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描線の音楽会#1 プログラムノート

2019年12月15日(日)@水道橋Ftarri
【描線の音楽会#1】当日に配布したプログラムノートになります。描線の音楽会そのものについては、また別途記事にしますのでそちらをご覧ください。

出演:池田拓実(コンピューターetc.)、今村俊博(パフォーマー)、ささきしおり(パフォーマー)、磯部英彬(電子音響)

ープログラムー
ささきしおり/通模倣様式によるシンフォニア(2019)新作初演
今村俊博/描く人(2019)東京初演
―休憩―
池田拓実/Myzel(2019)委嘱新作初演
ささきしおり/Conposition 2019 #1 東京初演
ー ー ー ー

本日は描線の音楽会にお越しいただきありがとうございます。
「描線の音楽」と名付けたのは今回が初めてですが、この「描く」行為を「演奏」行為として組み立てていく「ドローイングサウンドパフォーマンス」もしくは「描線の音楽」活動自体は、今日で5回目となりました。
これまでは画面をライブプロジェクションし、音響もエレクトロニクスでの加工を前提としていました。ですが今回、前半はアンプリファイすらもなしです。この状況下でひとは何に注目するのでしょう。
このように常に新しい表現への可能性を探求しており、定番の「やり方」というのは存在しないのですが、
そんな中このパフォーマンスのための作品を池田拓実さんに委嘱しましました。また、今回は今村俊博作品の東京初演もあります。私の作品を含む全4作品は、「描く」という日常的な動作を軸に生まれる、「音楽」とは何なのか、そもそも「作曲」とは何なのか等々の問いと、作家ごとの答えが並んでいる、ともいえます。「描く」という動作を再び色々な角度・解像度で眺めながら、私たちが思い込んでいる音楽とは何なのか等々考えてみたいと思います。
複数の作家による様々な視点を並べたときに、また違った見え方をするかもしれない、とワクワクしています。
それでは、最後までお楽しみ頂けたら幸いです。
ささきしおり


1)ささきしおり/通模倣様式によるシンフォニア(2019)

通模倣様式とはフランドル楽派において隆盛した、定旋律をもたずに全声部がさまざまな形でカノンを行う様式である。ここではジョスカン・デ・プレの諸作品にみられるように、カノンのさまざまな形態をドローイングにより連綿と展開していく。
「描く」行為は「演奏」行為である、と定義したときに、耳に聞こえる「線」と目に見える「線」は、通常はひとつの「描画行為」=「演奏行為」である。しかし、ここでは意識的に聴覚的な「線」と視覚的な「線」を分離させることで、視覚と聴覚の間にポリフォニーを形成することにも挑戦している。さらに、ドローイングのもう一つの特徴として、描かれた線が堆積していく、つまり「時間が堆積していく」ことがあるが、ここでは描かれては消える線、音としてしか聞こえない線(しかし同時にすでに描かれた線は見えている)、といった時間の堆積に関する異化も試みている。

2)描く人〜ヘイターズへのオマージュ〜(2019)
 2019年2月、名古屋のparlwr(パルル)で開催した【いまいけぷろじぇくと+ささきしおり】にて初演。「書く/描く」というテーマのもと各作家が新作を書き下ろすといった内容のイベントだった。
 本作品は、「一本のマイクを2人で向かい合った状態で握り、机に円を描きながら擦り続ける」というTHE HATERSのパフォーマンスが元になっているが、「行為」の反復によって生じる微細な身体の変化や、円を描き続けるルールの設定など、その場に立ち上がる図が近似でありながら、状態が異化されている。
THE HATERS Live at LUFF 2009 https://youtu.be/6hHNC0fjVyU

3)Myzel [for Shiori Sasaki] (2019)
本作は John Horton Conway と Michael Stewart Paterson 考案の対戦ゲーム Sprouts(1967) を演奏用に翻案したものである。紙の上の任意の「障害物」を除いて、ドローイングのルールは Sprouts そのものである。楽譜の指示に基づき、任意の助演者が演奏に参加する。
今回、ささきしおりさんのために作曲するにあたり「描く」ことを「聴く」とは何を意味するのか再考した。以前に拝見したささきさんの素晴らしいパフォーマンスにおいてエレクトロニクスは欠かせない要素であったが、ドローイングとエレクトロニクスとの関係の再検討それ自体が本作であるとも言える。結果として、演奏とは何か、聴くとは何か、作曲とは何かについての現時点での私の見解を過不足なく含む作品になったと自負している。作曲の機会を下さったささきしおりさん、技術面で支えて頂く磯部英彬さんに心より感謝申し上げます。

4)ささきしおり/Composition 2019 #1(2019)
ラ・モンテ・ヤングのComposition 1960 #10 へのオマージュである。ヤングの作品の場合、「Draw a straight line and follow it」とあるが、この作品では会場空間にテープを引きながら、もう一人がそのテープに線を引いていく。ドローイングパフォーマンスには「時間が堆積する」という性質があるが、ここでは「テープを引く」「線を引く」という2つの時間が存在する。線はかならずテープの軌跡を辿ることから、2声のカノンともいえる。
テープが空間に張り巡らされていくことによる視覚的空間的時間の堆積。そしてそれを追い描線を加えて「演奏」することで、音が時間と空間を追認する。ここでの聴覚的時間は、描かれると同時に線として空間に記録され、堆積する。過去を追いながら記録するこの行為は、さながら廃墟の記録のようである。
今日の上演ではドローイングパフォーマーはマイクとスピーカーを所持しているが、2019年2月に名古屋で「いまいけぷろじぇくと+ささきしおり」イベントにて初演したときはアンプリファイを全くせずに行った。今村俊博、池田萠により初演。

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