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落としたのはイヤリングだけじゃなくて

金曜日、ロッカーの扉についた鏡を覗き込んで私は愕然とした。

「イヤリングがない!!!」

しかも両耳、である。

ああ、なんで気づかなかったんだろう。
ストールやマフラーを巻く季節はありがち。

今日も保育園から駅まで走ったし、途中でマフラーを取った時に引っかかって取れたのかもしれない。少し大振りで重さもあったし、ネジをゆるめにつけていた気もする。

心当たりは沢山あったけれど。

あー、うそぉ、やだ、ショック……

落としたのはただのイヤリングではない。昨日届いて、今日初めてつけたイヤリングだ。

まだ、出会ったばかりだったのに……。

わずか1時間足らずでお別れとなってしまった。

私はネックレスとイヤリングが好きだ。
ファッション全体にはとても疎い方だと思う。

それでもアクセサリー類は好きで、元々は大のネックレス好きだった。

毎日変えても1ヶ月以上かかるほど持っていて、服やシーン、気分に合わせて変えていた。

就職した会社は堅い服装の職場だったので、ある程度ちゃんとした物をつけないと浮いてしまう。
ボーナスが出るたびにアクセサリー売り場に足を運び、今の季節なら「クリスマスプレゼントの下見ですか?」と店員さんに聞かれては「いえ自分用です」と言って自分にご褒美いいですよね、とか妙なフォローをされながら購入していた。

とても楽しかったけれど、欲しい石、欲しいデザインの、自分が使いやすいネックレスがひと通り手に入ったところで熱がおさまった。

次はイヤリングだった。

実はイヤリングをするようになったのはここ数年だ。それまでは、何となく派手で恥ずかしいような気がしていた。

どうしてつけるようになったか記憶は曖昧だけれど、ネックレス熱がおさまって、ずっと引き出しにしまってあった貰い物のイヤリングをそっと耳につけてみたのがきっかけだったかもしれない。

つけないイヤリングを時々プレゼントしてくれたのは母だった。

母はネックレスをしない代わりにイヤリングとブローチが好きな人で、綺麗な箱いっぱいに色とりどりのイヤリングを持っていた。

どのデザインも一風変わっていて、大きめで派手なのに母の耳におさまると何とも丁度いい。
一気に顔周りが華やいで、いっそう母の明るさとエネルギッシュさ、上品さが引き立つよう。

母と一緒に母のイヤリングをあれこれつけたり並べたりしながら眺めるのが好きだった。

そんな経験があったからか、次第に私もイヤリングに挑戦するようになった。

イヤリングは意外とお金がかからない。
もちろん素材によるが、ガラスやプラスチック、布などのものであれば手頃だ。

私は落としてしまうことも、パーツが壊れるまで使うこともあったから、だいたい1000〜3000円程度のものを買っている。

ネックレスより手頃に買えるぶん、季節に合わせて素材で遊ぶのが楽しい。

これからの季節だったら、ニットやファー、ベロア生地などの温かそうな素材や、こっくりとした深い色のものもいい。

あと、夏にはちょっと暑苦しかったパールもつけたくなる。

職場だとシンプルでフォーマルなデザインになるけれど、内勤なので可能な範囲で華やかに遊ぶ。

私はキラキラするものが好きだ。

ちなみにハート型のデザインを見るとジョジョっぽいと感じてしまう病を患っている。


アクセサリーがあると、気分も変わる。

どんなに気分が冴えない時でも、キラキラは取り込める

輝きは足せる。

アクセサリーは防具であり武器で、怠け心もなんとか押さえ込み、シャキッとさせてくれる。

外に出る気にさせてくれる。
(おうちが好きな出不精なので……。)

そういう魔法の道具なので、失ったかなしみはそれなりにでかい。

こういう、何かを失った時の対応にはいくつかパターンかある。

1.諦める
2.厄落としだと思う
3.探し出そうと手を尽くす
4.再び手に入れる(買いなおす等)

正直、高いものではない。スマホでぽちぽちすればまた同じものを手にすることもたやすい。

でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。

だって、諦めるほど使い込んでないし思い出もない。使い込んでいないから、厄落としだと思うほどの身代わり感もない。
探し回るほどの思い入れもまだなく、再び手に入れたいと強く思うほど使用感を確かめられてもいない。

縁がなかったのだ、と割り切ろうとしても、心の隙間が埋まらない。

なぜなら私が失ったのは、新しいイヤリングとわくわく過ごす時間だったのだ。

ちょっと派手だろうか、とか、この服と合わせると色が引き立つなとか。

仕事でもプライベートでも使えそうとか。どんな髪型にあうかとか。

そういう色んな試行錯誤を繰り返しながら新しいイヤリングと絆を深めたかった。

それなのに、あまりにも、あまりにも早い別れ。

貴方と色んなところへ行き、色んなものと合わせ、絆を深めたかった。
それを楽しみにしていた。

その機会を失って、私はさみしい。

まだ少し引きずっているけれど、また素敵なイヤリングと出会えるのを待とうと思う。

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