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息子の遺伝子にお祭りが刻まれた夏

保育園からの帰り道、息子を抱っこして歩いていると、腕の中で息子がぴょんっぴょんっと跳ねだした。

「わっしょい、ピッピ!わっしょい、ピッピ!」

少し舌ったらずな声で、さけぶ。
そう、これは祭囃子。

揺れに合わせて息子は、笛の音まで忠実に、お神輿の担ぎ声を再現するのだ。


今年の夏、息子がみたお祭りは2つ。

高円寺の阿波踊りと、保育園で行われた夏祭りだ。神輿は、保育園の夏祭りで登場した。

子ども用サイズの神輿を2〜3歳の子が担いで、部屋の中をぐるりとまわる。
息子は担ぎはしなかったが、じっと食い入るように見つめていた。去年も同じ光景を見ているけれど、1歳前という年齢で、覚えているかどうか。
今年は同じクラスの子が担いでたのもインパクトがあったのかもしれない。

これまでダンスや音楽にあまり反応しなかった息子が、そわそわ、うずうずしていた。
魂で惹かれているようだった。

また今年は、高円寺の阿波踊りにも足を運んだ。

高円寺の阿波踊りは、街中を何組もの踊り手集団が練り踊る。

すぐ近くで音楽が鳴り響き、肉体が躍動する。

もしかしたら息子は賑やかさにびっくりしてしまうかもしれないな、と心配していたのだが、存外じっくり、ずっと眺めていた。

寝るのが遅くなってしまうから、もう帰ろうかと声をかけても、首を振って「まだ(みる)」。

真剣な面持ちでうねる身体を、跳ねる足を、お腹に響く太鼓の音を受け止めていた。


あれからもうひと月以上経つけれど、その時撮っていた動画を「おまちゅり」「うごくの」「これうごかない(写真)」「あ、あったー!」と母のスマホを勝手にいじくりまわしては何度も見返していて、息子の身体に「お祭り」がインストールされたのを感じる。

なんとなく、私も嬉しい。

思えば私も、今の自分からは想像がつかないことだが、踊るのが好きな幼女で、夏祭りが大好きだった。

ふわふわした、兵児帯を巻いて、浴衣で出かけるのが最高に好きだった。

鏡の前でくるりとまわると、兵児帯がひょんっと上を向いて、そのやわらかさをもっとふわふわにして、元に戻る。

近所の友達と連れ立って走ると、垂らした帯がひらひらと金魚のようにたなびいて、とてもきれい。

砂利に足をとられながらくるくる、ふわふわ、走って跳ねて、はしゃいでいた。

盆踊り会場のやぐらの明かり。ずんずん響く太鼓の音。真面目そうなおばさんが、完璧な振り付けで、せっせと踊っている姿。

どれもこれもが好きだった。

最初は踊りの輪に加わるのが子どもながらに気恥ずかしく、振りもわからずおどおどするが、だんだんと動きを覚え慣れてくると楽しくなってきて、自然と頬が上がってしまう。

あの感覚も、とても好き。

綿あめには時々蟻が入っていてびっくりした。
そのうち、そんなこともある、と思うようになった。

かき氷はブルーハワイを好んだ。
焼きそばよりフランクフルト派。
ヨーヨーすくいが、ちょっと下手。
りんご飴は、食べるより見る方が好きだった。
あんな綺麗な食べものが、並んで夜闇の中てらてらしてるの、目を奪われるに決まってる。

海の近くの、ひと夏に3回も打ち上げ花火がある地域で育ったので、夏に花火を見るのは当たり前で、桜前線のようにその日がくるのを指折り数えた。

地元民しかいない、さほど混まないお祭り会場で花火を見上げたり、家の出窓から少し遠くの花火を眺めたりした。

いずれの花火も美しくて、わぁっと思わず声が出て、夢の中にいるみたいで、終わってしまうと、少しさみしい。

打ち上げ花火も、手持ち花火も、どちらも好き。

あれは夏の香りがする。

線香花火を落とさないために、じっとしているのは得意だった。

最後は、落ちちゃうんだけど。

おばあちゃんちで食べた、採れたて野菜の信じられないほどの美味しさ。もっくもくの入道雲を見つけた時の、お得感。掛け布団代わりのタオルケット。とにかく強烈な日差しと、すべてが色鮮やかな季節。

今では涼しい部屋でごろごろしながらアイス食べていたいとばかり願う私だけれど、夏は、「好き」がたくさん詰まった季節だったことを、近頃の息子をみていて思い出した。

息子も、これからたくさんの「好き」に出会って、その身に蓄えていくのだな。

うん、いいなぁ。

息子はすごいから、勝手に「素敵」と出会い「好き」を見つけるのだろうけれど、多少なりとも、その役に立てたらいいなぁ。
思い上がりかなぁ。

そして、今後息子が「好き」と出会う、そんな瞬間に時折立ち会えるとしたら、なんと贅沢でしあわせなことだろう!

未来がとても楽しみになってしまった。

来年は、お神輿かついでみるかい?

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