしれない。
気になって、あのような感覚は男性として共感できるものなのか知人に聞いてみたところ、反応はそう芳しく無かった。

まあ、いちいちあんな状態に陥っていたら大変だろう。

ただ、初恋の描写としてはわかる、とのことであった。
なるほど、初恋。

一見クールで大人びているようにみえながら、やはり未熟な部分もある(なんたってまだ中学二年生なのだ)黒沢の、初恋と自我の暴走と、外界との接触の物語と考えると、本当に黒沢がいとおしくなってくる。

概ねオナニーしているんですけどね。

残念ながらイチモツが無いので、「飛距離の更新」だとか「かけて汚す」という感覚が私にはいまいちわからない。

事後に、壁についた精液を自らぬぐって片付けている姿は私には妙に面白く感じられるのだが、男性諸氏の目にはどう映るのだろうか。

未知の世界だが、男性のオナニーは、単に性欲解消以外にも、妙にアトラクション性があるように感じた。

読後、こんなことになるとは思わなかった

正直、手に取ったときにはまさかこんな文章を書くことになるとは思っていなかった。
昨夜はオナマスのことを考えていたら時計の針がするする進んでいて寝不足になったし、読み終わった直後の夕飯では、私史上最高に美味しいと感じている食パンを炭化させてしまった。

つらい。

ほんと私なにやってるんだろうと思った。

正直もう一生分「オナニー」と書いたような気がする。もうこのような作品には出会いたくない。

Kindle Unlimited対象作品なので、よろしければ台風の夜に、お盆休みの寝苦しい夜に、ぽかんと時間の空いてしまった昼下がりに、読んでみてください。全4巻です。

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