今から始める茅原実里(2024年版)

はじめに

声優アーティスト・茅原実里楽曲を今から聴き始める人のために、超簡単にまとめてみた。

音源

まずはベストアルバム「Sanctuary」「Sanctuary II」

2014年のベストアルバム「SANCTUARY - Minori Chihara Best Album」が一番わかりやすい。1st「Contact」(レーベルを一度移籍しているので厳密な1stではないが、以下わかりやすいようにそう書く)から、5th「Neo Fantasia」ごろのアルバム楽曲とシングルが目一杯詰まっているため、彼女の音楽を一望するには最適。
これで興味が湧いてきたら、ほかの作品に踏み込んでいくといいだろう。

声優としての活動、特に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」で茅原実里を知った人には、ぜひ「Sanctuary Ⅱ 〜Minori Chihara Best Album〜」を。二枚組の半分をまるまるキャラソンにつぎこんでいる、攻め切ったベストアルバム。「Sanctuary」収録済みの重要楽曲も入っているため、一枚目がこっちでもよい。
ただし、配信版はキャラソンが含まれていないため注意。


上記二枚で、まだまだ聴きたくなったら、どんどん増やしていこう。

全部入りの完成系「Sing All Love」

誰にでも勧めたいのが、3rd「Sing All Love」だ。ランティス移籍後1st「Contact」で見せてくれた北欧デジタルシンフォニックポップの世界と、ポップな側面とストリングスを強化して突っ走る2nd「Parade」を経てこその、全部入りアルバムだ。
デジロック+ストリングスの茅原実里ど真ん中「Final Moratorium」、ヴァイオリンとギターのユニゾンリフが輝く正統派ハードロック「Tomorrow's Chance」、アコースティックの響きに柔らかな歌声が乗る「tea for two」と、ジャンルの方向は様々。
正直なところ、アルバムとしての一貫性は少し弱いのだが、茅原実里とその楽曲の「勢い」としては一番強い。このアルバムを引っ提げての初全国ツアー、そして追加公演となる日本武道館のコンサートは、彼女にとってのひとつのピークとなった。
さらに、「Sing All Love」の初回限定版には、河口湖ステラシアターで開催されたライブ「SUMMER CAMP」の映像がほぼフル収録されたBlu-ray / DVDがついている。つくられたCD音源には収まらない、生ライブの茅原実里が楽しめるため、手段を選ばず是非手に入れてほしい。

マニア向けの一枚「Innocent Age」

もう一枚、私のおすすめは6th「Innocent Age」。茅原実里は「Sing All Love」の発売後、「電脳アリス」をテーマにしたデジタル感満載の4th「D-Formation」、「遊園地」の光と影を描く5th「NEO FANTASIA」と、アルバム一枚一枚に物語を描いてきた。「Innocent Age」はそれらの完成系と呼べる作品で、ひとりの女性の恋愛をテーマにしたコンセプトアルバム。打ち込み中心の楽曲作成スタイルから生音メインに転換し、過去楽曲の中心に立っていたストリングスをがっつりと削る異色の作風であり、恋にまつわる影・闇・悲しみまでも取り込んだ歌詞世界では、茅原実里本人が多くの作品で筆を取る。
正直なところ、ベストアルバム聴いてからいきなり突っ込むと驚くかもしれない。はっきり言って、初心者向けの作品ではない。しかし、アーティスト・茅原実里としては最高峰のできばえと断言しよう。聴き終わったあとの余韻は随一。

Blu-ray

茅原実里の音楽は、CDだけで完成されるものではない。むしろ、デジタルの音楽世界を生音で再構築する、ライブにこそ本質がある。
もちろんリアルな現場で楽しむのが一番なのだが、彼女を生で見られる機会は意外と少ない。それを待つより、まずは映像作品で体験していただくのがいいだろう。

実質シングルベスト「15th Anniversary Minori Chihara Birthday Live ~Everybody Jump!!~」

7thアルバム「SPIRAL」の翌年、茅原実里のデビュー15周年と誕生日・11月18日を記念して開催されたライブの映像化作品。
一曲目は「純白サンクチュアリィ」、本編最終曲は「エイミー」。ランティスでリリースされた全シングルを発売順に全26曲歌い切るセットリストで、アンコールにはリリース前のシングルから「Christmas Night」を披露している。さらに、彼女のライブには絶対に欠かせない「旗」を生かした楽曲「Lush March!!」と、映像版ベストアルバムの様相を呈している。
バンドメンバーも後期茅原実里の常連メンバーが固め、まさに盤石。みのりん楽曲とライブに独特の色をつけた、ヴァイオリンの「大先生」室屋光一郎の出演する最後のライブ音源でもある。

濃縮ライブベスト「Minori Chihara 10th Anniversary Live ~SANCTUARY~」

これも茅原実里のバースデーライブ映像。デビュー10周年の2014年、彼女にとって二度目の武道館ライブだ。強い曲をたっぷり詰め込んだ、ベストアルバムの凝縮版と言っていい完成度。
このときのバンドメンバーは、「D-FORMATION」ツアーでのメンバーチェンジからさらに形を変えた、一度だけの編成となっている。初期茅原実里にハードロックの香りを吹き込んだギタリスト・鍋嶋圭一と、今では浜崎あゆみ現場でギターを弾くギターヒーロー・山本陽介の強烈なツインギター。同じく有名アーティストに引っ張りだこのドラムス・髭白健。キーボードは作曲家としての経歴の方が有名なElements Gardenの藤田淳平。一度のライブでも強烈に輝く、プロミュージシャンの底力が存分に発揮されている。

初期・茅原実里の集大成「Minori Chihara Live Tour 2010~Sing All Love~」

音源でも取り上げた、Sing All Loveツアー最終公演・日本武道館の映像だ。完成されたバンドメンバーである初代「CMB」に支えられ、はじめての武道館に立つ茅原実里は、緊張してほとんど眠れなかったという。それがSanctuaryのころには余裕だったというから、成長がよく分かる。Disc 2序盤にやってくる「究極の九曲」と名付けられた、ツアー中の日替わり曲メドレーたちを聴いていると、よくぞこれだけの楽曲を与えられてきたな、と思わずにはいられない。アルバムツアーでありながら、しっかり既存曲を生かし切る、初期だからこそできた満足の構成だ。

(次点)一度ラスト「Minori Chihara the Last Live 2021 ~Re:Contact~」

2021年のラストライブ映像。ラストアルバムとなった「Re:Contact」からの楽曲を取り入れつつ、続いてきた物語を締めくくるという意志に貫かれたライブ。「Contact」~「詩人の旅」、「Dears~ゆるやかな奇跡~」などの初期曲が輝きつつも、「君がくれたあの日」から続く楽曲たちの並びから、紛れもなく迫ってゆく終わりを感じずにはいられない。
ただ、このBlu-rayは上級者向けかもしれない。ラストライブとして必要なものではあるが、今から茅原実里を聴く人にとっては、必ずしも最適ではない。

その他

Minori Chihara Live Selection 2012

茅原実里のライブ音源をCD化し、コンピレーションアルバムとしてまとめ上げた作品。当時のプロデューサー・斎藤滋いわく、THE BLUE HEARTSの「LIVE ALL SOLD OUT」を参考にしたという。音源の一つ一つはBlu-rayなどで発表済のものだが、それらをまとめ上げるだけで違う輝きが生まれることに驚かされる。楽曲はほぼ時系列で並んでいて、都合よく切られていないことにも注目してほしい。
今でも私がよく聴く音源だが、2012年のバースデーライブの限定商品であり、一般販売されていない! やはりこれも、手段を選ばず手に入れて欲しい音源だ。

Minori with String Quartet 弦楽四重奏の調べ

デジタルとバンドサウンドが融合した茅原実里楽曲を、弦楽四重奏による演奏とボーカルだけでアレンジし、歌いきる。「アコースティックアレンジ」の比ではない、厳しい要求を成し遂げた名盤。たとえばゴージャスな「SELF PRODUCER」は、原曲よりも艶のある歌に楽器が徹底的に寄り添い、もともとがハードロックの「向かい風に打たれながら」は、ヘヴィメタルのような強烈な重低音を鳴らすチェロが爆走する。1st「Contact」から関わってきたスーパーヴァイオリニスト・室屋光一郎の編曲が冴え渡る、と評するしかない。この企画は、彼にしか絶対にできなかった。
そして、茅原実里作曲のオリジナル楽曲「YELL~あなたのそばで~」は、もう永遠に歌唱されないだろう。
CDとしては限定販路だったが、今ではサブスクで気軽に聴くことができる。

B-side Collection

2013年発売のカップリングベスト。アルバム曲を中心に聴く場合、カップリング曲は忘れられることが多いが、これがなかなか面白い。
茅原実里のサマーライブで披露されることの多い「Best mark smile」「赤い棘のギルティ」「Sunshine Flower」、SUMMER CAMP 3でPVを作成した「purest note~あたたかい音」、どう聴いてもシンフォニックメタルな「animand~agitato」「愛とナイフ」など、まあ自由、まあ贅沢。

ふたりごと

ランティスのアーティスト、TRUE「Sincerely」に収録された楽曲。アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のOPがTRUEで、EDが茅原実里「みちしるべ」だったことから、ふたりのデュエットが両方のCDに収録されている。圧倒的な歌唱力を誇るTRUEに負けない、茅原実里の個性ある歌が絡み合う。
この曲は、ふたりが同時にいないと当然演奏されないわけで、CDリリースイベントの際に披露されたきり。茅原実里が音楽活動を休止したことで、もとの組み合わせでは二度と聴けないと思っていたのだが、2023年の京アニフェスで演奏されてしまった!
「みちしるべ」のカップリング「White Ambitions」も同様の経緯がある楽曲だが、こちらも聴けるタイミングが来るのだろうか……?

SOUND MAJESTY

茅原実里のバックバンド・CMBがライブで演奏してきたインストをCDに再録した作品。プログレッシブロックを愛するキーボーディスト・須藤賢一の楽曲を中心に、テクニカルな変拍子楽曲が集まる。プログレやハードロック・ヘヴィメタルが好きな音楽ファンなら、そのバックグラウンドは聴けばわかるだろうし、インスパイア元もわかってしまうだろう。そして、彼らが演奏した茅原実里楽曲がどのような色を帯びるかも、ここから推し量れよう。
このアルバムも入手方法が少なく、サブスクも存在しない。


私のこだわり10曲

ここに記すには余白が狭すぎるので、次回にしよう。